短編⑩
とうとう短編も10個目に。短編って言っていいか微妙な短編ですが、今後ともお付き合いください。
今回はちょっぴりVRMMO、学生生活、一人称、女主人公、約9000字な感じで。恋愛風味、かもしれない。
* * *
「いや、会った時からいい声だなぁと思ってたよ?」
「そ、そう、かな…」
「そうそう。もうちょっと声出せばいいのに、とか、まぁ、勝手に思ってたけどさ」
今は年末。教室の掃除をしながら、そんな話をする。
確かに、初めてボイチャで話した時、寝起きだったってこともあったけど、かなり緊張もしてたし。
それに……男の子と真面に話をするのはアレが初めてだったから。
「ふーん、そっか、そうなんだ…」
「うん」
それっきり、話は途切れて。
結局掃除が終わるまで、何も言い出せなかった。
これはそうなる前の話で。
無題
『やっほー。元気してる?』
『まぁまぁかな。そっちは?』
『見て分かるだろ。元気元気!』
彼と一緒にプレイし始めたのは本当に偶然で。
私がギルドで本当に人間みたいなNPCとの会話が上手くできない時にちょっと助けてもらった縁で。
だけど、そうなんだ。実は、私は初対面みたいな反応をしちゃったんだけど、彼は私のことを知ってたみたいで。
そのことも本当に最近知ったんだけど。
『エルクは確か今日、キジャでオルター狩りだっけ。俺も近くに用事あるから途中まで一緒していい?』
『いいよ。あ、そだ。キミチカはどう?』
『あ、用事ってそこね。あの穴場、不思議と空いてるよな』
『あの付近でグラになれるけど、そのグラで潜るには向いてないんだって』
そんな他愛のないボイチャをしつつ、どちらともなしに歩き出す。
エルクは私のプレイヤーネームで、キジャはキージャルストというフィールド名、オルターはそこに湧く鳥系の敵。
キミチカはキミル山脈地下洞窟というダンジョンで、経験値稼ぎにいいんだけど、近くの神殿でファイターからグラップラーに転職できて、そのグラでは経験値稼ぎは難しいって話。
最初の頃はさっぱりだったけど、今は日常会話みたいに話せるようにまでなった。
全部、全部オルクのお陰だ。
凄く紛らわしいけど、これが彼のプレイヤー名。
だから、もしかしたらそれで構ってくれたのかもしれないけど。
『お、着いたわ。んじゃね』
『うん、また明日の朝ね』
『ん』
そう。私たちはリアフレ。正確にはこのゲームで知り合って、そこからリアルでも会うようになった。
出会い厨とか直結厨とか、そういうのじゃなくて、単にクラスメイトだったってだけだ。
周りからはちょっと不思議に思われたかもしれないけど、今では普通に話をするぐらい馴染んでる。
『さてと』
ボイチャを切断して頭を切り替える。
オルターはちょっとめんどくさい敵だけど、クエストだから仕方ない。
ルーフェストっていう、私が今滞在してる街には週替わりクエストっていうのがある。
それはイージー、ノーマル、ハードの3つの難易度のクエストが毎週替わりで新しくなるわけだけど、このクエストはノーマルで、実はイージーとハードはクリア済みだ。
この週替わりクエストはたまにこういうめんどくさいやつが来る。
だけど、3つともクリアすればそこそこ美味しい報酬が手に入るから、やるしかないのが現状だ。
でも、オルターはまだドロップが渋くないからマシな方で、中には敵にうまみがない事さえあるんだから。
それに、今日は途中まで健一君と一緒に来れたし。
そう思うと、ちょっと浮足立ってしまうけど、冷静冷静。鳥は飛んでるのを撃ち落とさなきゃならないから。
『んー……よっと』
「グゲェェェエ」
うまく当たったみたいだ。
元々弓道はやってたこともあって、命中率はいい方だ。
今は止めちゃったけど。
当時は合わないとか思ってたけど、そうでもなかったのかもしれない。
まぁ、ゲームとリアルは違うんだろうけど。
その調子でクエストも終えて帰る途中。
『あ、やっほ。帰るとこ?』
『うん。そっちは?』
『今休憩中。んー、やっぱ籠り狩りは疲れるわ』
『お疲れさま。頑張れー』
『うん。頑張る。さー、もうひと頑張りするかぁ』
