短編①
なんか久しぶりに勢いで一気に上手いこと書けた気がするので投稿することにしました。一人称視点、恋愛モノです。ファンタジー系の前提知識が必要かもしれません。若干R-15的表現を含みます。それとかなり粗削りです。
* * * * * *
あたしがまさかこんなことで悩むことになるなんて思いもしなかった。
背が低いチビで、出るとこも出てない男女で、ガサツで愛想もないこのあたしに。
まさか本気で口説いてくるやつがいるなんて。
無題
始まりは一つの依頼だった。
そこそこ腕も上げて、人格はともかく達成率で信用され始めたあたしに舞い込んだ指名依頼。
断ることなく受けるのが筋だけど、しっかり条件は確認させてもらった。
どうってことない、魔物が出る森で薬草を探して欲しいという依頼。
まぁ、最初はこんなものだろう、とその時のあたしは考えてた。
でも、違った。
その森で、あたしは魔獣に囲まれて、手酷い怪我を負って這う這うの体で逃げ出した。
今思い返せば、あれは他の指名依頼をしっかりとこなせるのか、
判断基準としてギルドが手配したものだったのかもしれない。
つまり、あたしは失敗した。
ギルドの期待を裏切った。
けれども、そんなあたしに手を差し伸べる変な奴がいた。
そいつはその森のすぐ近くに住む村人で、傷だらけのあたしにこんなことを言った。
『あの、腕には少し自信があるので、お手伝いしましょうか?』
その時、悔しいやら情けないやらで気が立っていたあたしは開口一番、断ってやった。
治療代は高くついたが、それでも、あたしはリベンジすることに決めた。
薬草採取なんてのは初心者が小銭稼ぎでやる依頼だ。だから失敗したなんてナメられないために。
だっていうのに、次もダメだった。
囲まれないように注意していたつもりだった。
でも、素早さではあっちが上で、また逃げ出すハメになった。
その時は幾らかのかすり傷で済んだ。まだやれる。そう思っていたっていうのに。
『…あの、お手伝いしますよ?』
思わず殺気だってぶっ〇すぞなんて言い返してしまった。
その時はカケラもあたしが悪いなんて思わなかった。
だけど。
3回目。いい加減魔獣たちもシビレを切らしたのか、あたしが逃げ出す素振りに敏感になりやがって、逃げるに逃げられなくなったあたしは消耗戦をせざるを得なくなっていた。
終わりか、と何度も思って、それでも諦めたくなかったあたしは足掻き続けた。
そんなときだ。あいつが現れたのは。
『お手伝いしますって!』
そんな変な掛け声で乱入してきたあいつはすかさず口に何かを含んで吹き鳴らした。
音は鳴っていないはずなのに、魔獣共は耳を伏せ逃げ出して行った。
あたしはそいつを睨みつけて、そいつは慌てたように首を振った。
『え?ちょっと待ってくださいよ!助けたのに!』
ひょうきんでふざけた変なヤツだった。
でも、あたしが睨みつけると何も理由が無い時でも慌てて言い訳を始める面白いヤツでもあった。
だから少し油断したあたしは…初めて人に助言を頼んだ。
別に、そいつが何かあの魔獣共を打ち倒す秘策を持っているなんて思ってたわけじゃない。
別に、魔獣討伐に行き詰まってたからでもない。
ただ、お手伝いしますよ。と煩かったから。
それなら、言わせるだけ言わせてみるか、なんて気まぐれ…だったのに。
『実は俺、アレの毛皮で生計立ててるんスよ』
なんて言うから。
あたしはブチ切れそうになるのをどうにか抑え込んで、薬草のことを尋ねた。
別に、そいつのことを気にかけたわけじゃない。
ただ、そう。仮にも助言をくれたやつの生活を脅かすわけにはいかないと思ったからだ。
ようやく信用を勝ち得てきたあたしが、そんなことで躓くわけには行かない。そう思ったから。
だってのに。
『お手伝いしますよ!この森には詳しいんス。魔獣も、まぁ、必要なら討伐手伝いますよ!』
なんでそこまで言い切れるのか分からなかった。
妙にいい顔で、あたしが何度鬱陶しいと睨みつけても、妙に構ってくるやつだった。
結局そいつの手伝いで依頼を終えて、街に戻ろうとしたとき、そいつがついて来ようとした。
だから置いてきた。ってのに。
『お手伝いしますよ!』
依頼を受ける度に何度睨みつけても必ず声を掛けてくる。
いつの間にかついてきたそいつはあたしに纏わりついてはそんなことを言った。
もういい加減うんざりだ。そう思ってようやく、あたしがそいつに理由を尋ねていないことに気が付いて。
だから。
『なぁ、なんでついてくんの』
『いや、その…恥ずかしながら一目惚れなんスよね!初恋で、その、逃したくないと思って!はは』
『…は?』
そんなことを言われたのは初めてで。
一気に顔が熱くなって思わず顔を背けて。
あ…あたしのどこが…なんて呟いたら、か、かか、可愛いじゃないっスかって。
か、かか、可愛い?あたしが?チビで男女で不愛想なあたしが?
