短編⑧
例によって思い付き。無理やりまとめたのでちょっと不自然な所があるかもしれません。うっすら転生モノ、ファンタジー、一人称視点、一部パロ、なろう風味、ギャグ(?)、約6000字です。
二番煎じ感ありますが、折角(半ば無理やり)纏まったので投稿します。いつもとは作風が違うので注意。若干残酷な表現が含まれます。グロいの苦手な方も注意。
* * * * * *
魔王がラスボスだと思ってたのに冤罪で人族の勘違いだった件
あ、ありのまま今起こったことを話すぜ…
「おれは長年ラスボスだと思っていた魔王を追い詰めたと思ったのに
魔王は勇者のおれにビビッて土下座降伏した」
な…何を言ってるのか分からねーと思うが、
おれも自分で何を言ってるのか分からねー…
勇者の存在意義を否定されて頭がどうにかなりそうだった…
魔王が見せる幻覚なのか…そうであってくれッ
…いいや、真実を見抜く仲間も呆然としている
これは断じて幻覚じゃあねぇ
これは…恐ろしい。まるで悪夢のようだ…
「ゆ、勇者様…お気を確かに。今がチャンスです」
「…は?」
チャンスとは何のことだ?
魔王は丸腰ゼヌーラで目の前で土下座してるんだぞ?
…まさかこいつの首を落とせと
「魔王の首を落とすのです。そうすれば世界が平和に」
「おいおい、勘弁してくれ。聖女様。ここまで潔く降伏してくるやつの首を落とせるかよ」
「…私たちの油断を誘っているのかもしれません」
「いや、仮にそうだとしたらむしろ襲い掛かっちゃダメだろ。カウンター食らうぞ」
「しかし…では、いつまでこの膠着状態を続けるおつもりで?」
そりゃあ、いや、そうだけどさ。
隣で惑乱している聖女様とひそひそと小声で話し合うも結論は出ない。
そしてこのプレッシャーに耐えかねたのか、魔王からすすり泣きが聞こえて来た。
「もう、もう勘弁してほしいのだ。冤罪はこりごりなのだ。ワシは無罪なのだ」
「と、言ってるが」
「先ほどは躊躇した。だけどもう正気。ころす」
「ちょっ まっ タンマ!待って!ちびちゃん!胸もチビちゃん!」
「…お前も死にたい?」
ついさっきまで唖然としていたはずの魔法使いちゃんが再起動してしまった。これはよくない。
彼女は魔物の群れに故郷の村に寄る商隊を悉く壊滅させられ随分ひもじい思いをしたと聞いている。彼女の動機は正義感でも神の意志でもない。怨恨だ。食べ物の恨みは怖い。怨恨に懺悔は意味が無い。魔法使いちゃんはこの土下座を軽やかにスルーして杖を掲げた。
そこに俺の痛恨の一撃を差し込むことができた。
少なくとも彼女の凍えるような瞳が俺に向けられている間は土下座魔王は無事だ。
それにしても慣れたと思ったのに寒いな。俺は薄い胸の方が好きなのになんでそんなに気にするのか。
女心は分からない。おっと、それより目の前の魔王だ。
「冤罪と言ったな?あれはどういう意味だ?」
このパーティー唯一の常識人がようやく再起動して話を進めてくれた。正直ありがたい。彼は重騎士でこの勇者ご一行の希望の星だ。…鎧オタクだけどな。完璧なヤツはいないってことだ。
俺?俺は止めの一撃必殺とおちゃらけたムードメーカーだよ。悪いか。
勇者ってだいたいそんなもんだろ?