そう言って、オルクはダンジョン入口へと向かっていった。
最初は、偶然だって思ってた。だけど、私と会うことがあるときはいつも、健一君は待ってる。
どうしてなのかは、よく分からないけど。別段、リアルで会おうとか、でぇと…とか、そういうことを言われたことは無いし、だから、そういうことじゃないんだろうけど。
それとも、まだ私の面倒見ないとと思ってるのかな。
もう私は大丈夫なのに。
だけど、まぁ、悪い気はしないんだけど。それで頑張れとか応援しちゃうからかな。
まぁ、私も一応女で、健一君は男の子だから。元気、出てるのかな。出てるといいな。
ぼーっとそんなことを考えながら流れ作業を終えて、クエスト報酬を受け取る。報酬はこれだけじゃ役に立たないんだけど、溜めて纏めて使うといい感じになるアイテムだ。
だからこそウィークリーの報酬になってるんだろうけど。ああ、やらされてるなぁ、私。
健一君はこういうのに頼らないけど、だから、私より弱いままだ。
だけど、いつも楽しそうで、だから私はなんとなく負けた気になる。
そんな、勝ち負けとか考えてないんだろうけど。
それに、たまに一緒にプレイしてくれるし。
そういう時は、不思議とレベルが高いはずの私がピンチになって、彼が助けてくれたりとか。
『お風呂入って寝よ』
ここから先はベッドで考えることにした。だって、そうしたら夢に出てくるかもしれないし。
「おはよ」
「おはお~あふ」
私が挨拶するときは、いつも彼は欠伸している。だいたい、寝不足だ。
目の下にクマができるほどじゃないけど、授業中にたまに寝てたりする。
それでも先生に当てられて寝ぼけ眼でも答えられるのは、なんかもう、うちのクラスの名物みたいになってる。
頭がイイとかじゃなくて、やたら勘がイイのだ。あとぱっと見ですぐに状況判断が出来る。
そういうとこはゲームで一緒にプレイしてるとよく分かる。
でもまぁ、こっちでも成績がそんなに良くないことを考えると単に頭がイイとかそういうことじゃないんだろうな、ということはすぐに分かるんだけど。
一方、私なんて成績もそこそこで、授業もちゃんと聴いてるはずなのに、答えられないことがある。
なんだか、嫌になるけど、そういう時に振り返ると、彼は必ずにかっと笑って親指を立ててくれるから。
なんか、よく分からないけど、まいっか、と思ったりする。
いつも、救われてる。
だから、だと思う。
『あー、ごめん。ちょっと暫くイン出来ないわ』
『ん』
『ちょっと遠くに引っ越すことになってさ。ま、ゲームは距離関係無いからいいんだけど』
『……え』
そう言われたとき、何も考えられなくて。
健一君が話す事情が理解できなくて。
私はそのまま……逃げた。ボイチャを切断する間もなく、ログアウトして。
そして、我に返ってログインした時には、もう彼はいなかった。
後悔して、だけど、やっぱり勇気は出なくて。
翌朝、私は学校を休んだ。
その日は一日、ログインしていることを隠して、いつも行くところとは全く別のところで過ごした。
こんな機能、何に使うんだろうと思ってたけど。
翌日、私は学校に居た。
だけど、当然のように健一君は居なかった。
転校したんだからそりゃそうだ。だけど。
なんだか、そのことが妙に寂しくて。
だからか、妙に先生に当てられて。答えられなくて振り返った時。
初めて。
彼がそこに居ないことを実感した。
「ちょっと、相沢さん、大丈夫?」
「……ごめん、大丈夫じゃないかも」
「保健室、行く?付き添うよ」
そんな風に、あんまり話したことも無い保健委員の子に連れられて。
そして、私は早退した。
こんなことは初めてで、どうしていいか分からなくて。
だけど、健一君はもういなくて。
いや。
そうか。そうだ。ゲームだから。ゲームには。
そう思ってログインしたのに。彼はやっぱり居なかった。
その事がショックで、その日は一日寝込んでいた。
暫くログインできないと言っていたことを思い出したのは。
翌日ズル休みをして、昼に母さんに心配された後のことだった。
いい加減しっかりしなきゃ、と思った矢先に思い出したから、きっとここ数日、私は正気じゃなかったんだろう。