そうやって、混乱して、その日は依頼も受けずに宿に帰る羽目になった。
しばらくたって、どうせ揶揄われたに違いないと思ったあたしは急に冷静になって、だんだん怒りが湧いてきたから今度こそぶっ〇してやろうと思ったのに。
あいつがカチコチになりながら女向けの装飾品店で髪飾りを選んでるのを見て。
誰に贈るのか、なんて思って。あたし以外の女に贈るところを想像して。
嫉妬してる自分に気が付いて唖然とした。
逆に、それがあたしへの贈り物なんだとしたら。顔が熱くなって。
店から出てくるそいつに声を掛けることも出来ずに宿に戻るハメになった。
それからだ。そいつのことで悩むようになったのは。
でも、その悩みも長くは続かなかった。
いつもみたいにぎこちなくあいつとお喋りして、依頼を手に取ってたら。
ガラの悪い奴らがあたしに喧嘩を売ってきた。
『よぉ、男女。調子はどうだ?男は出来たか?』
『そこの坊主とのお喋りは楽しかったかい?ボス猿さんよぉ』
『坊主も可哀そうになァ。こんな色気もクソもねぇチビに言い寄られてよぉ』
『カッカッカ!ちげぇねぇ』
あたしがいつもみたいに睨みつける前に、そいつが声を上げた。
『今の言葉…取り消せっ…!』
『はぁ?何言ってんだ?別にお前のことじゃねぇぞ?』
『たった今、この人を侮辱しただろ!取り消せ!』
『なんだぁ?こいつ。目ん玉腐ってやがんじゃねぇのか?』
『俺のことはなんと呼んだっていい…だけど彼女は…俺の初恋の人だ!』
『…は?』
いつもみたいな腑抜けた笑顔じゃない。歯をむき出しにして険しい表情で男どもを見ていた。
それがなんだか滑稽で。それでもまぁ、少しは嬉しかったのかもしれない。
その後、そいつはぼこぼこにされてギルドの隅に転がされた。
『あーあ…ポーション飲むか?』
『…いらない』
『つよがんな。ほら、あんときの礼だ』
『……弱くてごめん』
『誰に謝ってんだ。らしくねぇ。いつもみたいに笑って見せろよ』
『……』
その後に、そいつが言った言葉が問題だった。
『いつか、あんたを守れるぐらい強くなる。だからその時は…俺と来てくれ』
まさか、ズタボロになった状態でそんなことを言われるとは思っていなかった。
だけど、その目はあたしを真っ直ぐに見つめて、あたしを捕まえて放さなかった。
それからだ。あたしがなにかにつけてあいつを気に掛けるようになったのは。
別に、早く強くなってあたしを貰って欲しいとか、そんなことを考えたわけじゃない。
ただ、そう。
あたしのどんなところが好きになったんだ、とか、
あのときのお前は格好良かったぞ、とか、そんなことをただ言ってみたかっただけだ。
いや、はっきり言えばもう心は奪われていて。
あとはそいつが結局実力が足りなくて、ヘコんでるところをあたしが拾い上げるか。
それとも本当につよくなったそいつがあたしを貰ってくれるかのどちらかだったんだが。
終わり
おまけ ※会話のみ
「で?あたしのどこが好きなんだよ」
「…それどうしても答えなきゃダメか?」
「教えてくれないと嫌いになりそうだ」
「っ!…分かったよ。ええと、まずは、そうだなぁ。そのぶっきらぼうな話し方が好きだ」
「っ…そうか」
「それと、俺より背が低いのがいい。…俺は他のやつらよりちょっと非力なのは知ってるだろ?
