見出し画像

「はじめての語用論 第3章」の練習問題を解いてみました。

少し期間が空きましたが…

前回の投稿から少し空いてしまいましたが、しっかり投稿していきますよということで、今回は第3章の練習問題を解いてみます。今回は情報語用論の問題のようです。情報構造の話になります。それでは問題を見ていきましょう。


練習問題

問1
以下の2つの文は、いずれも「山田さん」が主語であり、伝達する命題内容も同一であると考えられる。
(1) 山田さんが大阪にいます。
(2) 山田さんは大阪にいます。
これらの文が使われる場面の違いを、焦点・背景・ QUD といった用語を用いて説明してみよう。
問2
主語・目的語を標示する格助詞「が」・「を」は、「は」と交替するほか、(話しことばでは)脱落する場合もある。
(3) この時計 {が / は / φ} 壊れているみたいです。
(4) おすし {を / は / φ} 壊れているみたいです。
情報構造と格助詞の脱落(の可否)の関係について考えてみよう。

加藤・澤田(編)(2020: 56)

ちょっと待って…

すいません。薄っぺらい理解しかできていない僕だとこの問題難しいですね…できる範囲で答えていきます。

練習問題 問1

まずは、「焦点・背景・QUD」の確認から

「焦点・背景・QUD」という概念が出ているので、このことについて整理していきます。

What is 焦点 & 背景?

この両者は対立的な概念ですので、セットで説明します。通常、発話はその内容の要点に当たる部分とそれ以外の補足の部分に大別できます。このうち、前者を焦点 focus、後者を背景 ground と言います。また、焦点は内容の要点であることから、基本的には新情報(未知の情報)の部分と重なりやすく、背景は旧情報(既知の情報)の部分と重なりやすいです。具体的な例文でより詳しく考えていきましょう。


(1) ('Who ate chicken?' に対する発話として) John ate chicken.
(2) a. 焦点: Chris
      b. 背景: ate chicken


(1) にある通り、このコンテクストで重要なのは「誰」がチキンを食べたかです。つまり、チキンを食べた張本人である Chris が焦点になります。そして、それ以外の要素 ate chicken は背景ということになりますね。

さらに、「発話が何についてのものなのか」というものを明示するために用いられる語句があります。これを主題 topic と言います。そして、この主題を典型的に示す表現があり、そうしたものを主題マーカー topic marker と言います。次の談話を見てみましょう。


(3) A: I wonder what happened to the food.
      B: I took the sandwich. As for the cake, Chris ate it.


太字にしましたが、 As for という表現は、「〜に関しては」という意味になるように、主題を示すものであることがわかると思います。つまり、これが主題マーカーです。そして、その後に続いている the cake は主題です。このように考えると、 (3) の B の後半の発話の語用論的機能は以下のように整理できます。


焦点: Chris
背景: ate the cake
主題: the cake


ここからさらに話を掘り下げましょう。背景のうち、 the cake は主題であるということが分かりましたが、それ以外の部分(今回の場合は ate)は何なのでしょうか?これはテール tail という名称がついており、「背景のうち主題でない部分」という意味合いを持つそうです。さらに、文全体の意味内容のうち、主題以外の部分のことをコメント comment という風に呼ぶようです。となると、先ほどの語用論的機能は次のように修正されますね。


焦点: Chris
背景: ate the cake
主題: the cake
テール: ate
コメント: Chris ate


さて、焦点と背景についてはこの辺りにしてもう一つの概念 QUD についてみていきましょうか。

What is QUD?

QUDは、 Question-under-Discussion の略称で、私たちの会話の際に生じるあらゆる疑問のことを指します。基本的には暗黙のうちに了解される場合が多いですが、実際に疑問文として明示化される場合もあります。 以下の3つの文を見てみましょう。


(4) a. Did Chris introduce Pat to Sam?
      b. Who did Chris introduce to Sam?
      c. Who did Chris introduce Pat to?


この3つの文に対する整合的な congruent 回答は文によって異なります。例えば、次のような回答がなされるとしましょう。


(5) Chris introduce PAT to Sam.


この回答では、 Pat が強調されている。つまり、 Pat に焦点が当てられているということが分かりますね。つまり、 (4) が整合的な回答となるためには、その直前の発話が「Chris が誰を Sam に紹介したのか」ということを問うものでなければいけないわけです。つまり、 (3a) と (3b) に対する回答として (4) は整合的なものであるということになります。なお、こうしたことから平叙文による言明は、「常に QUD に対する言明でなければならない」という主張もあるようです。

うまく回答できるかな…?