それだけ、彼の存在が大切だったってことなんだろう。
だから、数日後にゲームで会えた時は。いつものようにフレンドの個別ボイチャで。
思わず叫んでしまった。
『健一くん!』
『え?あ、おう。何?どした?』
そうして、その後出た一言には私も呆れた。
『……会いたい』
『……ん?エルク、じゃなくて、相沢さんが、俺に?』
『…うん』
言ったことはひっこめられないから、どう聞いても戸惑ってる風の健一くんにそう答えて。
ずっと何かを考えてるような声が聞こえて。その静かな空間に私が耐えかねた時。
健一くんは言った。
『分かった。まぁ、待っててよ。行くからさ』
『え、でも、引っ越したって』
『絶対会いに行くから、待ってて。大丈夫。また会えるからさ』
『う……ん』
そんな風に断言されて、きっとこのチャットの向こうでいつもみたいに笑ってるんだろうと思うと。
何も言えなくなってしまった。ありがとうの一言も。何も。
その日はなんだかギクシャクして、もっと話していたかったのに、私からボイチャを切断してしまった。
きっと迷惑だったのに、いつものようにふるまってくれて。有難かったけど。
心が少し、痛かった。
それからは時々、ゲームで会えるようになって。これまでみたいに一緒にプレイして。
同じクエストをやったり、行ったことのない街に行ったりして。
ああ、だけど。一緒にいる時間は長いのに、話をすることはいつもより少なかったかもしれない。
そうやって、空気感だけは。いつまでたっても元には戻らなかった。
だけど。
ある日。
夢みたいなことがあって。
「はは、戻ってきちゃいました」
健一くんが、再びうちの学校に転校してきた。
いや、きっと私の、私だけのために。彼は、きっと彼だけが、帰ってきてくれたんだ。
私は思わず言葉に詰まって、だけど。
目が合ったと思ったら、彼はいつものようにニカッと笑って。
私は泣き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
彼は放課後、私を校門で待ち伏せしていた。
「やっほ。元気してる?」
ゲームで会ったと同じように片手を挙げて。こっちでは金髪のイケメンじゃないけど。
「まぁまぁ、かな」
私も、ゲームでやるように返したかったけど。
「あー、ちょっとまって、こっち行こう、な」
健一くんは泣き出しそうになる私の手を引いて、誰も歩いていない方へと歩き出した。
そうやって歩きながら、彼は引っ越した後のことを話し始めた。
実際さ。俺もまぁまぁ不満はあったんだよね。
だって、高2の半ばでこんなことってある?って感じでさ。
だけど、まぁ、仕方ないかなって思ってた。
でも、エルクが、相沢さんが思ってたよりキツそうだったからさ。
あ、俺もキツくないわけじゃなかったんだけど、その、ゲームで会えるしと思って。
いや、まぁ、でも、結局、相沢さんがキツそうだったし、俺も決心がついたっていうか。
そこで、彼は口を閉じて、ぐっと口を堅く引き結んだ。たったそれだけで印象が変わる。
思えば、彼の口元はだいたいいつも緩んでいた。そうやって引き結ぶと、なんだか冷たく見えた。
俺さ、ずっと1人暮らししたいなと思ってたんだよね。
だけど、それは大学生になってからでいいかなって、地元以外の大学行ってね。
でも、それ、今でもいいなって。
そう言ったところで、いつものようににへら、と口元が緩んだ。そう、その顔だ。いつもの彼だ。
そこで私は、ほっと息を吐き出して。いつの間にか息を詰めていたことを知った。なんだか、緊張してたみたいだった。
そんな私を前に、彼の話は進んでいく。
地元に戻って一人暮らしするなんて変な話だと自分でも思ったけどさ。
よく考えたら、友達もいるし、土地勘もあるし、何も心配することないんだよね。
あ、まぁ、食費とか家賃とか、そういうお金の問題はあるけどさ。それだけっていうか。
だから、両親説得して、そこそこいい大学行くことと引き換えに来たってわけ。
でさ、急なことでごめんだけど、俺の勉強見てくれない?
