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メディア広告営業における生成AIの活用方法

メディアの広告営業に限らず、属人的で構造化されていないことが多い営業という職能は、コンテンツ制作やマーケティングなどに比べるとデジタル技術、特にAIの活用が遅れています。実際、Hubspot Japanの調査によると、営業従事者のうち生成AIの意味や使い方を理解しているのはわずか8.9%で、61.3%は聞いたことさえないそうです。

Hubspot Japan

同時に、営業は生成AIの能力を活かすのに適した職能でもあります。営業プロセスで発生するクライアントとのメール、電話、オンライン会議などのコミュニケーションは全て大量のデータを生み出しますし、トランザクションの記録も適切に分析することで多くの示唆を生み出すことができます。それらは全て非構造化データですが、生成AIはまさにこのようなデータを処理することを得意としています。
それでも生成AIが営業に活用されていないのは、単に「気にしたことが無かった」や「使い方がよくわからない」といった理由です。

Hubspot Japan

逆に言えば、生成AIの活用方法を意識的に検討し営業プロセスに組み込むだけで、競合に大きく差をつけることができるかもしれません。
この記事では、メディアにおける広告営業においてどの業務にどのような生成AIツールを活用できるか全体像を俯瞰しつつ、例として具体的なツールを複数紹介していきます。

本記事で取り上げているソリューション

  • Customer 360

  • Regie.ai

  • Salesken

  • Zoom IQ

  • Quantified.ai

  • Next Atlas

  • beautiful.ai

  • Noteable


広告営業で活用できる生成AIツールの全体像

メディアにおける広告営業は、一般的なBtoB営業の進め方と基本的に同じです。クライアントや広告代理店を含む社外とのコミュニケーションは、「リード形成→営業活動→顧客管理」という流れで進みます。社内で発生する活動として、営業活動を通じて分かる担当者の強みや弱み、チームメンバーとして求められるスキルなどに応じた営業トレーニングがあります。
他業界と異なるのは、「広告プランニング」の箇所です。企業や案件にもよりますが、タイアップ記事の掲載時期や配信時間、媒体選定、記事内容の企画などのプランニングを営業担当が兼務することもあります。その場合、記事掲載後の効果測定や(デジタルの場合)改善プランの策定も担当することになります。

このうち、メインの活動となる「リード形成→営業活動→顧客管理」についてはMA(Marketing Automation)やSFA(Sales Force Automation)、CRM(Customer Relationship Management)のための専用基幹システムを導入している企業が多いです。基幹システムのうちSalesforceやMicrosoft、Hubspotなど大手ベンダーは既に生成AI機能をネイティブ統合しています。システムにも依りますが、多くの場合、顧客情報に基づくパーソナライズメールの自動生成、オンライン会議の自動要約、最新の顧客情報の自動アップデートなどの機能が含まれます(詳細後述)。
一方、基幹システムとAPI連携機能を提供している外部ベンダーも多数存在します。様々なソリューションが存在しますが、SNSやウェブサイトからリード顧客を抽出しロングリストを作成するツールや、オンライン会議をリアルタイムで分析し改善案をその場で提示するツールなど、基幹システムベンダーが提供していない機能を利用することができます(詳細後述)。
この点で、「リード形成→営業活動→顧客管理」については「基幹システムのネイティブ機能と、外部連携ツールの使い分け」が基本的な考え方になります。

次に取り上げる営業トレーニングは、基幹システムと連携できる外部ベンダーのソリューションを使用することが基本路線となります。それらのツールに搭載されている生成AI機能を使えば、基幹システムのデータを元にチームや営業担当者毎にパーソナライズされた研修を実施することができます。例えば、特定の営業担当者の弱みをカバーするためのカスタマイズトレーニング教材やシミュレーションシナリオを作成することができます(詳細後述)。