だから、その、抱き上げたりするのにその方が都合がいいなって」
「…男は色気がある方が好きなんじゃないか?」
「他の奴らは知らないけど、俺は女ならなんでも…あっ!今のは別に、お前以外でもいいってわけじゃないからな!
あくまで色気は気にしてないだけで!」
「それはやっぱりあたしには色気が無いってことかよ」
「…ふ、普段はどうか分からないけど、君、床の上じゃ」
「あーあーあー!今その話は止めろ!」
「…で、話を続けると、その、俺は胸は薄い方が好みだ」
「それも変な話だな。男は皆でけぇのが好きだと思ってたよ」
「あー…女でも筋肉ムキムキな男が好きな人と細い男が好きな人がいるだろ?そんな感じだよ」
「…そう言われると、そういうもんなのか」
「まぁ、だから容姿と話し方がドンピシャだったわけだけど、今はそれだけでもないかな」
「…ん?まだあるのか?」
「今は、君がぶっきらぼうだけど優しいところもあるって知ってるし、ちょっと寂しがりやなところも愛おしいよ」
「…そうかよ」
「そうやって照れるところも可愛いね」
「……」
「褒め続けると無言になって上目遣いで睨みつけてくるのも正直かなり可愛いと思ってる」
「な、なぁ、もういいから。止めにしないか?」
「ははは、それじゃ、今度は君の番だ。なんで俺のことを好きになってくれたのか、聞いてもいい?」
「そりゃ、お前が…あたしに一目ぼれしたなんて言うから…その、気になっちゃって」
「ふんふんそれで?」
「も、もういいだろ!……あーもう、分かったよ。あー…い、意外といい男かもって思って」
「それで?」
「……やっぱり決め手はごろつき共に怒ってくれたときかな」
「…いや、俺としては正直、かっこ悪かったなって思ってるんだけど」
「怒るお前なんて見たのあの時が初めてだったし、その、嬉しかったし」
「思えば最悪のプロポーズだったな」
「そんなことない。あんなボロボロになってもあいつらへの怒りを絶やさなかったこと、今でも覚えてるから」
「…なんかちょっと恥ずかしいな」
「ああいう顔、またしてよ。そしたら何度だって惚れ直すからさ」
「…まぁ、そういう時になったらね。できればそんな時が来ないことを祈るけど」
「……床の上ではたまにそんな顔で愛を囁いてくれるけどね」
「ブッ!? 今はそういう空気じゃなかっただろ!?」
「ふふっ 仕返しィ。効いた?」
「効いた効いた。効いたから夜は覚えとけよ」
「…お、お手柔らかにィ」
後書き ※作者に興味がある方だけどうぞ。完全な蛇足です。
こういうのが読みたいと思って書きました。こういうのなんて言うんだっけ。自己供給?なんかそんな感じの。設定はふわふわのガバガバですが、勢いで書いた割にはいい出来だと思いました(他人事
地味に恋愛モノが好きな草食系男子ですが、恋愛経験は皆無。知識は全て創作物からの受け売りです。大人な恋はあまり知らないので、青春系、甘酸っぱい感じのやつ、オタク受けしそうなやつばっかりになりそう。
なお、次回は決まっていません。ただ、コメントなどでネタを送って下されば、ティンと脳髄に来たやつで、かつ、勢いが乗れば、投稿される可能性はあります。ただ、想像通りのものが提供されるとは限りません。
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