見出し画像

アメリカ司法システムから考える、水原一平の違法賭博で、何がどういう風に起こったのか

いやでも目に入ってくるニュースなんですが、日本のマスゴミでコメンテーターががあまりにも無知でトンチンカンな解説をかましているし、アメリカの法律に詳しい弁護士コメンテーターの先生方は、いつもworst case scenario(最悪の事態)をかまして、おどろおどろしい見出しになってるし、だからここではmost likely(いちばん可能性の高い)事情を書いていくよ。

実はアメリカの警察って、違法賭博でギャンブルしている人を狙って調査したり、罰したりしないんですよ。日本だとスキャンしたマンガをアップロードしたり、海賊版を入手した”末端の”ユーザーが検挙されるケースが多々あるけど、米警察やFBIが追いかけているのは、あくまでもいわゆる”元締め””胴元”と呼ばれる、違法ギャンブル組織のボスや、賭け金を集めてくるブッキー/ブックメーカーであって、そっちがまず摘発されて、そこから立件するための捜査のプロセスで、違法にお金を賭けてたギャンブラーの方の人たちが”クライアント”として芋づる式にバレていくんですよね。

今回、水原氏が違法賭博をやっていたのが明るみに出て、解雇となったわけだけど、彼が使っていた違法賭博のブッキーはマシュー・ボイヤーって名前で、昨年の10月時点ですでに、自宅に連邦捜査官が令状とって踏み込んでいます。このニュースを20日づけでスクープしたのはロサンゼルス・タイムズなんだけど、4人の連名で書かれた第1報を見れば、スポーツ記者は1人だけで、あと3人のうち2人はカリフォルニア州の汚職事件専門の調査報道記者だとわかります。大谷選手や水原氏にばかりぶら下がっている日本のスポーツ版記者には取れなかったスクープですわな。嫁が可愛いとか、家族ぐるみで応援してて微笑ましい、とか、そういうエピソードばっか追いかけてるからね〜。

そして他の詳しい情報は一番早い時点で水原に凸したESPNの記事がやっぱ1番詳しい。 これ以上のものは日本のメディアからは出てこないじゃろ。しかもESPNは去年、Barstool Sportっていう合法なスポーツ賭博サイトを買収してESPN BETと再ブランドして、スポーツ賭博の裏事情にも詳しい社員を大勢取り込んだところだろうし。

おそらく、連邦捜査官がマシュー・ボイヤーとボスたち立件の準備として調査してた時に、送金者名簿から大谷選手の名前が出てきたんで(パスポートではOhtani表記ではなくOtaniらしいね。私もOharaであってOhharaじゃねーしな)、それが大谷選手の弁護士やエージェント、そしてさらには球団側に伝えられ、彼らがそれが事実なのかを確認するプロセスで、ギャンブルをしていたのが水原氏だとわかり、本人も認めたので、即解雇、となったものでしょう。

この辺から、いろんな情報が錯綜しているようだけど、水原氏が「違法だと知らなかった」って言うのは信ぴょう性ないな。そもそもカリフォルニア州はスポーツ賭博全面禁止してるんで、ドジャースのクラブハウスから合法なスポーツ賭博サイトにアクセスしようとしても「カリフォルニア州からはダメだよーん」と弾かれるとか、あるいはサイトに入れても、いざお金を賭けようと、クレジットカードを登録しようとした時点で、カリフォルニア州発行のカードも、日本の銀行のカードも蹴られるはず。

皆さん、大谷/水原の共同名義口座があったとか、銀行口座から勝手に送れるわけないとか、日本の銀行法であれこれ言ってるようですが、ESPNが記事で書いているブッキーへの送金方法はwire transferっとなってます。SWIFTやFedWireという正規のワイヤーサービスなら、1万ドル以上の送金はFlagといって報告義務があるんだけど、違法賭博の人たちは普通にもっとデカい金額を受け取れるようにしてますって。とりあえずwire transferって昔からアメリカ国内で急いで現金を送れる一番ヤバい/甘いやり方なので、これを使う時点で、弁護士に相談するくらいの前知識が大谷選手にも欲しかったですね。Venmoならいい、って話でもないけどなw

カリフォルニア州がこんな感じなので、手持ちのお金がなくても「スポーツ賭博やりてぇ〜」って人は、どうしてもブッキーがやってるサイトに行き着くことになります。その時点で、あれ?カリフォルニア州在住なのにギャンブルできるじゃん、おかしくね?ってなるのが普通なので、それでも合法だと思ってやっちゃいました、って言い訳は甘い。だって合法なサイトなら、bets on credit、つまり売掛金が発生するような賭け方はできないんですよ。まあ、そこんとこはブッキーが水原氏に合法だってウソついて騙したんだろうし。

