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「はじめての語用論 第2章」の練習問題を解いてみました。

三日坊主にはなりませんでしたと。

前回は第1章の練習問題を解いたところでした。「三日坊主どころか一日坊主になってしまう」とか吐かしていましたが、なんとかそうはならずに済みました。(実は9章までもう読み進めてしまっているのは内緒…)
さて、今回は2章の練習問題を解いていこうと思います。グライス語用論の章のようです。「グライスって誰?」といった補足を入れながら問題を解いていきます。それでは、問題を見ていきましょうか。


練習問題 問1

問1
次の発話では、話し手は、ある会話の公理をわざと破ることによって、聞き手にある推移を伝達していると考えられる。
(1) コンテクスト:話し手は、X嬢が歌った歌を批評している。
Miss X produced a series of sounds corresponding closely to the score of "Home Sweet Home".
(Grice 1989: 37)
その公理とはどの公理だろうか。また、この場合の推移とはどのような推移だろうか?

加藤・澤田(編)(2020)

「会話の公理」って何なん?

「会話の公理」という用語が出てきていますね。これっていったい何なのでしょうか。(私は2章を読んでいるから知っているのですが…)
実はこの「会話の公理」を提唱した人物こそがグライスなのです。グライスは、我々の会話が「協調の原理」と4つの公理に従って行われていると言います。まずは、問題を解くためにも、これらがいったい何なのかそれぞれ見ていきましょう。

協調の原理 Cooperative Principle

協調の原理は次のように定義されます。

会話の段階で、あなたが行なっているやり取りの共通の目的・方向という点から、要請されるだけの貢献をせよ。

加藤・澤田(編)(2020)

つまりは、相手に求められているだけの応答だけをすれば良いということですね。そしてこの原理は4つの公理(量の公理 Maxim of Quantity・質の公理 Maxim of Quality・関連性の公理 Maxim of Relation・様態の公理 Maxim of Manner)によって構成されています。次にこれらについて見ていこうと思います。

※どうやら、この4つの棲み分けはカントの「純粋理性批判」に強く影響を受けたようです。気になる方は以下のリンクを参照して見るといいと思いまし。(哲学に詳しいわけではないので…)

量の公理 Maxim of Quantity

この公理は以下のように定義されます。

(ⅰ) 当該のやり取りのその場の目的のために必要とされるだけの十分な情報を与えよ。(=できるだけ多くの情報を与えよ。)
(ii) 必要以上の情報を与えるな。

加藤・澤田 (編)(2020)

要するに、相手の返答として、情報量が多すぎても少なすぎてもだめであるということです。

質の公理 Maxim of Quality

この公理は以下のように定義されます。

(i) 嘘だと思うことを言うな。
(ii) 十分な証拠がないことを言うな。

加藤・澤田(編) (2020)

相手に嘘をついてはいけないと言うことですね。これはまあわかりやすいです。


関連性の公理 Maxim of Relation

この公理は次のように定義されます。

相手の発話と関連性のあることを言え。

加藤・澤田(編) (2020)

これもわかりやすいですね。相手の話していることと全然関係ない話をいきなり話されては、会話は成立しません。

様態の公理 Maxim of Manner

この公理は次のように定義されます。

明快であれ。
(i) 表現の不明瞭さを避けよ。
(ii) 曖昧性を避けよ。
(iii) 簡潔であれ。
(iv) 順序だった言い方をせよ。

加藤・澤田(編) (2020)

これに関しては少しわかりにくい箇所があるかもしれません。基本的には、「回りくどい言い方をするな」ということである程度理解はできるのではないかなと思います。

さあ、やっと問題を解けそうですね。

さて、ここまでグライスの協調の原理と4つの公理を概観してきました。そもそも、問題が何だったか忘れてきてしまいそうですので、再掲します笑

問1
次の発話では、話し手は、ある会話の公理をわざと破ることによって、聞き手にある推移を伝達していると考えられる。
(1) コンテクスト:話し手は、X嬢が歌った歌を批評している。
Miss X produced a series of sounds corresponding closely to the score of "Home Sweet Home".
(Grice 1989: 37)
その公理とはどの公理だろうか。また、この場合の推移とはどのような推移だろうか?