広告プランニングは、メディア企業に特有の活動であるため基幹システムから完全に独立しているツールを使うことになります。こちらも様々なツールや使い方がありますが、テーマのブレインストーミングやリサーチ、測定データからの示唆出しへの使用が考えられます(詳細後述)。

リード獲得→営業活動→顧客管理

Unsplash -  Cytonn Photography

前述の通り、「リード形成→営業活動→顧客管理」については「基幹システムのネイティブ機能と、外部連携ツールの使い分け」が基本的な考え方になります。

基幹システムのネイティブ機能

基幹システムは様々な国内外のベンダーが提供していますが、ここでは、例としてSalesforceのソリューションを概観します。
Salesforceは、Customer 360という統合型CRMソリューションを提供しています。「リード形成」で使用するMarketing Automation機能として「Marketing Cloud Engagement」があり、「営業活動と顧客管理」で使用するSales Force AutomationとCustomer Management System機能として「Sales Cloud」があります。なお、Customer 360にはこれ以外にもカスタマーサポートやEコマース、データマネジメント専用のクラウドサービスも含まれています。そして、その全てに「アインシュタインGPT」というOpenAIのテクノロジーを基盤とした生成AI機能が搭載されています。

Salesforce

「Marketing Cloud Engagement」は、メールキャンペーンの自動化やファーストパーティーデータを活用したチャネル横断での広告配信、キャンペーンデータのダッシュボード化などあらゆるMA機能を搭載しています。
アインシュタインGPTによって

  • 自然言語で指示を入力するだけで、 Data Cloud のプロファイルを照会しターゲットとする新しいオーディエンスセグメントを特定

  • キャンペーンの件名や本文を含むパーソナライズメールの作成・修正

  • プラットフォーム内のTypeface を使って文脈に沿ったビジュアルアセットを作成

などが可能になります(The Bridge)。

「Sales Cloud」は、商談管理や売上予測、人員配置管理など営業活動と顧客管理に関わる様々な機能を搭載しています。
アインシュタインGPTによって

  • 顧客情報に基づいたパーソナライズメールの自動生成

  • 電話やオンライン会議の記録から、会議内容の要約とToDoを自動生成

  • 顧客調査や会議準備、CRMの更新など営業業務の補助

などが可能になります(Sales AI)。

Microsoftは、MAをDynamics 365 Marketing、SFAとCRMをDynamics 365 Salesで提供しています。HubspotはMAをMarketing Hub、SFAとCRMをSales Hubで提供しています。これらのソリューションの全てに生成AIがネイティブ統合されていますが、基本的にはアインシュタインGPTと同じように、顧客データを元にしたメールの自動生成などのコミュニケーション補助機能と、営業ログを元にした会議の要約やCRMの更新などアシスタント機能がメインとなっています。なお、日本発のベンダーでもGENIEEが生成AI機能を統合しています。Kintoneにも、生成AI系プラグインが多数存在しています。

外部連携ツール

「リード形成→営業活動→顧客管理」において、基幹システムと連携する外部ベンダーは無数に存在します。ここでは、ユニークなソリューションを複数紹介します。

【Regie.ai】

regie.ai

Regie.aiは、エンタープライズ企業の営業向け生成AIプラットフォームです。SalesforceやHubspotなど主要なCRMと連携し、パーソナライズメールや電話スクリプト、SNS投稿など様々なテキストコンテンツを自動生成することができます。Chromeの拡張機能が提供されている他GmailやOutlookとも統合することができるため、基幹システムの種類に関わらず様々なツール上で生成AIのメリットを享受することができます。特徴的な機能として、リード顧客の情報をウェブページやLinkedIn、Twitterから直接取り込むことができます。これによって、ロングリストの作成からコールドメールまでシームレスに自動化することができます。