全米で見るともう40州近いところでこのオンラインスポーツ賭博は合法になってるんだけど、カリフォルニアだけ何度も住民投票やっても合法化法案が却下されてるから、不思議だなぁ、とは思ってたんです。他のゲーム賭博は普通に合法なのに。で、西海岸の人に聞いたらすぐにその理由が判明。このゲーム賭博は主にネイティブインディアン主導で、彼らの政治力が結構強くて「わしらがちゃんと恩恵に預かれないオンラインのスポーツ賭博はダメ、客取られるのヤダ」とゴネ続けているからだそうな。ちょっと「キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン」思い出しちゃった。利権って怖いw。

ちなみにアメリカでは、8年前に全米でスポーツ賭博を禁じていた法律が、最高裁で違憲になっちゃって、6年前ぐらいから州ごとに法律がまちまちになっちゃってややこしいんですよ。ここのサイトがわかりやすいかな?

まぁ、ギャンブル依存は病気ですからねぇ。できちゃうならやっちゃうんだろうしね。それと、この時点で当然のように「スポーツ賭博」って断定しちゃってますが、どう考えてもオンラインカジノで、大人しくルーレットとかポーカーで済んでるわきゃないっしょ。スポーツ賭博ってのはゲームのルールだとか選手のプロフィールや成績とかに、詳しい人にほど面白いんですよ。

日本でも最近はスポーツの試合の結果を当てるtotoくじあるけど、せいぜい勝つか負けるか、試合の結果を当てていくわけでしょ。シンプル。他には競馬や競輪とかあって、この馬のトレーナーや騎手が誰で、血統がどうだとか、雨に強いとか、ライバルが出てくると俄然張り切るオンマさんとか、色々府中競馬場に向かう京王線の中でおじさんたちが真剣にやってるけど、全レースで単勝、複勝とかその位でしょ? アメリカだとこれがアメフトとかベースボールというチームスポーツになるわけよ。果ては今度のノーベル賞誰が取るか?ってネタまでやってるがw

つまり、勝敗の結果が出るまでの要素が複雑で、賭け方も千差万別、無限に広がっていくわけです。勝った、負けたのパターンじゃ、いくら当てても天文学的なリターンにはならんよね? でもチームスポーツだと、”意外な結果”が出た時にいちばん配当金が多くなるんですよ。ずっとスランプだった選手がいきなりホームランとか、ここぞというときに打てるはずの選手が空振りするとか、そういう要素ね。だからそのスポーツの知識があれば、なんか予想できるような気がしちゃうわけですよ。

そしてここからはギャンブルとドーパミンの話になるんだが、スポーツ賭博だと、狙っていた結果が出た時よりも、”勝てるかも”と感じている時にドーパミンがドパドパでるんだとか。そして人間、負けそうでも勝てると思い込むもの。ハイの状態が他の賭博より長持ちするんですな、恐ろしい。

私も昔、学生時代にギャンブル時のドーパミンだかアルファ波だかの測定の実験ネズミにブラックジャックでボランティアしたことがあるんだが、結果は…「勝った時にちょびっとだけ出る」というショボい結果に。いや多分、これが本当にカジノにいたら「換金する時」にもう少しドーパミン出せたと思うんだけど、お金はもらえなかったんだよ(当たり前だ)。そう、私、ギャンブルに1ミリの魅力も感じず興味が持てず、生まれて初めてベルモント・レーストラック(ニューヨークにある有名な競馬場、トリプルクラウンの1つ)に連れて行ってもらった時もパドックでひたすらオンマさん見てて、「目が合った」とか「あの子、ソワソワしてて可愛い」で決めて馬券買ってました。連れて行ってくれた上司に「あのゾーキンみたいな色の馬に賭けました!遠目からでもわかりやすいですよね、行け!ゾーキンちゃん!」って言ったら「君、それ、葦毛って言うんだよね」と悲しそうな顔をされたのを思い出します。でもゾーキンちゃん、勝ったからそのレースだけ単勝で20ドル儲けたんだよw

脱線しすぎた。すまぬ。

だからアメリカのプロスポーツリーグも、選手に対して、ゼーったいに自分がやってるスポーツでギャンブルするな、ってしつこいくらい教育してます。どうしても「八百長」につながっていくから。古くは1919年にシカゴ・ホワイトソックスがワールドシリーズで八百長したとされる「ブラックソックス事件」(ケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」で、トウモロコシ畑から八百長嫌疑をかけられてリーグ追放されたホワイトソックスの選手たちがわらわら出てくる)から、1989年にメジャーリーグから永久追放でいまだに殿堂入りが許されないピート・ローズまで、スポーツ選手のスポーツ賭博には厳しいのがアメリカ。(個人的には、生きているうちに殿堂入りさせてやれよ、と思ってる。もう80越えのジジイだし、あの体型だから、先長くないよ、きっと)

