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高齢者の疾患と生活習慣・環境

高齢者の飲酒

暑くなってくると、ビールがおいしく感じられますね。年中おいしい方も多いと思いますが、今回は高齢者の飲酒についての体験を記します。

高齢者の飲酒について
高齢者の飲酒と健康 

ケアマネとして担当していたAさんは、一人暮らしの80代の女性。認知症はなく、整形的疾患も日常生活に支障をきたすほどではない方で、介護保険の認定は要支援1。遠方に住む娘さんが週一回来られて一緒にごはんを食べたり、月に何度か孫やひ孫さんが遊びに来られることもありました。高齢になってからご主人の浮気を疑うようなことがあり、その時から精神科で安定剤を処方されていました。ケアマネとして担当した当初に生活状況を伺っていると、「安定剤を飲んでから、おちょこ一杯だけ焼酎を飲んでいる。」と話してくれたことがありました。アルコールと精神安定剤や眠剤、抗不安薬の併用は禁忌です。Aさんにもそれは止めた方がいいですよ、と伝えると「先生も知っている。」「大丈夫よ。」

Aさんは、友人に誘われてデイケアに通っていました。穏やかな方で他者交流も良好、塗り絵やリハビリを楽しまれていましたが、数年経つ頃に捻挫や打撲が見られるようになりました。リハビリ担当者の評価を聞くと、身体機能の低下はみられないと言われます。ご本人は一人暮らしなので食事や買い物の支援にヘルパー利用を勧めますが拒否されました。さらに2~3か月経つと階段を踏み外し、肋骨骨折で入院。顔面から転倒し口腔内を怪我したため、しばらくは固形物も食べられない状態でした。退院しても一人暮らしは厳しいと判断し介護保険の区分変更をかけますが、認定調査を受けるころには状態も安定し、介護度は変わりませんでした。居室は1階に移し、座卓はテーブルに替えるなど思いつく限りご家族も協力してくれましたが、その後も打撲や捻挫は続きます。腕や足など毎回違うところを受傷していました。デイケアの職員からは、やはり認知機能や身体機能に変化はないと言われ途方にくれていた時に、ある酒好きの職員が教えてくれました。ご本人に、「お酒を飲んだら知らない間にあっちにぶつけたり、こっちにぶつけたりすることあるけど、そんな感じ?」と尋ねてみたら、やはりそうだったと。

同じ頃、Aさんから「眠れないから薬を増やしてほしいと先生に言っても出してくれない、一緒に言って話をきいてほしい。」と言われました。話をきくと、20時に安定剤を服用してからベッドに入り、途中で眠れずに飲酒しているようでした。娘さんにも伝え、一緒に精神科を受診すると、飲酒はもちろん厳禁で、眠剤は増やさず服用時間は22時にするように指示されました。娘さんは家にあるお酒は全部片づけたと話す隣でご本人は、「そんなことしても買いに行くし。」
仲の良いご家族なのですが、数年経つとそれぞれの家庭環境の変化もあり、ご本人宅を訪問する機会が減っていたこと、仲の良い姉妹が亡くなったこと、精神疾患と思われる隣人からのご本人に対する被害妄想なども飲酒量が増えた要因だと思います。また、ご本人は眠れないと朝デイケアの迎えの時間に起きられなくて、迷惑をかけるかもしれないとの思いもあり、早く寝ないといけないとの焦燥感もあったようです。前回、高齢者のうつ病を記しましたが、Aさん宅も日当たりはあまりよくなく、日差しが入る部屋では過ごしていませんでした。

老健の相談員時代には、一人になると自販機にアルコール飲料を買いに行ってしまう母親を施設入所させたいと相談されたこともあります。その方は入所されましたが、特に飲酒を訴えることもなく、穏やかに集団生活を送れる方でした。どちらも手厚い見守りがあれば質の高い生活を過ごせる方でしたが、認知機能、身体機能ともほぼ自立されていたので現行の介護保険制度では介護度が出にくく、支援が難航したケースです。

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