加藤・澤田(編)(2020)

これはどの公理の違反に該当しますかね。日本語にしてみるとわかりやすいのではないでしょうか。この文を日本語に直訳してみると次のようになると思います。


X嬢は、『ホーム・スイート・ホーム』の楽譜に忠実に対応する一連の音を生み出した。


これを見た時に誰もが思うのは、「いや、ややこしっ!!」だと思います。つまり、回りくどいと言うことですよね。したがって、これは様態の公理違反ということになりそうですね。
そして、この文を通して話し手は何を伝えようとしているのでしょうか。つまり、この発話からどのような推移がなされるのでしょうか。先ほどの訳も見てもらいたいのですが、「X嬢は楽譜の音を完璧に歌い上げた」ということが連想されそうですよね。つまり、この話し手は「X嬢はうまく歌を歌った。」ということをよりいい意味で誇張して伝えたかったのではないでしょうか。したがって、この文の推移は「X嬢はとても歌を上手く歌った。」ということになると思います。

練習問題 問2

問2
「もう」と「まだ」には慣習的推移があると考えられる。
(i) 花子さんはもう資格試験に合格した。
(ii) 花子さんはまだ資格試験に合格していない。
「もう」と「まだ」の持っている慣習的推移とは何か考えてみよう。

加藤・澤田(編) (2020)

「慣習的推移」って何?

「慣習的推移」という用語が出てきていますね。これは次のように定義されます。

慣習的推移 (CI) は、語の慣習的な意味の一部であるが、言質 (commitments) であり、言われた事柄からは、論理的にも、合成的にも独立しており、かつ、話し手指向的 (speaker-oriented) である。

加藤・澤田(編) (2020)

何だかよくわからないですね。要するに、真偽を判断することができる文(命題)を構成する意味(これを真理条件的意味と言います。)以外に文に関わる表現の意味のことです。
日本語だと、敬語がまさにこれに該当しますね。次の例文で考えて見ましょうか。


田中先生からの差し入れをいただきました


この例文の真理条件的意味、すなわち客観的に真偽を判断することのできる最小限の意味は、「田中先生から差し入れをもらった。」ということですよね。これ以上何か要素を付け足したり、形式を変えても客観的な事実は変わることはないですし、逆に削ってしまっても解釈が難しくなるわけです。そのため、それ以外の要素、つまり「話し手は田中先生と聞き手に敬意を表している。」という意味は慣習的推移ということになります。

さて、問題を解いてみたいのですが…

さてと、問題を解いてみたいのですが、正直自分の回答に自信が持てないです…これどのような回答になるのか分かる方いらっしゃったらコメントしてもらえると助かります…とりあえず、自分の回答を書いていきますね。

おそらくですが、ここで重要になるのは「話し手指向」というポイントだと思います。「もう」や「まだ」の用法として次のような用法がありますよね。


  • もう終わったの!?

  • まだ終わってないの!?


前者は、例えば「数分前に仕事を依頼したのに、それを自分の予想した時間よりはるかに短い時間内でこなしてしまった。」というような文脈で、後者は「ずっと前に仕事を依頼したのに、それを自分の予想した時間よりはるかに長い時間が経ってもこなすことができていない。」というような文脈で用いると思います。要するに前者は驚きや賞賛の気持ちを示す一方で、後者は呆れや怒りの気持ちを表すわけです。
このことを先ほどの例文に照らし合わせてみると次のようになると思います。


(i) 花子さんはもう資格試験に合格した。
真理条件的意味: 花子さんが資格試験に合格した。
慣習的推移: 話し手は花子さんの資格試験に合格するまでの期間の短さに驚いている。
(ii) 花子さんはまだ資格試験に合格していない。
真理条件的意味: 花子さんは資格試験に合格していない。
慣習的推移: 話し手は花子さんが資格試験に合格するまでの期間の長さに呆れている。


このように考えると、「まだ」と「もう」の慣習的推移は次のようになるのではないでしょうか。


まだ: 話し手は驚きの感情を抱いている。
もう: 話し手は呆れた感情を抱いている。


最後に

さあ、今回は第2章の練習問題を解いていきました。いやあ、問1はまあいいとして問2はまじで自信がないです…合っているかいないかも含めてコメント等いただけると幸いです。(こんな平凡な大学生の記事にコメントしてくださる方もなかなかいないかもしれませんが…)まあ、今回は三日坊主にならなかったということでよしとしましょう笑 次回は3章の練習問題を解いていこうと思います。3章は情報語用論のようですね。情報構造という用語がメインの領域です。ぜひ次回も読んでみてくださいね。それではまた。

参考文献

加藤重広、澤田 淳(編). (2020). 「はじめての語用論 基礎から応用まで」.研究社:東京.

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