しかーし、大谷選手から送金された分に、水原氏がベースボールに賭けていたお金が含まれていれば、これは大ごとです。今のところ、水原氏は他のスポーツで、絶対ベースボールには賭けていない、と言ってますが、潔白が証明されない限りは、やっぱりアメリカ人からしてみれば、永久追放だ!長期謹慎だ!って言いたくなる人もいるでしょう。日本人にしてみれば、大谷選手はどこのチームにいても日本の誇り!みたいな立ち位置ですが、アメリカ人でドジャース以外のチームのファンにとっては、「目障りな外人助っ人」になるわけですから。

いやそれが、選手ではなくMLの通訳者だったらどうなんかい?って話なんだろうけど。今回はどうやら、違法賭博で大損こいた水原氏の代わりに、大谷選手が直接そのブッキーにお金送ったってことなんでしょうね。内緒で「払っちゃるから、もうするなよ」っていう情けをかけたのはわかるけど、それだとどうしても大谷選手名義の銀行口座から違法賭博サイトに送金があった、ってことになっちゃうでしょ。だから水原氏が大谷選手を庇う意図もあって「勝手に使い込んだ」って言っちゃったんでしょう。あるいは大谷選手の弁護士やエージェントも、とりあえず今は否定しておきたいだろうし。ここで色んな説が飛び交っているのは、それが弁護士が法定の場やMLのコミッショナーがこれから取り掛かるであろう調査委員会相手に、複数パターンのディフェンスを用意しておきたいからです。ほら、弁護手段として、「アリバイがある」とか、「insanity defense(犯行当時心神喪失だった)」とか。ここにわかりやすいリストがありますね。

ここだと、6番のDefence of Others(つまり水原氏を庇った)とか、10番のMistake of Law(違法だとわかっていなかった)とかですな。ま、刑事裁判になった場合の話ですが。

ちなみに水原氏が「生涯収支マイナス7億円君」というのも、日本的な考え方で、何ミリオン賭博で負けようが、「違法賭博をした」ことに関して言えば、カリフォルニア州ではmisdemeanor、つまり軽犯罪に当たり、最高で罰金1000ドル/服役364日で、初犯なら保護観察処分がほとんど。ギャンブルの更生プログラムでもやったら不起訴処分になる感じ? とりあえず大谷選手側の弁護士事務所が横領で告訴しようとしているみたいですが、これだって大谷選手が自ら進んで代わりに支払ったことが明らかになれば、有罪になったとしても被害者側からの陳情があれば7億円分耳揃えてきっちり返せ、とはならないわけで、マイナス7億円とはならんわな。

ツイッター(私はアンチイーロンなので口が裂けてもXとは呼びませんw)では、大谷選手が水原氏のインスタグラムのフォローを外した、ってことも話題になってたけど、これは大谷選手が冷たいから、とかいう理由ではありません。下手するとこれから連邦裁判で、なぜ自分の口座から違法賭博サイトへの送金があったのか、大谷選手自らdepositionと呼ばれる口頭尋問に応じなければならなくなるか、あるいは送金したお金の賠償を求める裁判を起こさないといけなくなる可能性大なので、参考人となる大谷選手と被告となる水原氏が直接コンタクトをとるのはダメです、って弁護人から言われての行動でしょう。

大谷選手に対して出場禁止などの措置が取られるかどうかは、MLコミッショナーの胸3寸ってとこかな。まぁ、彼にはアンドリュー・ブレットナーという優秀な弁護士ついとるし、MLにしても、大谷選手に謹慎言い渡しても良いことないしな。

つまりは、大谷選手が水原氏の違法賭博のことを知らされたり、何億円ものお金が送金されていたことを知ったのは、昨日や今日のことじゃないって話なんで、今回、大谷選手のファンの人たちが、「彼のパフォーマンスに影響ががが」とか心配しているのも見かけるんだけど、それも杞憂ですな。あれだけのパフォーマンスができるスターなら、それこそ周りは利用してやろう、甘い汁を吸ってやろう、って輩が取り巻いてくるのがアメリカ。その辺はそれなりの料金を得ている彼の弁護士やエージェントが守っているわけで、信用していた水原氏に裏切られてショック!なんて驚いてるのは日本のファンだけでしょう。

これから2人はどうなるのか、どうするべきなのかとか、また多分、アップデートするんで、よかったら再読に来てください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?