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冬のクサカゲロウ

昨年の12月、待降節が始まってまもなく、雪の降ったあとのことだった。
朝、キッチンの戸棚の扉に小さい虫がとまっていた。クサカゲロウの仲間らしい。

夏の夜には灯りの下にたまに見かけるものの、この季節には珍しいので写真を撮った。

体長はだいたい1cmほど。色がだいぶ濃く写っているが、実物はずっと淡い色合いで、羽は透けるように薄く繊細で美しい。

特に虫好きというわけではないが、眠っているようだし、なんとなく外には出さずにそのままにしておいた。

昼過ぎに見たときにはもうそこにはいなかったが、翌朝また同じ扉にとまっていた。
明くる日も、またその次の日も、少しずつ位置は変わっているものの、毎朝戻って待っているかのようだった。

こうなるとなんとなく情がわく。
一週間がたったころから、「いつかはいなくなってしまうのだろうな……」と、不安ともつかずさびしさともつかない気持ちが生まれた。

それからも律儀に毎朝そこにとまっていたが、ちょうど二週間目の朝、姿が見えなくなった。

「そうか…」と「いや、どこか別のところにいるのかも」という考えが行ったり来たりする宙ぶらりんな気持ちで家事のルーティンをこなしていると……

それは掃除機をかけていた時だった。
じゅうたんの上に、もう動かないクサカゲロウがいた。

あれほど小さい淡い色の虫で、しかも細かい模様のあるじゅうたんの上だったにもかかわらず見つけられたのは、奇跡のようだった。

紙ですくって庭に小枝で穴を作り、そっと置いて土をかけた。
「さよなら」を言えてよかったと思っている。

書いている途中で気がついたのだが、写真をとった日付は12月7日。親友の命日だった。

「やだ、虫にしないでよ」というMちゃんの声が聞こえるようで、ひとりで声を出して笑ってしまった。


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