「魔物は魔族が操っているわけではないのだ。やつらは自然に湧くのだ」
「自然に…湧く?」
なんかゲームのリポップみたいだな、と思った。だけどこれが分かるのは俺だけだ。俺だけ転生者だ。
寂しい。
「そうなのだ。だから定期的に間引かねばならないのだ。ワシら魔族は基礎能力が高いのだ。だから、これまでも魔物の間引きをやってきたのだが…」
「あー…ね」
なんとなく察してしまった。これまで魔族は魔物と同時に目撃されることが多かった。だから俺たちには魔族が魔物を従えているように見えていたが、実際は彼らが魔物を倒していたのだという。
いや、まぁ仮にそうだとしても、魔族はこの世界の人からすれば人型の化け物に見えがちだ。
ということはつまり、だ。
「魔物を間引いていた魔族を俺たちが勘違いして撃退しまくったから魔物が増えたのか…」
「そ、そんな…」
まさに衝撃の事実だ。そんでもってもやもやする。RPGならはっきりきっぱり終わらせてくれ。なんだこのラスボスが仲間になって真の裏ボスを倒すような展開は。ダレるんだよ。
あ、これゲームじゃないのか。そうだった。目の前で魔王が土下座してるから思わず現実逃避してしまった…。
「こ、今代の勇者殿は話が分かるのだ。どうか見逃して欲しいのだ」
「とはいってもな…、じゃあ俺たちが戻って真実を伝えたところで、魔王に懐柔されたとかなんとか言われて殺されるのがオチだぞ」
「国王様はそんなことはしません!」
「じゃあ仮に聖女のお前が真実を伝えるか?たぶん狂ってると思われて幽閉されるぞ」
「…」
聖女様は想像してみたのか顔面蒼白で今にもフラりと倒れてしまいそうだった。その隣で俺をじっとりと睨みつけている元気な魔法使いちゃんとは対極だな。そろそろ怒りも冷めそうだから追加投入しておこう。
「なぁ、胸もちびちゃん」
「…私を怒らせようとしても無駄」
そんなことを言いつつ目力を強めて魔法使いちゃんが俺を睨みつける。おお怖い怖い。ところで女の子のジト目ってちょっと興奮するよね。あれ?しない?そう…。
「俺、平たい胸萌えなんだ」
「ぶっころ」
あれ?性癖をカミングアウトしただけなのに死刑宣告されちゃったぞ?
そんな俺たちの裏で重騎士と魔王が会話している。ちなみに聖女さんは貧血を起こしたかのようにふらふらだ。
あっ、魔法使いちゃん方面に倒れてその豊満な胸が魔法使いちゃんに押し付けられた。ぶちっと何かが切れる音がした気がすると同時に、重騎士がこちらを振り返った。
「よし殺そう」
「なんで!?え?冤罪って流れじゃなかったの!?お前この不憫なおっさん殺すの!?」
「コロシマス」
「ああっ魔法使いちゃんが怒りのあまりカタコトで無表情になっているぞっ!これは危険だ!」
その後俺は魔法使いちゃんに引きちぎれそうなほど尻肉をつねられ、懸命に重騎士を説得する羽目になった。
ちなみに重騎士は魔王に見逃す代わりに鎧を要求したが、自称平和主義の魔王様は鎧を持っていないらしく、この自慢の腹筋が鎧なのだがはは、と笑った後に殺す宣言されて顔面蒼白になってた。なんだお前は。なんなんだ。
その後、内密なご相談の末…俺たちの旅仲間が2人増えることになった。
「よ、よろしくおねがいシマスデス」
「い、言っとくけど仕方なく、仕方なくなんだからねっ」
微妙に聖女にキャラ被りしてる巻き角が映えた少女と、ツンデレなドラゴン少女が仲間になった。なんだこれは?
いや、分かってる。魔王に押し付けられたんだ。なんでもこの界隈ではトップクラスの実力の持ち主らしく、魔物の間引きに付き合ってくれるらしい。よくもまぁ人族に散々虐げられてきたのに、と言えば、魔王は複雑な表情で、この2人は見た目通りの年齢なのだ、と一言いいおいて城に帰っていった。
つまるところ、子守り、かもしれない。
巻き角が生えた方は随分仰々しい杖を持っている。ウチの魔法使いちゃんとクラス被りかと思いきや殴りプリらしい。いや、本格的に聖女様と被ってる。なんでも殴れないと魔物は倒せないんだとか。そりゃそうだ。
一方でドラゴン少女はまんまだ。口からブレスをふいたり、爪で引っかいたりするらしい。前衛だな。
というか前に出さないと俺たちが丸焼けになってしまう。
それはそうと、俺たちの旅は順調に進んだ。なんでかってその二人がつえーんだ。
殴りプリってなんだっけ?と思う程、巻き角ちゃんの殴打はすごかった。木っ端みじんにグロテスク。もうオーバーキルってレベルじゃないもんね。プリじゃなくて戦士やったら?って言ったら丁重に辞退された。
そんなに戦士嫌か。と聞いたら鎧が重くて着れないらしい。
ん???俺がおかしいのか?