【Salesken】

Salesken

Saleskenは、オンライン会議中にAIがリアルタイムで商談の改善提案をしてくれる生成AIソリューションです。ZoomやSkype、Google Meetsなど主要なウェブ会議サービスの他、SalesforceやDynamics 365、ZohoなどあらゆるCRMとも連携できます。
Saleskenは、ユーザーまたはクライアントの発言を即座に分析し1秒以内に様々な情報を提示してくれます。「プレイブックガイダンス」機能は、ユーザーの商談をベンチマーク対象の優秀な営業マンの商談と比べた時、どの程度のパフォーマンスなのかリアルタイムで表示してくれます。アイスブレイク、ニーズの掘り起こし、プロダクトの知識、価格交渉など様々な軸で分析・評価してくれます。また、クライアントが営業担当者にどのような感情を抱いているか(信頼、満足、怒り、疑問など)分析する「エモーションガイダンス」機能もあります。

Salesken

営業トレーニング

営業トレーニングとは、顧客との関係構築やクロージングテクニックなどのコミュニケーションスキルの強化、媒体や広告メニューなど販売物に関する知識の習得、部署やチームが持つミッションや戦略の理解・浸透などが含まれます。従来の営業トレーニングは、全担当者に共通して習熟して欲しい内容を画一的に教育する営業研修や、部署やチーム毎にマネージャーが(時にはデータに基づかない)独自の方法で実施する現場教育から構成されていました。生成AIの登場により、日々の営業活動から得られるデータをインプットとして担当者毎にカスタマイズされたより科学的なトレーニングを実施することも可能になりつつあります。AIによる営業トレーニングは、2032年までに77億ドル規模になると言われている成長市場です(Techcrunch)。
これらの営業トレーニングソリューションは基幹システムにネイティブで搭載されているわけではなく、システムと連携する外部ベンダーのソリューションを利用して実施します。ここでは、代表的なサービスを2つご紹介します。

【Zoom IQ】

Zoom IQ

Zoom IQは、言わずと知れたオンライン会議システムZoomにネイティブ統合されている生成AI機能群の総称です。「Zoom IQ For Sales」は、クライアントとの会話を分析して様々な情報を提供してくれます。営業担当者向けには、会話ログの感情分析をベースに、クライアントから最も興味を引いた質問やトピック、アクションプランなどを表示します。また、話すスピードや時間、フィラーワード("えーっと"など会話の間を埋める言葉)の頻度なども可視化されます。マネージャー向けには、会議のスクリプトから改善ポイントを自動ハイライトしたり、会話に対するクライアントの感情変化を分析することによって、より科学的なフィードバックを組み立てることができます。
ZoomはSalesforceやDynamics 365と連携することができるので、一連のデータをCRMに紐づけて保存することも可能です。

Zoom IQ for sales

これらのデータをベースにトレーニングプランを組み立てることで、営業担当者毎にパーソナライズされたより科学的な研修を実施することができます。

【Quantified】

Quantified

Quantifiedは、営業トレーニング用のAIシミュレーションサービスを提供しています。OutlookやG-Suite、Zoomと連携することで、実際のクライアント情報や会話ログを元にしたリアルな環境でトレーニングを実施することができます。例えば、営業現場で実際に起こり得る質問内容が自動生成され、AIから問いかけられます。なお、シミュレーションはリアルなアバターが実際の人間のように口元や表情を動かしながら実施してくれるので、その点でもよりリアリティが感じられる仕組みとなっています。
シミュレーションの内容はマネージャーにフィードバックされ、担当者のセールストークや製品知識に関するデータが可視化されます。これにより、担当者毎にさらに的を絞ったトレーニングを行うことができます。

広告プランニング

メディアの広告には様々な種類がありますが、クライアントのニーズに基づいてオーダーメイドのコンテンツを制作し掲載する形態の広告を「タイアップ広告」と言います。代表例としては、雑誌に自社製品の魅力を記事形式で掲載してもらうことが挙げられます。通常、タイアップ広告の制作やコミュニケーションはコンテンツチームが担うことが多いです。ただし、「誰に・いつ・どこへ」というターゲットを明確にし、掲載メディアやコンテンツの内容を考案したり、(デジタルの場合)広告効果を検証し改善案を立てるプランニング業務は営業が担当することもあります。プランニングはメディア業界に特有の業務であるため、基幹システムにネイティブ統合されていたり連携するソリューションはまだあまりありません。従って、独立ツールを活用することが基本路線となります。

