ペンフレンド
【ペンフレンド】
私は冒険などしない性格。例えば、通勤にしてもそう。そのほうが通勤時間もどれくらいかかるか分かるから。寄り道などもあまりせずに、いつも通りに駅前のスタバでいつものドリンクをオーダーして出勤。
コンビニでお弁当などは買わないかな。自分で持参してくる。そのほうが、女子力をアピール出来るしね。いつもの道を通って出勤し、帰宅も同じ道を通って帰る。何も難しいことを考えずにすむ。
そうじゃありませんか?今までもそうして生きてきた。身体に染みついてしまった「習慣」ともいえるだろう。
私の名は「美亜」。表参道のカフェで働いている。彼女は毎日同じ通勤路を歩いている。自宅は北千住に、あり生活するには事足りる場所である。
毎日が変わり映えのない日常。とくに付き合っている男性もいないし、好きな人もいない。
日々、店と家との往復をするだけで、刺激のない生活が続いていた。今までは……。
そんなある日、彼女に転機が訪れる。
その日はいつものように、いつもの決まった帰り道でのこと。
ふと前方に目をやると何か落ちていた。
それは封筒に入った手紙でした。「落とし物かしら……」
美亜は、素通りして行こうとした。が、そのときはなぜか気になった。
いつもの彼女ならそのまま通過してしまうだろう。
なぜって、拾って調べる時間を要してしまうと時間にズレが生じてしまう。
中身を確認してみようと思った瞬間に後ろから声をかけられ、道を聞かれたので、急いでバッグに仕舞い込んだ。
美亜は時計を見るといつもより少しだけ遅れてしまったと思い足早に駅に向かう。
帰宅時間が遅れるとズレが生じてしまう。
彼女は焦っていた。いつもの彼女らしくない。
ふぅ……。何とかいつもの時間に間に合わせた美亜はドッと疲れが出ていた。明日はお休みだし、ゆっくり寝よう。その日は疲れが出てそのまま寝てしまう。
翌る日、起床した美亜は顔を洗い、リビングまで来るとバッグを確認。あ……。そうだ。手紙。
忘れていた。昨日、道を聞かれてとっさにバッグにしまったんだわ。
手紙は匿名で、彼女への愛の告白の言葉が綴られている。驚きと戸惑いながらも、美亜は手紙に目を通す。「誰かしら……お店のお客さんかな?」
どうしよう。交番に持っていくわけにもいかないし。
美亜はその後も毎日手紙を受け取ることになる。手紙の内容は次第にポエムのようで、美亜の心を惹きつけていった。
美亜(心の中で) こんなに美しい言葉…私を知っているのかしら?いったい誰なんだろう。
今まで刺激のない流されるだけの味気ない日々を過ごしてきた彼女にとって、あまりにも情熱すぎる言葉の刺激……。こんな手紙、今まで一度ももらったことなんてない。
美亜(驚きながら)この手紙、誰が送ってくれているんだろう?
手紙は、彼女の心を奪うのに、そう時間はかからなかった。美亜はドキドキしていた。
自分の鼓動がこんなに早く動くなんて思いもしなかった。とても熱くなり高ぶった。
彼女は手紙の差出人が誰なのかを知りたくなっていたが、差出人の情報は何も書かれていなかった。
どんな人なんだろう。美亜は自分の中で期待を膨らませていった。考えただけで、興奮して夜もなかなか寝付けない様子。
自分の理想的男性を想像しては、少し不安も過ぎります。ストーカー紛いの男性かもしれないからです。
しかし、SNSやDMが日常となった現代。
手紙なんて彼女にとってはとても新鮮でした。
手紙は相手が気持ちを紡ぐもの。その字から相手がどんな人物なのか人柄が分かるといいます。
こんな素晴らしいポエムと綺麗な字を書く男性ってどんな人なんだろう。
その手紙の文字から美亜は、手紙の相手のわたしに対する気持ちの大きさに圧倒された。
ひと文字ひと文字に対する相手の思いがヒシヒシと伝わってきた。
ある日、美亜は手紙の差出人に会いたいという思いから、もらった手紙の中に返信の方法を書くことに決めた。彼女は手紙を差し出す場所と時間を指定し、差出人に返事をすることにしました。
手紙を置く場所は、いつも同じ時間に置かれてある道。
美亜(手紙に書く)返信するための場所と時間を教えてください。
迎えた指定の時間、美亜はドキドキしながら待ちます。すると、そこには若い男性が現れます。
あ……あなたは。
手紙の相手は美亜が一度だけ会ったことのある人物だった。
あなたは確かあの時、道を尋ねてこられた方ですよね?
彼は美亜に対して照れくさそうに手紙を書いたこと、彼女にずっと憧れていたことを打ち明けます。
男性(照れくさそうに)ずっとあなたに気持ちを伝えたかったんです。
美亜は驚きながらも、彼の思いに応えることにします。二人は初めての出会いを果たし、互いの気持ちを語り合います。短い時間ですが、お互いに心の中が今までの手紙でのやりとりで同じ気持ちだったことに共感しあえていたことに嬉しさが込み上げてきた。
男性(感謝の気持ちを込めて)あなたと出会えて、本当に幸せです。
意外なところに、人とのつながりってあるものなんですね。
わたしが毎日、決まった時間に同じ道を通っていなかったら、あなたと出会うことはなかったかもしれない。
わたしのきちっとした性格はわたし自身に幸せをもたらしてくれたのよね。
これって……もしかして、ペンフレンドってヤツ?
ふたりはお互いの顔を見合わせて笑っていた。
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