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天上のアオ 4

時空間座標:2xx91x。計測値に異常。


端末で確認したターミナル駅に向かう私と彼。ひび割れたコンクリートの道を抜け、どこか知らない家の庭を抜け、住宅地エリアを進む。

抜けるような青空だ。それも彼の精神状態が影響しているのか、時折モノクロのノイズが走っているが。この世界自体がまだ崩落せずに形を保っていることに安堵する。彼はまだ諦めていないのだ。

彼と私は言ってしまえば共犯者だ。同じ十字架を背負っている。私たちは罪を犯した。その結果としてこの世界を放浪している。

『ただわかってほしかった』

そうだね。でもその思いに飲まれてしまったんだ。あなたはちゃんとした伝え方を知らなかった。それが結果として罪につながった。

『一緒にいたかった』

わかるよ。あなたは私だからね。でもそれは私たちの都合なのかもしれない。私たちはもう昔のように受け入れられる存在ではなくなってしまったんだよ。自分の行いによって。

この世界は核たる彼の記憶や感情から形成されている。だから意味のないものなんてひとつもない。すべてのものに意味があり、すべてのものに役割がある。

そんな中で意味も役割も価値も見失いかけているのが彼だ。
己が十字架の重さに耐えられず、痛みの記憶だけを反芻して、体はなんともないのに心は血みどろで、それでも歩き続けている。

罪を犯した私たちがいるここが仮に煉獄だとして、その先に赦しはあるのだろうか。それはわからない。少なくとも赦しとは、自らによって与えるものではないと私は思う。

『謝りたかった』

うん。結局叶わなかったけどね。ごめんなさいって言いたかったよね。それを相手が受け入れてくれるかどうかはわからないけど。私だって謝りたいよ。同じ気持ちなんだから。

『死にたいのに死ねないんだ。それがどうしようもなくつらいんだ』

約束があるから。あなたが死にたがりだって、私はよく知ってるよ。その葛藤が苦しいんだよね。あの子はあなたが帰ってくるってきっと信じてるよ。だから生きて会いにいかなくちゃ。

少し、涙が滲んだ。
彼の持つ喪失感と郷愁の念は、私も受け継いでいるから。
人間の相互理解は理想論だけど、私とあなたに限ってそれは現実のものなんだよ。

袖で涙を拭いて歩き続ける。
強く目を擦ってしまった。きっと赤くなっているだろうが、それを気にする相手はここにはいない。

『生きているのが苦しいんだ』

それは必死に生きようとしている心が感じる痛みだよ。とても大切な痛みなんだよ。あなたが生きることを諦めたくないっていうことの証拠なんだよ。

双眼鏡と一緒に首から紐で吊っている簡易計測器を手に取る。
反意識場汚染は変わらずグリーン安全域。意味消失はもちろんだけど、有害実体に襲われる可能性も低いことがわかる。数少ない『武器』を使う必要もなさそうだ。

当座の目的地である駅までは直線距離で3kmほど。

終わりのないこの旅路は、結局私たちの罪深さを教えるためのもの。
背負った十字架の意味を理解させるためのもの。

だから逃げ場はない。
逃げられない。
逃げてはいけない。

ブロックパターンの迷彩服にベストとバックパック。軍人のような出で立ちの私たちは、しかし誰かを守る存在ではない。この世界に守るべき存在はいない。まあ、強いて言えば私は彼を守らないといけないのだけれど。

砂利道を越え、団地の公園のような場所に出る。
ブランコで楽しそうに遊ぶ子どもの姿が一瞬、見えたような気がした。

そうだね。必ず生きて会いに行こう。


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