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鉄道模型のエンジンがかかった瞬間

 鉄道模型が趣味で、電子工作も趣味。この2つを組み合わせると歌うドレミファ電車が作れる。更に怠惰を加えると、歌う電車が出来ず、代わりに震えるディーゼル列車が出来上がる。そんなナゾ技術にエンジンが掛かった瞬間の顛末をここに綴る。

Nゲージ×Arduino=ドレミファインバーター

 鉄道模型は本物の鉄道を小さくしたものであり、見るだけでなく、レールに電流を流すことで運転もできるのが醍醐味。日本では住宅事情でNゲージと呼ばれる軌間 9mm の小型が好まれる。小さいと自作が難しく、多くの人は既製品や半製品を組み合わせている。代わりに、日本では車両もレールも数多く製品化され、手軽に楽しめる環境が整えられている。誠に有り難い。

 Arduino は電子工作に良く用いられる小型の計算機。親指サイズのものまであるが、それでも車幅 2cm のNゲージ車両には入らない。その代わり、レールに流す電流を制御する装置には手軽に使える。代表的な楽しみ方として、動力車のモータに歌わせるドレミファインバーターの実現が熱い。

 ドレミファインバータは電車の制御技術の一つ。直流で送電し、インバータで交流に変換してからモータを駆動する手法があるが、モータから耳障りな磁励音を出すのが玉に瑕である。そこで、煩いのは仕方ないが、周波数を音階に合わせれば乗客に受け入れられ易かろうと考案されたのがドレミファインバータである。結局は煩いが、歌う電車として愛されてきた。

 鉄道模型でも直流を送ってモータを回すが、電圧を変えることで速度を変える通常の変圧方式に対し、自作では 0Vボルトと12V を高速に切り替えるパルス変調(PWM)pulse width modulation方式が人気である。この PWM 制御の周波数を音階に合わせると煩い磁励音が実車同様に鳴り響く。実際に成功した人も多い。

 丁度 Arduino が PWM 出力機能を持っているため、PWM 制御が手軽に実現できる時代になった。自力で発振回路やタイマーICを使うのも面倒なので、怠惰の下で Arduino だけでドレミファインバータを実現してみた。

  しかし、無謀だった。

調べて試した結果、Arduino では PWM 制御は容易にできたものの、動作周波数を自由には選べず、欲しい音階を出すのは叶わなかった。

Nゲージ×Arduino×怠惰=ディーゼルエンジン

 ドレミファと歌わなくても PWM 制御自体は手軽に出来ていて、それだけでも十分に嬉しい。そのため、今度は煩い音を聞こえない周波数にした簡易な PWM 制御を目指した。

  またもや無謀だった。

人間の可聴域が意外に広い。調べた限り、Arduino の選べる周波数では可聴域からは逃れられそうになかった。

 こうなったらもう意地でも使ってやろうと、ダメ元で選べるパラメータを総当たりして、モータの出力と磁励音の周波数を調べ上げた。すると、低めの周波数を試した際に、電車が震え出し、意外にもディーゼルエンジンのような音が出ててきた。

  エンジンがかかった瞬間だった

 モータでモータ音を真似る人はそこそこ居るが、モータでエンジン音を出す人はそう居ない。その上で実車のように震えるとか、これは楽しいことになるに違いない。

音を楽しむ鉄道模型へ

 検証のため北海道旅行で実車のエンジン音を撮って解析したところ、大体は 40Hz~120Hzに数本程度のピークが立つ単純な音であることが分かった。模型で出せたエンジン音もピークの位置が異なるが同様に単純な音だった。厳密には周波数も音色も全く異なるが、Nゲージは 1m 離れて見るのも実車を150m 先から眺める縮尺であり、雰囲気を出すにはこれでも充分だった。

エンジン音の周波数解析の結果

 次は、旅行で見つかったディーゼルならではの魅力として、アイドリングに着目した。電車は止まれば黙るが、ディーゼルは止まっても喧しい。駅に複数止まれば大合唱。模型にしたいワンシーンである。アイドリング時は動かないため、駅や車庫の小型レイアウトとも相性が良い。

 模型ではモータを回せば音は出るが、普通に回すと車輪も回って走り出す。しかしアイドリングの再現では、車輪を回さずにモータを回す必要がある。モータと車輪はシャフトと歯車で繋がっているが、歯車の隙間あそびを利用し、車輪が回る前にモータを逆転させることで、車体を動かずにエンジン音を響かせた。

 また、実車は真ん中の腹にエンジンを抱えているため、長編成の通過シーンでは車両の中央付近と連結部でエンジン音が大きかったり小さかったりと波打つ独特な聞こえ方をするのも味わい深い。模型の方も、モータを腹に抱える同じ構造であるため、もしかしたら再現できるのではと試したところ、あっさり成功した。

 Nゲージは1編成についきモータ車1両の構成で販売されるが、キハ110のように2両編成で売られるものは2倍購入して動力車だけで編成を組めば良い。キハ180のように6両編成で売られる場合も同様に組めるが、別売の動力ユニットを買って差し替える手もある。

 全く別の手法として、車両にスピーカと通信回路を積み込めば同様な機能を実現できるが、狭いNゲージの車両を改造せずに市販品で工夫するのがまた一つの楽しみ方と思う。こうなったら、もう少しこのままレガシーな軌道電流制御で頑張れるとこまで行ってみたい。

 その後も、車両改造せずに軌道電流の制御だけで音を出す楽しみ方を広げた結果、蒸気機関車の「シュッシュッ、シュッシュッ」の音も一工夫で再現できた。それはまた長いので別のお話としよう。

 こうして偶然に掛かったエンジンは、今もなお走り続けている。

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