さてと、それでは問題を解いてみましょうか。問題を再掲しますね。

問1
以下の2つの文は、いずれも「山田さん」が主語であり、伝達する命題内容も同一であると考えられる。
(1) 山田さんが大阪にいます。
(2) 山田さんは大阪にいます。
これらの文が使われる場面の違いを、焦点・背景・ QUD といった用語を用いて説明してみよう。

加藤・澤田(編)(2020: 56)

おそらくですが、この問題を解く際に最も重要になる概念は「焦点」と「背景」の違いであるように思われます。次の談話を見てみましょう。


(6)
A: 誰が大阪にいますか?
A': ? 誰は大阪にいますか?
(A/A'に対する返答として)
B: 山田さんが大阪にいます。 (=1)
B': ? 山田さんは大阪にいます。 (=2)


この談話の A の発話では、「山田さん」という情報は発話の要点になるべき要素であり、焦点になる必要があります。つまり、格助詞「が」は焦点を示す働きがあるのだと考えられます。また、この焦点を示すということによって、 QUD の整合的な回答になることもできるわけです。一方で、 (2) のような発話は整合的な回答として容認しにくいと思います。このことは B' (=2)の発話からわかります。そのため、格助詞「は」は、焦点ではない別の要素を示す働きがあると考えられます。では、いったい何を示すのでしょうか?以下の談話を想定してみましょう。


(7) A: どこに山田くんは住んでいますか?
      B: 山田くんは大阪に住んでいます。/? 山田くんが大阪に住んでいます。


B の発話において「山田くんは大阪に住んでいます。」の方が自然に感じますね。これは A の発話において「山田くんの住んでいる場所」が焦点化されているからです。そのため、 A の発話内でも「山田くん」に対して焦点を示す「が」は用いられていません。ということは、格助詞「は」は主語を背景化する働きがあるのだと考えられます。そして、背景はさらに主題とテールに分けられるということがありましたね。今回の談話の場合、「山田くん」の状況が中心になっていますから、「山田くん」は主題と考えられます。とすると、格助詞「は」は、主語を背景化し主題にする働きがあると考えられますね。

ひとまず練習問題の問1はこのような形で回答になるかと思いますが、誤っている箇所があればご指摘いただけると幸いです。

練習問題 問2

 これはいきなり問題を解いてみましょうか

この問題は普通に解いてみましょう。問題を再掲します。

問2
主語・目的語を標示する格助詞「が」・「を」は、「は」と交替するほか、(話しことばでは)脱落する場合もある。
(3) この時計 {が / は / φ} 壊れているみたいです。
(4) おすし {を / は / φ} 食べたの?
情報構造と格助詞の脱落(の可否)の関係について考えてみよう。

加藤・澤田(編)(2020: 56)

(3) に関して、格助詞の脱落は、基本的に格助詞「は」に置き換えられる際に用いられるように感じられます。以下の談話を見てみましょう。


(8) A: どの時計が壊れているの?/?どの時計壊れているの?
      B: この時計が壊れているみたいです。/ ?この時計壊れているみたいです。
(9) A:そっちの時計は使える?/そっちの時計使える?
   B: この時計は壊れているみたいです。/この時計壊れているみたいです。


問1での分析も鑑みると、格助詞を脱落させる際にはそれに付随する要素が「背景」になっておく必要があるのではないでしょうか?このことをベースに (4) の発話を含めた以下の談話も検討してみましょう。


(10) A: ちょうど今スシローに行ってきた。
  B: おすしを食べたの?/おすし食べたの?/??おすしは食べたの?
(11) A: 昨日の夕飯で残したおすしと味噌汁はどうしたの?
    B: 味噌汁はまだだね。
    B: ??おすしを食べたの?/?お寿司食べたの?/おすしは食べたの?


(10)と(11)より、目的語を表示する格助詞の脱落の可否は格助詞「を」の脱落ができるか否かに対応しているように感じられます。加えて、目的語を標示する「は」は基本的に他のものと対比する際に用いられます。そのため、対比の行われる (11) の談話では格助詞「は」の用法は自然に感じられる一方、 (10) はそうではないため不自然に感じられます。対比の際は比較対象に焦点が当てられると考えられます。ここで、(3) の分析を思い出してみましょう。格助詞の脱落はそれに付随する要素が「背景」になっておく必要があるのではないかということでしたね。そうです。やはり (10) や (11) でも格助詞の脱落には「背景」ということが関わっていそうですね。
 結論として、格助詞の脱落にはそれに付随する要素が背景となっているということにしておきましょう。

最後に

こうして回答を示した後に言うのもアレなんですが、すみません問2の回答はあまり良くないと思います。適切な回答をどなたかコメントで教えていただけると助かります…次回は第4章の練習問題を解いていきます。対人語用論のようです。(「ようです」といいつつすでに本は全て読み終わっていると言うのは内緒です。)

参考文献

加藤重広、澤田 淳(編). (2020). 「はじめての語用論 基礎から応用まで」.研究社:東京.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?