たしか、相沢さんって、そこそこ成績良かったよね?
そんな風に急に話を振られて、私は硬直した。
勉強を見るって、一緒に勉強するってこと?それって。
「えっと、何処に住むの?」
それはいきなりすぎるだろ。と自分で突っ込みそうになって。彼も少し考えた後に答えを返した。
「あ、うん。あっちの方」
「…ん?もしかして近い?かも」
「え、マジか。両親に相談して決めたとこなんだけど、とりあえず行ってみる?」
「うん」
そう答えて暫く歩いた後、私は気が付いた。
もしかしてこれ、1人暮らしの男の子の家に遊びに行くってこと?と。
「ここだよ」
そう言って指さしたのは私の家の近所の賃貸アパートだった。
まぁ、そうだよね。借りるんだったらアパートかマンションだし、部屋まで行くことはないし。
と、思っていたのに。
「ここの202だから。どう?近い?」
部屋番号を言われて黙った私を、彼が見る。
「ん?」
「あ、うん。近いよ。歩いて数分ってとこ」
「そっか。じゃあすぐ家行けるな」
「……ん?」
なんでそんな話になってるのか、混乱している私に、彼はダメ押しを言った。
「いやぁ、遠いと勉強見てもらうにも大変だろ?
近くに図書館とかあればいいけど無いしさ。
学校からはそこそこ距離あるし。
そうなったら、まぁどっちかの家かなって。
俺は一人暮らしだし丁度いいだろ?」
「……ん……ん?」
「あれ?もしかして嫌、とか…あっ、そ、そうだよな。
女の子が男の1人暮らししてるとこに来るのは不味いよな…」
「いや、その、い、嫌、じゃない、けど。
急なことだったから、驚いてるだけで」
「ん、そう……か?」
いつもの笑顔じゃなくて、こっちを伺うような表情の彼に、私は。
「うん、その、嫌じゃない、よ」
「うん、そっか。その、あー……またゲームでな」
「ん」
なんとなくぎこちないまま別れようとして、思い出したように私は引き留めた。
「あ、ちょっと待って」
「何?」
「家教えてくれたんだから、私も教える」
「え、でもその必要は」
「いいの。健一くんの家が使えない時はどうするの」
「それは、まぁ、そうだけど、いいの?」
「いいの」
なんだか意地になってそう言って。健一くんは頭を掻きながら、じゃあそうするか、と言って。
特に何事もなく家の目の前まで行った後、そこで別れた。
「あの、さ」
そう言って健一くんが家を訪ねて来たのはその数日後のことだった。
「早速だけど、教えて欲しくて、その、これ菓子折り」
「あ、ご丁寧に、どうも。えっと、上がって」
その日はゲーム内でそういう話をして、部屋がまだ段ボールで散らかってるからと、彼が申し訳なさそうに家に行ってもいいか、と尋ねて来たから。
綺麗好きな方だから部屋は片付いてるし、だから、いいかなと思ったけど。
部屋に、入れる?とそう思ったのは、部屋の前まで案内してからだった。
「えっと、その、笑わないでね」
「うん、笑わない」
私は、結構ぬいぐるみとか、ピンク色とかが好きで、だから、部屋は結構ファンシーで。
実際、健一くんはちょっとびっくりしたみたいに部屋の中を見回している。
そうして気まずい私と目が合うと。
「あっ、ごめん。その。こういう部屋初めて見たから」
「その、やっぱり変だよね」
「え?変って何が?」
「だってもう高2なのにこんな」
「いや、すごく女の子らしくていいと思うけど」
「ぇ、あ、う」
そんな風に言われて、どう言っていいか分からなくなる。
「実際、似合ってると思うよ。相沢さんも可愛い女の子だしさ。……ぁ」
「……」
もう本当に何も言えなくなってしまった。似合ってる、までは聞こえた。
その、可愛いって?だ、誰が?