ドラゴン少女はもうなんか見た目通りだった。ドラゴンがそのままちっちゃくなった感じで、暴れるわ暴れるわ。巻き角ちゃんの比じゃないんだわ。俺っている?いらないよね。
そんな風にアイデンティティ喪失に悶えてたら、2人が魔物の体液とか脳漿とか塗れで寄ってくるんだ。スプラッタ。
そんでめっちゃ笑顔。褒めて褒めて!って顔してるけど怖ぇよ。なんだこれ。まぁ褒めるんですけどね。
そうでもして機嫌取らないと怖すぎる。ってのに俺に懐いてんだこれが。
なんかもう、俺が人類の命運握ってる感じさえあるじゃん。いや、元々そうなんだけどさ。勇者だし。それはそう。いや、違うじゃん。そうじゃないじゃんこれ。
そんな俺の後ろの会話がほんのり聞こえてくる。
「ねぇ、あれどう思います?」
「ろりこん」
「ですよね。はぁ。薄い胸が好きってそういうことだったんですね」
「…」
「あら、嫉妬してるんですか?ふふ」
「しね」
「…相変わらず辛辣ですね」
勝手に俺がロリコンにされてるけど、なんかもうどうでもよくなってきたな。魔王倒して帰ったら魔法使いちゃんに告白するつもりだったのに、いつになったら出来るのか。
それも、この2人に許されるか分かったもんじゃない。女って小さい頃から計算高いらしいぞ。怖いな。
これが…単に俺に懐いてるだけだと信じたい。切に。
そんな風に各地を旅して、時に同志から隠れて、時に現地の魔族の人たちの誤解を解きながら、時に魔族の子2人に寝床に潜り込まれながら…あれ、これもしかして詰んでない?
…魔法使いちゃんが恋しいんだけど。あの子、あの見た目で俺と同い年なんだ…。だから俺はロリコンじゃないんだ。
…ほんとだよ?
そうやってどんどん薄れていく俺の存在意義。勇者じゃなくて保護者だよこれは。そんで、気配察知とか千里眼とか罠解除とか、本来盗賊が覚えるスキルがどんどん伸びる。
何故って、魔族の子二人引きつれてあっちこっちで魔物討伐してるからだ。もう俺盗賊でいいじゃんね。そうは思わない?
でも、勇者を辞められない理由は確かにあるんだ。この魔族の子二人、体力が尋常じゃないんだ。その2人についてく体力と、そんで聖女様と魔法使いちゃんを運ばなきゃならない。
そこで、勇者のチートばりの体力と風魔法が役に立つんだ。
…なぁ、勇者の使い方間違ってんよ。
そう声を大にして言いたい。…いや、分かってるよ。やります。やりますって。
そんで3年越しの今日。魔物の間引きはあらかた済んだ。
各地の魔物を全滅寸前まで追い込んだんだ。そりゃ、もうそろそろ終わってくれないと俺も困る。
なんせ、今年で俺は22、魔法使いちゃんも22だ。早熟で早婚の異世界では若干出遅れ気味になっている。そろそろ式を挙げたい。魔法使いちゃんも俺を待ってくれてるみたいで、このところちらちらと俺を盗み見する回数が増えている。これ以上待たせるのは忍びない。
だけど、悪い予感は当たるんだ。
そうだよ。魔族2人がゴネた。それはもう盛大にゴネた。
巻き角ちゃんは寂しいと泣きわめくし、ドラゴン少女は俺にしがみついて放さない。いや、分かってたけどさ。
挙句は涙声でついていくだの結婚するだの喚き始めた。勘弁してくれ。
そんで、呆れた様子の魔法使いちゃんが言うんだ。
『その2人をお嫁さんにすれば?』って。
お前が入ってないやろがい!わざとか!?
