短編⑥

 一ヶ月越し。創作意欲が湧かなかったこともあるけど、久しぶりに勢いで書けたので載せます。3500字ぐらい。オチ無しで唐突に終わるので注意。一人称、設定ガバってます。矛盾は無いと思いますが割と雑です。

* * * * * *


「お、じゃあ、いつもすまんね」

「私にも益はあるので…。それにこれが一番手っ取り早いですし」

 己れは椅子から飛び降りて臨戦態勢に入る。ウィルは己れとは違い優雅に椅子から立ち上がった。
 さぁ、茶番という名の-真剣勝負-の始まりだ___。

無題

 己れとウィルの出会いは実に分かりやすく、それでいて複雑だった。
 どういうことかと言えば、己れが殲滅中だった魔物の棲み処にウィルが捕われていたって話だ。
 ただ、問題はウィルが忌み嫌われているダークエルフ一族の姫であり、彼女が唯一の生き残りであったことだった。
 何でも彼女の一族は人間との小競り合いの末に大乱を巻き起こし、人間の卑怯な手口により大敗を喫し、辛うじて逃がした彼女たちも人間の追手を撒くために次々と犠牲になり、残るは彼女一人。
 孤独に逃げ延びたものの、拠点とした場所が魔物の巣の入口で、不運にも非常食として捕われていたらしい。

 それを助けたのがこの己れ。ホビット族のドッドだ。
 ……自慢じゃないが己れはチビだ。というかホビット族が総じてチビだ。
 だが、素早くて頭がいい。そして何より己れはホビット族にしては力が強かった。
 だから一人、旅に出た。元より、ホビット族は若い頃に旅をして、気に入った街に住み着くもんだ。
 己れは未だに根無し草だが、なまじ他の仲間に比べて魔物という脅威に立ち向かえるがために、ずっとこのままでもいいかな、とさえ考えている。…ウィルを拾うまでは、だが。

 なんせ、ホビットとダークエルフだ。ちぐはぐもいいとこだし、なんなら、己れがチビなせいで舐められる。
 いや、旅の途中で、盗賊に目を付けられる程度は仕方ない。それは旅をするにあたって当然のリスクだ。
 だけど、街中で悉くウィルに声かけて振られて逆上する輩にはほとほと呆れ果てる。
 己れの変装キットで白塗りした結果、ウィルは美麗エルフに早変わりだが、これならダークエルフのままでも……いやいや、人間はどこにでもいるんだ。だから警戒して当然だろう。

 でも、ある日、己れたちが行ったある行動によって、周囲からの視線は一変した。
 それは実に些細なことだった。その日、昼食をと2人で向かった酒場で、己れとウィルの意見が食い違った。
 己れは魚が食いたいと言い、ウィルは肉が食べたいという。…おっと、エルフは草食とかいう、なんでそんな話が?と思うような迷信があるがあれはとんだ嘘だ。エルフは狩人なのになんで狩った獲物が食えないんだ?
 そんな話はさておき、そこの街は海が近かったんだ。というか海から船で入ったんだが。

 端的に言うと、船旅はストレスが溜まる。船という閉鎖空間、けして美味いとはいえない食事、十分に使えない水、狭い故に気持ちよく体を動かすことも出来ない。そりゃ、溜まる。
 だから、その喧嘩はむしろ必然だったのかもしれない。そしてすきっ腹に酒だけ入れた所為もあるだろう。
 その結果、己れたちは大いに暴れた。己れの武器はナイフだ。同族の仲間はこれを投げるが、己れは手に持ち戦う。
 あるダンジョンで入手した己れの相棒。切れ味も良く、ナイフにしては頑丈な一振りだ。
 ウィルの獲物は長杖。木だが、マナメタルと呼ばれるミスリル銀が使用された一品。己れのナイフとは比べ物にならない神話級のアイテム。だけど、魔法を使わないならそれで十分だった。

 何度も刃を合わせるうちに、己れの苛立ちは消えていき、後にはただ痛快さが残る。
 このお姫様はここまでやるのか、と、当時は柄にもなく舞い上がったものだった。
 ウィルもまた、己れの腕に驚きを隠せないようだった。彼女は当時の己れの奮闘を見ていない。何せ、あれは彼女が寝ている間の、夜中に起きた出来事だったのだから。
 そうして己れたちはまるで手合わせのような喧嘩を続け…酒場の店主が呼んだ衛兵に割り込まれた。
 思えばあの衛兵はクソ度胸だったな。いや、もしかしたら己れたちが遊び半分でやっていたのに気付いたのかもしれん。

 それ以来、新しい街の、新しい酒場に来るたびに、己れたちは喧嘩をおっぱじめる。
 最初はウィルを説得した上でのお遊びであったことは事実だ。鬱陶しい外野を遠ざけるための。
 しかし、ある時、ウィルから驚きの提案があったんだ。
 ああ、そういえばダークエルフはぶっきらぼうとかいう寝も葉もない噂があるが、あれも迷信の類だ。王族が無礼で勤まるかよ。お前ら王族舐めてんのか?

