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恋占い(約4500字)|#青ブラ文学部&#シロクマ文芸部

始まりは、カホのひとことからだと思う。

「サナ!占ってくれる?」

休み時間になると、私の周りに恋占い希望の女子が集まる。女の子は誰だって好きな人ができると、その人とうまくいくかどうか気になるものだ。私も自分の片思いの彼との仲を占いたくて、本を読み勉強したんだけれど、その勉強風景を見られ「練習台でいいから占って!」と言われ現在に至っている。まるっきりの素人だけれど、希望を持たせるように気を配っているからか、それなりに喜ばれているようだ。

私は姓名判断で占いをしている。だから占うときには、相手の好きな人の名前が思いっきりバレるのだけれど、一応守秘義務というのは守っているからそんな所も人気の元なのだろう。みんな私の手のひらの上で一喜一憂している。

「カホ、今度は誰のことが気になるの?」

自分のことは置いといて、キューピット役を全うしようとする。カホは惚れっぽいというか、飽きっぽいというか… 好きな人がコロコロと変わる。

「あのね、島野くん。隣のクラスの… 知ってる?」

「えーっと、メガネかけたブラバンの子だよね?」

「そう!トランペット吹く姿がカッコいいなぁと思って」

「そうなんだ」

私は、占ってあげたい気持ちが一瞬消えた。だって私の片想いの相手が、その島野くんだから。もし、カホとの占いの結果が良いものだったら、自分は耐えられるだろうか… なんとなく自信がない。

「ねぇ、早く占ってよ!」

「わかった。いつも言っているけれど、私はプロじゃないから、占いの結果が悪くても恨まないでよ」

「大丈夫だよ。サナのこと信じてるから」

仕方がない。私の占いなんて、素人の真似事なんだから、どんな結果が出てもしょせんお遊びの延長だし。私も開き直って、どんな結果が出ても気にしないことにした。

カホの名前と相手の名前を書き出して… 画数の組合せとかいろいろ計算すると、今まで見たことがないくらいの好成績の恋愛運が出た。

「すごいよ…カホ!こんな高得点の恋愛運、見たことがない…」

「マジで?じゃあ私、これから告白に行ってこようかな。ありがとう、サナ!応援してね」

カホはサッと席を立って、本当に告白しに出かけてしまった。私はポカンと座ったまま… 「次、いいですか?」と、次の占い希望者に声をかけられるまで放心状態だった。

島野くん… 隣のクラスでメガネかけたちょっと背が高い男子。イケメンだとか特に目立つようなことはないけれど、ブラスバンド部のトランペットパートでたまにソロを吹いたりする。時々校庭の片隅で練習をしている。風に乗って流れてくる彼の音に心がときめいて私も好きになったくちだ。カホのことをとやかく言う資格などない。でも、絶対に私の方が先に島野くんのことカッコいいって思ってたはず!

カホの後に二人ほど占いをして、今日はコーラスの部活がなかったから放課後はすぐに帰宅した。なんとなく学校にいたくない…そんな気分だった。島野くんに告白しに行ったカホは、どうしただろう。告白成功した姿も、不成立だった姿も、どちらも見たくない。明日からカホとどんな顔をして過ごしたら良いのだろう…

ちょっとムシャクシャ気分の私は、ピアノを弾くことにした。小さい頃から習っていて、最近は耳コピ
した曲を弾くことが多い。今日は…『いつか王子様が』まんまな気分。でも私に王子様が現れるのは100年早いとも思っている。あ、100年も待っているうちに寿命がきちゃうわ。せめて島野くんが『いつか王子様が』をソロで吹いてくれるのを聴く機会があれば…と願いながら曲を奏でた。

