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初々しさ

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました

   汲む―Y・Yに―   茨木のり子


私が「新卒」だったときに励ましてくれたこの詩は、今でも私の心を癒してくれる。

私が「新卒」だったとき、堕落を隠せなくなった人とはどんな人だろうと想像した。
血も涙も表情もなく、自分の損得だけで生きている人?サイコパスな経営者のこと?
いつも怒鳴るあの人?みんなに嫌われてるあの人?

私の会社の「新卒」くんが退職する。
たった3ヶ月の在籍だった。
彼を育てる覚悟が会社にあったのか?
甚だ疑問が残るところであるが、
彼の決断は天晴れである。
若く初々しい彼には未来しかなく、「新卒」が辞める会社に取り残された私には不安が募る。

堕落を隠せなくなった人はだれ?
初々しさを忘れたのはだれ?

「新卒」くんの退職に、パワハラの事実に、胸を痛めた自分に安堵する。彼の退職の挨拶を思い返しては切なくなる自分を愛おしく思う。

人に対しても世の中に対しても絶望し、大人の世界に初々しくびっくりした頃から時間が経ち、この世界はこんなものかと諦めていた自分に気付く。いつのまにか大人の世界に慣れ、処世術を身につけ、初々しく傷付いていたあの頃の気持ちはどこへやら。そんな私に、彼はこの世界の課題を突きつけてきたのだ。

私もあの詩に出てくる「素敵な女の人」と同じくらいの年頃かしら。私も「新卒」くんに送りたい。「初々しさが大切なのです。」今、あなたが感じたことを忘れないで。いつかきっとあなたも誰かにこの言葉を送りたくなるでしょう。どんなに辛くとも、それまで胸に大切にしまっておいて。

私が「新卒」だったとき励まされたこの詩の力を、もう一度借りたい。どうか、私の中の初々しさが、消えてしまわぬように。この世界と戦おうとも消えてしまわぬように。

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