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母と妻と、ときどき、僕 丨 @milnii_san #今日もLINEからつながる

結婚式の披露宴が終わって、妻と一息ついているころだった。

「せっかくだから、3人のLINEをグループつくろうよ」
僕の母から、唐突に僕と妻にお節介な誘いを投げかけられた。

結果的に、僕と妻は母の勢いにのまれ、嫁VS姑問題が勃発しそうなLINEグループが作られてしまった。

僕と母は特に仲が良いわけでも悪いわけでもない、普通の親子だ。ただ、後に妻となる女性と7年半も付き合っていたのに、一度も彼女を親に紹介しないくらい、家族とプライべートの距離は取っていた。

渋々作ってしまったLINEグループだったが、結局のところ僕が実家に帰るときの連絡手段くらいでしか使われていなかった。

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「いつ、こっちくる?」
「近々帰るよ」
「何時くらいになりそう?」
「いま出たから1時間後かな」

いつもこんな感じでやりとりするのは基本的には母と僕で、業務的なやりとりだけが続いていた。


ある時、そんなLINEの中身が一変した。僕と妻の間に息子が生まれたのだ。
友人知人からよく聞く話だったが、孫が生まれてから、母からの連絡頻度はそれまでと比較すると数倍にもなった。以前はお盆休みと年末年始で、年に数回のやり取りだったのが、毎月一回は「近くに寄ったんだけど、今、おじゃまかしら?」とアグレッシブなLINEが来るようになった。

僕はちょっと不安だった。

適度な距離を保っていた母と妻の関係がLINEという気軽な連絡手段があることで、お節介な姑と距離を置きたい嫁という典型的な対立構図が生まれてしまうかもしれない。

だんだんと「今週末、なにしてる?」への既読スルーが増えていった。
あまりに母からのLINEが多くなるようだったら、母には「妻と3人のLINEグループにメッセージするのはちょっと控えてもらえないか?」と伝えようかと思っていた。


思い返せば、子供のころからずっと母との会話は業務連絡でしかなかった。

「宿題やったー?」
「まだ」
「どこか旅行とか行かない?」
「別に」
「今日の晩御飯はなに食べたい?」
「ぎょうざで」

誰と仲が良いのか、学校の勉強はどうなのか、どこの学校に行きたいのか、どこに就職したいのか、どんな人とお付き合いしているのか……記憶をたどると、学生時代も社会人になってからも、僕は自分のことを母に話したことがなかった。

幼少期に教育熱心だった母との会話が「あれやったの?」「これはどうなった?」と回答を求められるのが嫌だったのかもしれない。余計なことを言うと、「それってどういうこと?」とさらに母からの質問が来るから、だんだんと必要最低限の回答しかしなくなっていた。



そんなある時、母からの「今週の土曜、なにしてる?」のLINEを僕が相変わらず既読スルーしていたら、
「〇〇さんは忙しいようなのですが、今週末は家にいますので、ぜひどうぞ」
と妻が母に返答してくれているのを発見した。

ついに、やってしまった。妻に気をつかわせてしまった。
母から僕に投げかけられたLINEを妻に返答をしてもらうなんて、典型的なダメ夫である。

***

しかし、いま、母と妻と、そして僕はとても丁寧な会話をLINEでしている。
恐らく、あの時の妻から母へのLINEがなかったら、中学生のころから続く、母と僕の業務連絡な関係は一生変わらなかったかもしれない。

あれだけ意固地に母とコミュニケーションをとらなかった僕がなぜ妻のLINEがきっかけで変わったのか?僕自身その理由が気になった。
ネットで同じような事象がないかと事例を探していたら、学生さんの面白い研究を見つけた。

「家族グループのLINEトークのテキスト分析」というテーマで、家族の続柄別でのコミュニケーションを分析した研究だ。

“家族の傾向としては,男子,とくに長男が家族グループにおいて消極的であることが明らかになった。逆に活発に発言する傾向があるのは長女と母で,とくに母は話題を提示することが多い。これは主に母が家の中のことを取り仕切る場合が多いことが要因となっていると考える。”(出典:「LINEにおけるコミュニケーション―家族グループトークのテキスト分析から―」楠井愛美2017)

この論文によると、どこの家族も長男と母のコミュニケーションは業務連絡みたいなものらしい。まさに同じ状況が僕と母の関係でも起きていた。

加えて、母と僕の2人の関係だったLINEの会話に、妻が入ってきて3人になってから状況が一変することに近い研究を見つけた。これは部屋の中で2人きりで会話をしている途中でに、新たに部屋に入ってきた人も含めて3人で会話をした場合、意識、感覚がどう変化するかの研究である。

“①二者状況と三者状況では意識の向け方が異なり、三者状況では意識の向け方が個人によって様々になること、②二者状況の方が三者状況より居心地がよく、没入感やまとまりを感じること、③二者状況では相手に集中するのに対して、三者状況では客観的になり、場の雰囲気を重視するなど感覚に質的にも違いがあることが示された。そして、双方の体験には人数構造と共に個人の関係の持ち方が影響していることが示唆された。”(出典:「二者状況から三者状況に移行する場面における主観的体験の変容」永山智之 2018)

もともと僕ら3人のLINEグループの会話は、僕と母の業務的なやり取りのみで妻は傍観していたので、二者状況の関係でいた。
二者状況では不要なやり取りはなかったので、母も僕もそれはそれで居心地がよかったのかもしれない。

しかし、母への僕のそっけないリアクションにしびれを切らした妻がスッと間に入って返答してくれたことで、LINEグループが母と長男という二者状況から三者状況に変化した。
先にあげた研究のように、三者状況になることにより、僕と(おそらく母も)客観的に場の雰囲気を考えるようになった。数十年続いていた業務的な関係に妻が入り、3人のLINEが小さなコミュニティに変わっていった。

母が5割、妻が3割、僕が2割と返す頻度はまだまだ少ないけれど、妻と子供たちが遊んでいる様子を母に報告したり、母も妻に気をつかいながら自身の近況を報告したりと、良い距離感のコミュニケーションが生まれている。


僕らのように全ての母と長男の関係が、三者目の登場人物として妻が会話に参加し、円滑になるわけではないと思う。
このエピソードを見た僕の友人からは「みる兄さんは妻に甘えているだけ」とお叱りを受けそうな気もするが、10年近く続いている母と妻とときどき僕の3人のLINEグループのおかげで、長らく業務連絡のコミュニケーションしかとっていなかった母と僕の関係が良好になったことを妻に感謝したい。

妻に少し照れながら、お礼のLINEをしたらこんな感じになった。

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<○○ちゃん=妻の叔母さんのこと>

妻が僕の母のLINEに返答したきっかけは、妻の叔母さんからの「息子のお嫁さんには気をつかって孫のことを聞けないのよ」って悩みを聞いたからだったようだ。妻の配慮には頭が上がらない。

こんな感じで、僕にも僕の母にもコミュニケーションをしてくれる妻はやっぱりステキだ。


すべての家族がこんな風にうまくいくとは思わない。SNSでは、各人が思ったことや感じたことを言葉に出来ているが、身内と会話をするのは意外と恥ずかしい。
ただ、ふとした日常を何気なくLINEをするのも親孝行の一つなのかもしれない。

気が向いたら、こんなサプライズなLINEをしてみようかな。

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ーendー

TEXT:みる兄さん( @milnii_san )
事業会社でECとSNSマーケティングとPRの責任者。主にデジタルを用いたマーケティング、ブランディングを担ってます。たまにコラムやエッセイを寄稿してます。Twitterアカウント(@milnii_san


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