翌日、カホがまたお願いをしにきた。

「ごめん、サナ。私、島野くんよりも浅田くんの方がカッコいいことに気がついちゃったみたい。本当にカッコいいの。昨日、あれから島野くんに告白しに行ったんだけど、隣のクラスの入り口で浅田くんにぶつかったのよ。告白の邪魔すんなと心の中で怒ってたんだけど「ごめんね、大丈夫?」って肩を抱いてくれてさ、そしてキラキラの目で見つめてくれて… メガネの島野くんより全然素敵だと思ったの。ていうより、この出会いは運命じゃない?」

また私は放心状態になってしまったようだ。

「サナ?」

「あ、浅田くんとの運命を占うのね。わかった」

カホと浅田くんの名前を並べて書き、占いを始めようと思ったら「あ、浅田くんが部活のサッカーに行くみたい!見に行くから占いは後でいいわ」とキャンセルされた。私は再び呆気にとられる。こんな日はさっさと家に帰ろう。部活は…サボる。

教室を出て、昇降口で靴を履き替えて外に出たら、風に乗ってトランペットの音が聞こえてきた。あれ?『いつか王子様が』のメロディーじゃない?昨日の今日で、私の願い事が叶っちゃったみたい。なんだか心が通い合ったみたいで嬉しいな… そんなことを思いながら家に帰る。

カホはもう島野くんのこと何とも思わないのかな…と思ったら、ホッとしてきた。このまま片想いを続けても大丈夫だという安心感がわいてくる。好きな人をそっと見守るしあわせな気持ちは大切にしたい。ピアノを弾く手のひらの恋心。今日の気分は…天空の城ラピュタのパズーが吹くトランペットを思い出して『ハトと少年』かな。あの曲は神だわ。そしてトランペットも… 島野くん、吹かないかな… 

翌日、またカホがお願いをしにきた。日替わり定食かと思いながら、今度の相手は誰かと気にもなる。

「あのね、実はサナと島野くんを占って欲しいの。私には浅田くんがいるけど… あ、実は付き合うことになったんだ。すぐに教えなくてごめんね。で、浅田くんって島野くんの友だちらしいんだけど、島野くんサナのこと好きらしいよ」

「えっ、な…何ですって?」

「だから、島野くんがサナのこと好き…」

「どうして?」

「そんなこと知らないわよ。本人に聞かないと」


私は思わず席を立って、廊下に飛び出した。休み時間だから人がたくさんいる。「あ、サナ。今占う時間ある?」と聞いてくる女子もいた。「ちょっと休憩中だから、次の休み時間にね」と答える。顔がなんかほてっている気もするから、冷まさないと。隣のクラスをちらっと見たら、島野くんが見えて一瞬目が合った…気がした。カホは浅田くんと並んで私を見ている。浅田くんが「アイツ、いい奴だから」と一言だけつぶやいた。

私は部活に出た。コーラス部とブラバンは部室が隣同士だ。ブラバンは音楽室でコーラスは音楽準備室。準備室に器材が置かれているから、ブラバンは部活の前後に私たちの前にどやどやと現れるし、お互いの音や声は筒抜けだ。練習する中で、何故かいつも島野くんのトランペットが耳に残った。上手い人は他にもいる。でも私の心に響くのは島野くんの音色だった。感情を込めすぎて息が続かなくなるようなところも島野くんらしいと思う。今日の練習でも、なんか力みすぎているような音を出していた。

私は練習ピアニストみたいな存在。パート練習の時などに、ちょろっと伴奏を弾く。そうじゃない時は、メゾソプラノを歌う。どちらにしても中途半端な存在かな… こんな取り柄のない私のこと好きなはずはない。何かの間違いだろう。

突然隣のブラバンの部室から『ハトと少年』が聞こえてきた。吹いているのは島野くん、と他の誰か数人。島野くんの音色だけわかる。なんとなくパズーになりきっているような… でも、ほんの一瞬の出来事。きっとブラバンの休憩時間なんだろうな。他の楽器も好き勝手な曲を奏でていたから。

コーラスの練習が終わり、私は島野くんのトランペットの音を思い出しながら「私のこと好きだなんて…いや、ないない」と考えつつ校門を出ようとした。校庭では野球やサッカーの部活がまだ続いている。浅田くんが見え、手を振ってくれた。手を振り返そうかと悩んでいたら、彼の方から近づいてきた。