「ご、ごめん。ちょっと調子に乗りすぎた、その、忘れて」
「……え…っと、その、うそだったってこと?」
「いや、本気だけど、さ。今言うことじゃなかったかなって。
ほら!勉強教えてもらいにきたわけだからさ!勉強しよ勉強!」
だけど、やっぱり勉強に身は入らなかった。
だって、教える私が上の空で、それに、隣に座って教えることになると、やっぱり近いし。
その日は持ってきてもらったお菓子を食べながら、教科書をめくるだけで終わってしまった。
『こないだはごめん』
『いや、私も、その、ごめん。褒められ慣れてなくて』
『…そうなの?そんなにいい声してるのに』
いい声?私の声が?
『こんなに低いのに?』
『いい声じゃん。落ち着くよ。凄く』
『…なんかすごく褒めてくれるね。ご機嫌取り?』
『そんなんじゃないよ!マジで、本気で思ってるっていうか、その。
また会った時に伝えるよ』
そんな風に真剣な声で言われると、何を言われるのかと思ってしまう。
……嫌なことじゃないといいな。
その後、ゲームのメッセージ機能でオルクからメッセージが来ていた。
明日、時間ある?ちょっと話したくて…、朝9時に家、行ってもいいかな。って。
家は普通に両親が居るから、なんかちょっと困るし、そっちに行っていい?って送れば。
少し間が空いた後で、じゃあ、家に迎えに行くからよろしく、と返ってきた。
これって、で、でぇと、なの、かな…?今日はちょっと眠れないかもしれない。
翌日朝9時。
私は寝坊した。
男の子が来てるよ、とお母さんに起こされて、慌てて準備して。
家を出れば。
うちの玄関前に彼が居て。
振り返るとその目の下には隈が__
「ふっ、くく」
「いや、笑ってるけど、相沢さんの髪もすげーぞそれ。どうなってんの?」
「えっ あっ やば」
「……なんかシリアス霧散したな」
「そう……だね…っくく」
そんなことを言いながら二人で歩く。気分は放課後、二人でゲームの話をしながら帰るときみたいな。
緩み切ってもいないけど、張ってもない、そんな空気感で彼は言った。
「一目惚れだったんだ。いや、一聞き惚れ、かな?」
「何が?」
「ギルドで女性プレイヤーが困ったように立ちすくんでて、何かギルドNPCに話しかけてるけど通じてなくて」
「え、それって」
「そう。エルクってプレイヤーが、さ」
そこで、彼は私の方を見た。とても優しそうに、微笑ましそうにこっちを見るから、私は思わず視線を逸らす。
「あのゲーム、デフォだとNPCとの音声会話オフになってるんだよね。
もう知ってると思うけど。
初期設定を知らない初心者がよくやるんだ。
だから、まぁ、最初は、ああ、やってるな、って感じだったんだけど」
「……」
「俺の用事済ますために近づいたらさ。
すごくいい声だったの。NPCじゃなくて、そのエルクってプレイヤーが。
中々女性プレイヤーで中身まで女で、それも、声が低い人って居なくてさ。初めてだったんだけどさ」
「ふ、ふーん」
「ふふ、それで、あっ、これチャンスかも。って思って。下心満載で近づいたってワケ」
そう言って、彼は口を閉じた。そのままついと視線を前に戻す。
え、これどう反応すればいいのかな、と思ってる間に、彼はまた口を開いた。
「そしたら、クラスメイトなんだもんな。びっくりしちゃったよ。
