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地球温暖化の歴史と「2050年ネットゼロ目標」への道のり

2020年に菅義偉首相(当時)が、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロとする宣言をしました。2022年4月には、東証プライム市場上場企業は「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」の開示が必須になり、ますます気候変動のリスクに関する対策の緊急度が上がってきています。

でも一体なぜこのような対応が必要になったのでしょうか。

これらの気候変動対策の背景を歴史から紐解き、解説していきます。


14世紀、世界大気汚染の始まり


14世紀頃、イギリスをはじめ、石炭をエネルギーとして利用することで、様々な製品が進化し、工業が発展しました。しかしその当時は環境対策等を行っておらず、結果的に大気中に石炭の煤塵が混じり、空気が悪化し、人々の生活は不快を極めました。

そして改善されることなく工業はますます発展を遂げ、19世紀には世界全体で様々な被害が報告されるようになりました。工場から出る亜硫酸ガス、フッ素化合物、一酸化炭素など人体に有害な物質が大気中に放出され、多くの人が急性呼吸刺激性疾患を患い、命を落としていました。
(参考:環境省「大気環境保全技術研修マニュアル : 総論」大気汚染の歴史・第2章 世界大気汚染史

第2次世界大戦後の産業成長と大気汚染


かたや日本では、第二次世界大戦後かつてないほど著しい経済成長を遂げ、1960年代後半の経済成長率は平均10%を超えていました。経済成長を支えるためにも大量のエネルギーを確保する必要があります。当時の日本は工業復興のために石炭を主要エネルギーとしていたので、降下ばいじんや硫黄酸化物による大気汚染が増加しました。

大気汚染は人体にも悪影響をもたらす一方、水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくといった公害病も同時期に発生しています。これらの健康被害は全て産業型の公害だと政府も一致した意見を示しています。
(参考:環境再生保全機構「大気環境の情報館」

世界中で高まる危機感、そして協力体制構築へ


1979年、世界気象機関(WMO)により組織された第1回世界気候会議は、WMOが継続的に観測している二酸化炭素をはじめ温室効果ガスの濃度上昇や、それらに伴う気候変動が経済に大きな影響を与えていることを、世界各国が協力して人々に警告するように求めました。

また、1980年代半ばに入ると気候変動の研究家が危機感を強めます。WMOは世界各国が一同に集まって気候変動に関する対策を議論する場、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)を設立しました。

IPCCの目的は、自然科学や社会科学の研究成果を基にして地球温暖化対策に科学的根拠を与えることにあります。そして1990年のIPCC第一次評価報告書では、「人類の経済活動によって気候変動が生じる恐れを否定できない」と発表しました。

続いて1994年、大気中の温室効果ガス濃度安定化を究極の目的とした「国連気候変動枠組条約」(UNFCCC)が発効しました。発展途上国を含む全てのUNFCCC締結国は、究極の目的のために各国にて対応策を考え、実施し、その経過と結果を「締結国定例会議」(COP)にて報告することが義務付けられています。
(参考:全国地球温暖化防止活動推進センター「気候変動枠組条約」

全世界で目標設定、SDGs達成に向けた歩み


2010年、メキシコ・カンクンにて開催されたCOP16にて、締結国間で気候変動の影響を回避するために産業革命後の気温上昇を2°C未満に収める「2°C目標」が合意されました。そして2°C目標を設定することによって、大気中に残された温室効果ガス排出可能量を明らかにする「カーボンバジェット」が設定されました。

その結果、このままだと全世界の経済活動に残された排出可能量はあと数十年しか持たないためカーボンバジェット内での経済活動を続けていく必要があることが分かりました。

2015年、フランス・パリで開かれたCOP21で「パリ協定」が締結。2010年のCOP16にて合意された「2°C目標」に加えて、気温上昇を1.5°C未満に抑える努力義務が追加されました。さらに地球の温室効果ガス濃度をピークアウトさせるために、21世紀後半には地球上の森林などの吸収量とバランスが取れた状態にすることが世界共通目標として掲げられました。パリ協定には先進国・途上国含む196カ国、世界の温室効果ガス排出量の55%以上を占める国が参加しています。

パリ協定は歴史上最も画期的だと言われています。その理由は二つあります。

1.途上国を含むすべての国が対象

今までの温室効果ガス排出量削減は先進国のみに義務付けられていました。しかし途上国も2000年代に著しい成長を遂げて、それに伴い温室効果ガス排出量もずっと増加傾向にあります。事実、2016年当時の全世界温室効果ガス排出量の内訳をみると中国が全体の23.2%、インドが5.1%、インドネシアが3.8%の割合を占めています。途上国も対象にすることで全世界的なインパクトが大きくなるという背景から、途上国を含むすべての国に温室効果ガス排出量削減が義務付けられました。

出所:経済産業省・資源エネルギー庁「今さら聞けない『パリ協定〜何が決まったのか?私たちは何をすべきか?〜」

2.ボトムアップアプローチ

今までの温室効果ガス排出量削減に関する施策は先進国を中心にトップダウンで決められていたところ、パリ協定では各国が自国の状況に応じた実現可能な目標を掲げ、自主的な削減対策を打つことが認められました。トップダウンでなくボトムアップによるアプローチは、かねてから日本が提唱してきた手法でもあります。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「今さら聞けない『パリ協定』〜何が決まったのか?私たちは何をすべきか?〜」

2050年ネットゼロへの歩み


そしてパリ協定から5年、2020年に世界各国で「2050年までに実質温室効果ガス排出量をゼロにする」、ネットゼロ目標が宣言されました。

ネットゼロを宣言した背景には、今のままでは気温上昇は1.5°Cどころか2°C未満という目標すら達成できないと、多くの専門家や研究員の研究結果が示していたためです。これ以上産業を発展させるにはネットゼロに向けたイノベーション、つまり脱炭素関連の技術発展が必要不可欠です。

2021年にはCOP26に先駆けて、国際エネルギー機関(IEA)などの呼びかけで「IEA-COP26ネットゼロサミット」がオンラインにて行われ、日本を含む締結国から40カ国以上が参加しました。

サミットでは国際エネルギー機関より7つの原則が提唱されました。

  1. 持続可能な経済の復旧への投資

  2. 脱炭素化に向けた2050年の中間地点である2030年へのロードマップ作成

  3. 加盟各国による情報、技術の共有

  4. 脱炭素イノベーションのための官民連携

  5. 官民による脱炭素イノベーションへの投資

  6. 脱炭素に関する教育の強化

  7. 新たなエネルギーの供給保証や世界のエネルギーシステムの回復力強化メカニズムの確保

これらの原則に基づき日本ではネットゼロに向けた税制優遇策や、機械設備への投資の補助金など様々な施策を始めました。
(参考:経済産業省・資源エネルギー庁「『カーボンニュートラル』って何ですか?(後編)~なぜ日本は実現を目指しているの?」

まとめ


14世紀から大気汚染という世界課題が始まり、大気中の温室効果ガス排出量濃度のバランスを保つ世界的な目標が掲げられ、そして現在、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする宣言がされています。

これだけ全世界的な取り組みに育つにはここまで述べてきた通り、長い道のりがありました。引き続き強固な国際協調とイノベーションの創出への努力が必要です。そしてなにより各個人の行動変容なしには決して解決できません。