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カネコアヤノ単独演奏会『タオルケットは穏やかな』金沢DAY1 & 21世紀美術館『コレクション展 1』

カネコアヤノさんの演奏会は,7 月の大阪城野外音楽堂以来 2 回目.前回はバンドセットでの演奏だったので,弾き語りは初めて.じむさんとふたりで日本海沿いを車で 5 時間ほどかけ(*1),カネコアヤノさんのほか BiSH銀杏 BOYZリーガルリリーI’s などを聴きながら約 10 年ぶりに金沢へと向かった.

金沢 21 世紀美術館『コレクション展 1』

会場のシアター 21 がある金沢 21 世紀美術館に到着したのは 17 時ごろ.すこし時間があったので,『コレクション展 1』をひとりで見ることに.ぼくはもともと,最初に展示全体を流すように見て,そのあと気になった作品の前に戻ってじっくり見る,という回り方をするのだが,今回はあまり時間に余裕もないのでとりあえずいつも以上に足早に見て回った.すべての展示室を回ったあとは,10 分ほどまだ時間に余裕があったので,川内倫子さんの部屋で過ごすことに.展示室は直交する壁にプロジェクター投影された 5 分少しの動画 2 面で構成された作品の部屋と大小のラムダ・プリント 11 枚が 4 面に展示された部屋の 2 部屋に分かれるており,平日の閉館間際であったためか,スタッフの方を除いてぼく以外だれもいない環境で鑑賞することができた.いずれの映像も湿度が感じられるほどに近く,しかし迫ってくる(たとえば石内都さんの写真がそうであるような意味において)ような感覚はなく,むしろ近づこうとすればするほどに遠ざかっていくような手触りで,しかし寂しいというよりは穏やかな居心地の好さを感じる空間だった.この展示と,前回訪れたときも鑑賞したアニッシュ・カプーアさんの « L’Origine du monde »(*2)を見ることができたおかげで,万全のコンディションでカネコアヤノさんの演奏会に向かうことができそうだと感じた.

カネコアヤノ単独演奏会『タオルケットは穏やかな』

開場の 18 時半をすこし過ぎ,列が短くなったころを見計らって入場.流れていた音楽はたしかブライアン・イーノのアンビエントだったと思う.今回の演奏会の客席は 13 × 13 の階段状の座席に最前の 1 列を加えた 182 席.ぼくたちの席は 7 列目のちょうど前後左右中央あたりの位置.客層は全体的に若めの印象.舞台上には 3 本のギター.サウンド・チェックでクリーン・トーンと歪んだ音とを響かせるフェンダーのムスタング(*3)に期待が高まる.開園予定時間の 19 時すこし前に注意事項のアナウンスがあったあと,10 分ほど過ぎてからぼくたちが入場してきたの同じ下手の入り口から黒いワンピースを纏ったカネコさんが現れた.ここで拍手のない演奏会は初めての経験だった(*4).カネコさんとの距離は,眼鏡をかけても 1.0 を切るぼくの視力では表情がつぶさに見て取れるというほどではないが,かなり近い.最初に手に取ったギターはギブソンの J50.客席全体が固唾を呑んでチューニングを見守る最中,一度鼻を擦る仕草をされたのが印象的だった.

1 曲目は大阪野音のときと同じくタイトル・チューンである「タオルケットは穏やかな」.この時点で少し涙ぐむ.1 曲目から涙ぐんだのは,ラスト・ライヴであった BiSH の東京ドーム公演を除けば,リーガルリリーを初めて生で聴いた今年 4 月の京都磔磔公演以来 2 度目.ここから数曲,歌声と J50 のサウンドとカネコさんの表情に圧倒される時間が続く.大阪野音の時よりもはるかに近い席であるにも関わらず,自分とカネコさんとの距離はむしろいままでで一番遠いと感じた.舞台は会場の底にあるので,音は下から響いてくる.座って見るようにアナウンスがあったこともあってか(*5),身じろぎもせず聴いている観客がほとんど.ぼくはカネコさんが孤独に客席と対峙しているかのような思いにとらわれた.

7 曲目の「こんな日に限って」.紛うことなき傑作アルバム(*6)『タオルケットは穏やかな』のなかでもとくに好きな曲である.涙が頬を伝う.歌詞に合わせて自然と唇が動く.舞台上のかの女から客席はどのように見えているのだろうか.すこし彼我の間の繋がりを取り戻せたような気がした.9 曲目の『もしも』からムスタングに持ち替えての演奏が続く.大阪野音の同曲からの流れとは少し種類の違う陶酔感.せっかく近くで見ることのできる席だからといって目を瞑るという選択肢を捨てるのはむしろもったいない.ときに仰ぎながら,あるいは俯きながら,音だけの空間に身体を置く.

1 曲だけカントリー & ウェスタンに持ち替えたあと,残りの数曲はふたたび J-50 の力強いサウンド.身体でリズムを取らずにはいられない.立ち上がれないのがもどかしかった.今回の会場の雰囲気にはあまり合わないかもしれないが,弾き語りであってもシンガロングが発生してもいいと感じた曲もいくつかあった.

全 18 曲の演奏を終えたあと,カネコさんは言葉少なに挨拶を述べて下手に掃けていった.アンコールはなし.余韻に身体が重く,満足感は強い.ただこの演奏は,シアター形式のこの会場よりも,北海道のガラスのピラミッドや島根の興雲閣で聴きたかったという思いは残った.

最後に.カネコアヤノさんの演奏は,バンドセットでの演奏はもちろんのこと弾き語りについても,居住まいを正して拝聴する,というようなものになってしまってはいけない.そうあらためて感じた.舞台上のかの女と客席の自分との距離を今後も測っていきたい.

  1. 滋賀を出て国道 305 号線で越前海岸沿いを走ったあと,加賀 IC から北陸自動車道を利用した.

  2. 「世界の起源」の意.この作品をご覧になる方には,ぜひ自分なりのベスト・ポジションを探してほしい.

  3. 以下,ギターのモデルについてはおそらくそうであろうというものであることに留意されたい.使用機材については《ギター・マガジン Web》の2021年の記事のほか,《ギター・マガジン》 2023 年 3 月号にも記載がある模様.

  4. なん度か単独演奏会に足を運んだ方の話によると,拍手の有無は半々ぐらいらしい.

  5. そもそもカネコさんの演奏会はじっと座って静かに聴く,という傾向がつよいらしいが.

  6. シューゲイザー的な要素の入ったサウンドは好みの分かれるところかもしれないが.

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