『ドッド様。わたくしは貴方様と本気で戦ってみたいと思うのです。
 …いけませんか?』

 それは凡そ初めての経験。これまでこのダークエルフの姫様は自らの願望を表に出すことなどなかったのに。
 だからか、己れは一も二も無く頷いてしまった。とはいえ、これだけは言っておかねばならない。

『ただし、魔法は無しだ。己れには対抗手段が無いのでね』

『……』

 これにウィルは妙に不満げであったこともよく覚えている。己れはちょっと強いだけのホビットだ。それはよくよく弁えている。だというのに、彼女は納得できないようだった。
 結局黙殺して納得させたが、今のところ、本気の物理戦闘だけで満足して貰えているようだから良しとしよう。
 これは自分で言うのもなんだが、ホビット族は総じて器用で、己れもその特徴を受け継いでいる。力が強いから不器用、なんて誰が決めたのか。少なくとも己れは受け流しに長けている。
 それ故の継戦能力、それ故に彼女と渡り合えている。単に力だけでは彼女には敵わない。


「……」

「おい、機嫌直せって」

「機嫌が悪いわけではありません。
 先ほどの模擬戦闘の分析をしているのです」

「そんなに頬を膨らませて不機嫌じゃないわけあるか」

 とはいえ、彼女の不機嫌には己れも降参だ。旅の相方がこうも仏頂面では雰囲気が悪い。
 ホビット族はことさら、その場の空気に敏感なんだ…。頼むから機嫌を直してほしい。

「…どうしていつも勝てないのですか」

「それは己れの方が"巧い"からだ。お前は少し力任せ過ぎる」

 だが、先ほどの"喧嘩"のお陰で周囲は静まり返っている。そそくさとその場から逃げ出した数人の客を見て、彼らが飲み続けた場合の利益を目算、酒場の主人に目配せして銀貨を数枚弾いて黙らせる。
 ホビット族の処世術だ。こうでなくては己れたちは生き延びられない。

「…指導を」

「何度も断ってるだろうが。もういい加減諦めてくれ」

 そう言うとウィルはため息をついて、ようやく冷めた晩飯に手をつけた。
 旅をしているのは魔物と戦うことが性に合っているからだ。決して新人の指導をしたいからじゃない。
 ……ウィルは単に行き場がないから連れているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 じわじわと戻る喧騒を聞きながら、己れは空になった皿を見てウィルの皿に目をやる。

「あげませんよ。…一体その小さな体のどこにそんなに入るんですか」

「己れに聞かれても分からん。肉体の神秘だな…一つだけ」

「……本当に、仕方ないですね」

 ぶつくさ言いながら肉をひとかけくれた。流石は王族、懐が深い。
 己れはそれをひょいぱくと口に入れてから、ピンと一枚の硬貨を弾いた。ウィルは慌ててそれを受け止めて、こちらに責めるような視線を送ってくる。

「そういうのは止めてくださいとあれほど」

「いらないのか」

「それは…貰いますけど」

 彼女の唯一とも言える趣味が、各国の硬貨蒐集だ。そして己れは手癖が悪い。彼女は己れが後ろに座る客からその硬貨を盗んだ事に気付いている。
 だけどまぁ、銅貨だ。これぐらいなら許されるだろう。

 そんなことをしながら、己れたちは魔物被害の噂を探して討伐しては路銀を稼いで旅をしている。
 こう見えて、己れは何年もそうやって一人でやってきた。一人増えても、少なくとも足手纏いでない限りは問題ない。ウィルは意外とやる。だが、褒めると間抜けになるから口には出さないが。

 己れは黙々と冷えた飯を食うウィルを眺める。エルフや人間の感覚で言えば美人なのだろう。
 だけど己れはホビットだ。美的センスが違う。
 己れは同じホビット族の、世話焼きで肝っ玉の太い女が好きなんだ。これは同じ仲間の総意だろうな。
 そういう意味でもウィルはまるで当てはまらない。
 だけどまぁ、娘みたいなもんではあるかもしれないな。
 こんなでかい子供は作った覚えはないが。

おわり

* * * * * *

あとがき

 示し合わせたように喧嘩して実力を知らしめるっていうシチュエーションが書きたかっただけで、別に異種族である必要は全くなかったんですけど、ファンタジーにしたらこうなりました。

 そして人間が悪者になっちゃってますが別に病んでません。個人的にファンタジー世界では人間って割と節操無くて嫌われ者っぽいイメージがあるだけです。偏見かもしれない。

 本作のホビットとエルフのイメージは色んな作品をごった煮した結果のカオスな感じになってるので参考にしないでください。設定ガバとはここのこと。突き抜けてあまのじゃくしたけど割と崩壊してない。

 今回は連投はありません。気に入ったら過去作もどうぞ!なお、ジャンルはファンタジー寄りですがごった煮です。

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