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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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2022年5月の記事一覧

かたはね Ⅲ

かたはね Ⅲ

追うもの

しっとりとした朝だった。

いつもと変わらず太陽が昇っている。奇跡的なことだというのにあまり感動はしない。枕元に自分の手の影を映して生きていることを確認する。何かが崩壊してしまった後のような空虚さがまた滲み湧いてくる。そして必ず公園に埋めた蝶のことを思い出すのだ。

あれは確かに蝶だったはずだ。育てて羽化不全として死んだ蝶だ。しかし本当に蝶だったのだろうかと時たま思う。まごう事なき、本

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かたはね II

視点転換

ここは富士の八合目あたりだろうか。鉄錆の映える柵が雲になるガスにまかれて垣間見えるその景色は個人的にとても好きだった。         湿気がまとわりつき幼虫が蛹を作る前の繭の糸をくくっている視界を想像できるからだ。滲んだ白とグレーが延々と広がるその景色は私を迎えてくれている気がした。遠近感もバグっている。多分ものすごく遠いところにある景色が近く感じ、時間は止まっているかすごくゆっくり

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かたはね  Ⅰ

かたはね  Ⅰ

この世界は平面であった。
かぎりなく、宇宙空間とその間に至るまでの全てがただの輪郭でできており、私はそこを滑走しているにすぎなかった。

この日私は大きな発見をした。
この輪郭はりんごと同じであることを。
りんごの外側、つまり輪郭をなぞって延々と繰り返し滑走しているだけにすぎなかった。

りんごの中身は闇である。

闇のまま育ち、もぎ取られて切られるか地面に落ちて中身が見えると私たちはりんごは白か

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