タイアップ広告の例 - ロコ・ラボ

コンテンツ制作は、基本的に「企画→情報収集→ドラフト作成→校正→掲載→効果測定・改善案策定」というプロセスに沿って実行されます。広告コンテンツの場合、各ステップの間にクライアントレビューが入ります。このうち、プランナーが担当するのは「企画」と「効果測定・改善案策定」の二つです。ここでは営業がプランナーを兼務する際、両ステップに役立つ生成AIツールを複数紹介します。

広告プランナーの担当範囲

【Next Atlas】

Next Atlas

Next Atlasは、自然言語で質問すると最先端のトレンドを抽出・提示してくれるGPT-4ベースの生成AIサービスです。30万人以上のアーリーアダプターを中心としたソーシャルメディアのデータを毎週250万件以上リアルタイムに更新しており、微弱なトレンド変化を捉えることができます。時系列での変化だけでなく、特定の業界やキーワード、オーディエンスセグメント毎の変化も追跡することができます。なお、Next Atlasは個人を特定できるデータは使用しておらず、一般にアクセス可能なソーシャルメディアコンテンツのみGDPRの基準に沿って収集している点も安心することができます。

Next Atlas

【beautiful.ai】

beautiful.ai

beautiful.aiは、生成AI機能を取り入れたスライド作成サービスです。自然言語でリクエストを入力すると、デザイン性に優れたスライドを自動生成してくれます。例えば、「Pie chart of market share of social media networks(SNSのマーケットシェアの円グラフ)」と入力すると、以下のようなスライドが自動出力されます。同社HPのトップページから会員登録せずに無料で試すことができます。

beautiful.ai

単発のスライドだけでなく、概要を入力することでプレゼン全体を作成してくれる機能や、スライド内で使う画像を生成する機能も存在します。なおこれらの機能はあくまでbeautiful.aiの一部分で、サービス全体としてはプロフェッショナルで魅力的なプレゼン資料を簡単に作成するための様々な機能を利用することができます。デザイナーが作成したテンプレートをベースに、レイアウトの自動調整や画像サイズの自動変更、ブランドカラーやフォントの統一などスライドの質を向上させるAIアシスト機能が多数存在します。

【noteable - ChatGPT プラグイン】

Noteable

データ分析ツールであるNoteableは、ChatGPTのプラグインを公開しています。Noteable本体はクラウドベースのウェブサービスで、本格的に使いこなすにはPythonや統計の専門的な知識が必要ですが、ChatGPTと連携したことで誰でも簡単に自然言語で使うことができるようになりました。

デジタル広告の場合、Google Analytics等の分析環境からダウンロードしたデータをNoteableのプラグインに読み込ませるだけで、自然言語ベースで専門的なデータ分析ができるようになります。こちらの記事に具体的な使い方とイメージが詳しく記載されていますので、ぜひご覧ください。

ジコログ

PVやUU、直帰率など基礎的なメトリクスであれば既存のアナリティクスツールから十分取得することができます。ところが、そのデータを分析して改善に向けた示唆を出したい場合、Noteableを使いこなせば営業担当者でも自然言語ベースで処理することができます。

Liquid Studioについて

Liquid Studioは、Media&Entertainment業界に特化したコンサルティングスタジオです。Generative AIなど、最先端デジタルテクノロジーに関するリサーチや計画立案、実行支援に強みを持ちます。メンバーには、ビジネスコンサルタントだけでなくAIエンジニアも在籍しており、ビジネスとテクノロジーの両面からお客様のビジネス変革をサポート致します。
HP: https://www.liquidstudio.biz/
公式Twitter: https://twitter.com/_liquidstudio_

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