相沢さん、クラスじゃ全然話さないから。
あれは、古典の授業だったかな。あれ?聞き覚えあるな、ってふと思って見上げたら、相沢さんなんだもんな」
道路の、ずっと先を見ながら、彼はそう言って、また口を閉じた。
暫く、彼は、もちろん私も、何も喋らなくて。
「はは、ごめん。長々と語っちゃって、気持ち悪かったよな…」
「いや、えっと、そうなんだなぁ、って思って」
「えっと、それは……」
また、静かになって、今度は彼が立ち止まってしまった。
私がふと、彼の方を見れば、彼と目が合って。そのまま、彼ののどぼとけが動くのが見えたから。
「…緊張してる?」
「ん、ま、まぁ」
「珍しいね。いつもよく喋るのに」
「それは……褒めてるの?」
「さぁ」
なんとなくはぐらかして、歩き始めると、後ろから呟き声が聞こえた。
「……勇気、出したんだけどなぁ。駄目かぁ」
だから私も、呟くことにした。小さな、小さな声で。
「ちゃんと、伝わってるよ。大丈夫。だけど、もう少しだけ、このままで」
高校を卒業して、同じ大学に行けたら、いや、同じ大学に行ったら。
その時は__その時に___。
それまでは放さないように、離れないように、今度こそ。
そう思い立って、振り返る。
「ね、健一くんの家に着く前に話終わっちゃったけど、家に帰ったらゲームで___」
私たち二人の、ゲームライフは続く。少なくとも、あと1年は。
終わり?
蛇足
「好き好き好き」
「んふふ、もっと言って」
「もう疲れたよ…じゃあ最後に一回ね。好き」
「うっわ、今の効いた。ゾクゾクした」
「でしょ?今度からこの一回でいい?」
「それとこれとは別」
「……じゃあ健一も言ってよ」
「…分かった。今の一回でいいよ」
「ううん、許さない。何回も好きって言って」
「すきすきすきすき…えっと今何回目?」
「そう言うのじゃなくて!」
「好きだよ。愛してる」
「っ! ずるい!そういうのず~る~い~!」
「ははっ さっきのお返し」
「こうなったら寝るまで耳元で囁き続けてやるから」
「ごめんなさい。謝るので許してください」
「……嫌なの?」
「いや、フツーに寝れなくなる。そんなことされたら」
「嫌なの?」
「嫌じゃない。むしろ大喜びする。だから寝れなくなる」
「素直に嬉しいって言いなよ」
「嬉しい」
「そういうのじゃなくて、もういい」
「嬉しいよ、ほんとに。俺の告白受け入れてくれて、今までずっと幸せ」
「……実はさ。いや、何でもない」
「えっ、何。気になる」
「また今度ね」
「うわ、今夜寝れないわ」
「じゃあ、クマ作ってきて」
「何それ」
「さぁね」
マジで終わり
* * *
後書き
ほぼ一気に書いたやつです。最後砂糖吐きそうになる。だがそれがイイ。
時々、こういう恋愛モノを書きたくなります。大体途中で頓挫するんだけども。
女心とか分からないけど、これフィクションなんで。何とでも書けますよね。何とでも書きますよ。そりゃ。
なんか違うなと思ったらそれはそうなんでしょう。フィクションですからね。リアルな小説書けるのはそれはそれで尊敬できますけど、こういうのに需要があったりもするのです。たぶん。
では、また機会があれば。どうぞよろしく。
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