そんなこと言うから言ってやったんだ。お前しか嫁にする気はないってな。そしたら顔真っ赤にして気持ち悪、だってさ。素直じゃないねぇ。ま、そんなところが可愛いんだけど。
惚気はその辺にしてそろそろ現実に戻ろう。とはいえ、戻る先は人族の領域。魔族はお呼びでないって言ったら、じゃあ人族になる!とか言って魔王の城にすっとんで行った。何かそういうスキルでもあるんだろうか。
いや、無いだろうな。かといってじゃあこのまま出発すれば、きっとあの2人は追いかけてくる。そんで、俺たちは引き返さざるを得なくなるんだ。いや、勘弁してくれ。
数分後、俺たちの前で魔王がまた土下座してた。この国どうなってんの?
「どうか、この子たちを貰ってはくれんか」
「つまりこの国で暮らせと」
「数年後、種族替えの儀式が可能となれば、問題はなくなるのだ」
「え?今なんて?」
人族に迫害された魔族たちはこのままではいけない、とそんな儀式を開発したそうな。
勿論変更先は人族。スキルやステータスが大幅に減少することを代償に人族になれるらしい。まじかよ凄いな魔族。
ただ、それはある程度体が出来てこないと使えない代物らしい。
あの魔物をばったばったとなぎ倒してた2人の身体はまだ出来てないんだってよ。…それは何かの冗談か?おん?
ともかく、数年後に心変わりしていなければ人族になって俺たちのところに来るらしい。
俺の一存では決められないので魔法使いちゃんに話しかければいい、と即答だった。ちなみに良い方のいい、ね。たぶん彼女を含めた3人で話はついてたんだろう。げに恐ろしきかな女の子。
そんなわけで俺の出る幕はなかったということだ。
そんでなんかもう散々あいでんててーを削り散らかされて、俺は大分丸くなったと思う。
最初こそ勇者なんていう使命感に突き動かされてたけど、ラスボスが残念なやつだと気付いたあの時から、俺は勇者であり勇者でなくなった。ちなみに今はただのちょっと強いだけの戦士だ。
例の魔物間引きが終わるころに魔王は討伐されたことになっている。そんで勇者の力は女神様に取り上げられた。
なんでも過ぎた力は不和を生むとかで。
それでも俺は割と幸せだ。愛妻は可愛いし、つい最近俺のもとに来た元魔族の2人も和気あいあいとしている。ちなみに俺と愛妻の山盛り砂糖ばりの甘々いちゃいちゃを見せつけられていい加減現実を見たらしい。
まだ子供は作っていないので、今はこの2人が娘みたいなもんだ。巻き角ちゃんが妹でドラゴン少女が姉かな。
おっと、今はもう人族だからこの名前はもう使えないのか。
ちなみに聖女様も過ぎた力は取り上げられて、それでも教会で聖女をやっている。なんでも、宗教上、聖女は止められないんだとか。まぁ仕方のないことだ。
たまに愛妻と労いに行っているが、その度に複雑な表情で目を逸らされる。流石に外では控え目にしてるけどそれでも甘いみたいだな。
重騎士は旅の中でちゃっかり魔物の部位を売却したりして稼いでいたらしく、その大いに溜めた金で鎧を買い集めているらしい。ぶれないなアイツは。凄いよ。一番すごい。なんせアイデンティティを保ってるんだもの。
みろよこのズタボロの俺を。このさえないおっさんを見て勇者だって言うのは誰の一人も…いや。まぁ数人はいる。
俺のかつてのパーティーと、魔族でありながら勇者様と俺を慕ってくれた今は娘のような2人と、そんでもってあの不憫なおっさんだ。
魔王、元気にしてるかな。
終わり
* * * * * *
後書き
おもっくそふざけたギャグ展開の面白くてあっさり読めるファンタジー系の短編を書くのが夢です。これに点数を付けるなら甘めで60、厳しめで30ですね…。まぁその辺は個人の好みなので。
チャレンジ精神があるかのように見えて実はありません。その日の気分とどっかから貰ってきたインスピレーションです。インスピレーション大事。
では、また機会があれば。
※前作の件について
いつも勢いが大事なので前作の続きは僕の神出鬼没なモチベーションが出現したらです。いつか書くと思いますが確約はしません。長い目で見守ってね。
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