「島野はね、いつもあの体育館の脇で部活後も練習してるよ。行ってみたら?」

「なんで島野くんのこと知ってるの?」

「あいつとは小学生の時からの友だちさ。話してみたら?本当に、いい奴だから」

「うん… ありがとう。カホにもよろしくね」

「おう!」

浅田くんはサッカーに戻り、私は体育館の方へ歩いて行った。すると、島野くんが現れた。とてもビックリしていた。

「佐藤さん!どうしてここに…」

「島野くんがトランペット練習しているのを、ちょっと聞いてみたくて… 浅田くんから教わって…」

「浅田のやつ… うん、わかった。じゃあ、何が聴きたい?吹ける曲なら吹くよ。あ、当たり前だな」

「じゃあ『ハトと少年』がいいな。さっきは途中までしか聞けなかったから」

「練習中の遊びで吹いていたのが聞こえてたんだ。なんか恥ずいけど嬉しい。じゃあ吹くね」

島野くんは、すっくと立って校庭に向かい高らかにトランペットを奏でた。あのジブリ映画のパズーのように。校庭で運動している人たちも、一瞬動きを止めてこっちを見た。素敵過ぎる。涙が出てきた。思わず拍手してしまった。

「佐藤さん、僕、ずっと佐藤さんのこと好きでした。小学校の頃、佐藤さんがピアノの練習する音を下校の時とか聞いているうちに、佐藤さんの音色が好きになって… いつも楽しそうに弾いているから、聞いてるこっちも楽しくなるし。曲の風景もなんとなく浮かんできたりして。きっと優しくてあたたかい人なんじゃないかなと想像していたんだ。音楽関係の部活に入ると思ったから自分も入ろうと考えたけど、コーラス部って歌を歌うから… 僕は歌は上手くないからいつか一緒に演奏してみたいなと思いながら、トランペット吹いてたんだ」

島野くんのトランペットの音が私の心に響くのは、島野くんが私のことを思いながら吹いていたから!そんなこと言われたら、誰だって惚れてしまうでしょ?

「昨日も一昨日も部活の時会えなくて、なんとなく気になって家のそばを通ったら佐藤さんのピアノが流れてきて… 『いつか王子様が』とか『ハトと少年』なら吹けるから、思わず吹いてしまったけれど。イメージ壊したならごめんなさい」

「ううん、嬉しい。本当に…私のこと見ててくれてたんだね。気がつかなくてごめんなさい。でも、私も島野くんのこと、実は気になっていたんだ」

「そうだったの?佐藤さん、僕と…僕と…」

島野くんは手を出して握手を求めてきた。さっきまでトランペットを奏でていた大きな手。

「こちらこそ、仲良くしてください」

私も手を伸ばして、彼の手をそっと握る。ぎゅっと力強く握り返された。

   パチパチパチ…

誰かが拍手している。浅田くんとカホだ。

「やったー!カップル成立だー!」

「えっ、見てたの?」

「あんな公開プロポーズみたいな演奏聞かされたら、誰だって気になるでしょ?」

確かにそうかもしれない。

私は実はカホの手のひらの上で、転がされていたのかもしれない。

「サナ。今度、ダブルデートとかしない?」

「佐藤さん、どうする?」

しあわせ過ぎて…  

[了]
※ 投稿してからカホとサナが逆になっている場所発見😭修正しました 2024.3.30


ちょっと久々に、大好きなnoter山根あきらさんの#青ブラ文学部に参加してみました。
片想いの物語書くと止まらなくなる癖(癖なのか)が今回も出てきました😅

そして、小牧部長の#シロクマ文芸部にも絡めて参加いたしました。

いつも楽しい企画をありがとうございます。

#青ブラ文学部
#手のひらの恋
#シロクマ文芸部
#始まりは

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