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「私に恋を!」第1話 【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】

あらすじ

 私、由紀。恋を夢見てるの。でも、誰のことも好きになることができないし、どころか、私、嫌われてるんじゃないかって不安。恋なんてしたら、相手に迷惑なんじゃ・・・。ああ、どうしたらいいの・・・! て思っていたら、知らない公園でかわいい男子に会って、私、その子のことが好きになったの! でも、なんだかその子には秘密があるみたいで・・・。

本文

 「私、好きな人がいるの」
「えっ、ほんとに? だれ、誰?」
 学校からの帰り道、私たち女子の中で恋バナが始まった。
「誰にも言わない?」
 友達の瑠帆が、みんなの目をしっかり確認して聞く。
「言わないっ」
 三人で口をそろえてそう言うと、瑠帆は笑って、辺りをきょろきょろ確認してから小声で言った。
「杉原晴弘」
「おお~」
 私たち三人はそう言って拍手した。
「今の、拍手するトコ?」
 瑠帆はそう言いながらも、照れた表情を見せている。
 杉原晴弘は、イケメンで親切な男子だ。瑠帆は部活が同じだから、それもあるだろう。
「ねえ、私も好きな人いる」
「実は私も」
 里香と千奈も言い始めた。
「誰なの?」
「えー、千奈が言ったら言うよ」
「私も、里香が言ったら言う」
 千奈と里香はそう言って、互いをにらめっこだ。
「じゃあ、ジャンケンして負けた方から言うってのはどう?」
 瑠帆が提案すると、二人は「そうだね」と頷いて、ジャンケンを始めた。結果、里香から言うことになった。
「私の好きな人は、小泉優斗」
「ああ、似合うわー」
 瑠帆がそう言って、腕を組んだ。
「私は、中田武」
「えー、意外」
「意外だった?」
 瑠帆からの反応に、千奈は笑いながら返している。
「そんで・・・」
 瑠帆はそう言って私の方を見た。
「由紀は?」
「何が?」
「も~、好きな人に決まってるじゃん」
 私は、やっぱそれかと思いながら、はあ、とため息をついた。
「いるわけないでしょ」
「だと思った」
 千奈はそう言って、ふふ、と笑っている。
「みんないいなあ。私も好きな男子、欲しい」
「いつかできるよ」
 里香はそう言って、私の肩に手を置いた。
「じゃあ、私、こっちだから」
 私はそう言って左を指さした。ここから、瑠帆たちとは帰り道が違うのだ。
「うん。じゃあ、また明日」
「じゃあね!」
 私はそう言って手を振ると、一人、家路を歩き始めた。
 私は恋がしたいと思っている。でも、誰のことも好きと思えない。別に、学校に良い男子がいないとかそういうわけではないのだ。かっこいい男子もいるし、優しい男子もいる。でも、私はその子たちを好きと思えない。だが、そもそも私は、誰かのことを好きと思ってはいけない気がする。私はきっと、周りから嫌われている。瑠帆や千奈、里香は味方だ。しかし、私はコミュ力が無い。だから、きっと、その三人を除いて、みんな、私のことを邪魔だとか思っているに違いない。そんな私に好かれるだなんて、きっと迷惑である。
 とはいえ、恋がどういうものかは、よく知っている。小学生の頃は、よく恋愛漫画を読んでいた。ゲームとかよりも恋愛漫画、っていう勢いだ。それで、たくさんの、恋をする女子たちを見てきたけれど(架空世界の中でね)、どの恋も体験したことはなかったし、どころか、誰かを好きになる気持ちすら持ったことがなかった。中学生になって恋愛漫画を読むのをやめたのは、恋愛漫画を読むと、恋に対し、現実的に見れなくなると思ったからだ。恋愛漫画の恋を知り、「私もそんな恋がしたい!」と、絶対起こるはずのない恋を夢見るのは疲れる。私はマジで恋がしたいのだ。そのためには、現実的に恋を見ていかなければ!・・・・だが、私に恋愛をする日などやってくるのだろうか。
 もうすぐで家に着く。今日は、定期考査最終日で、さっきテストを終えてきたところだ。つまり、私は今、解放感に包まれている。
 さて、今日はまず何をしようか。よし。もう、あれしかない。
「ただいま!」
「おかえり」
 ドアを開け、私は靴を脱ごうとした。そしたら、不思議なことに気が付いた。この青い靴、まさか・・・。
 手を洗った後、私は急いでリビングのドアを開けた。
うっそ、いるのか・・・。
 テレビの前でゲーム機を触る弟の姿が見えた。
「なんで、もう登紀がいるの?」
 私がお母さんに聞くと、登紀の方から返事が返ってきた。
「今日、四時間授業だった」
「嘘でしょ? 今日、絶対にゲームできると思ったのに!」
 うちの家には、ゲーム機が一つしかない。中学生になった時、私はゲーム機が欲しいと言った。スマホはすでに持っていたので、ゲームは、やろうと思えばできたのだが、私はゲーム機が欲しかった。親は一つ前のモデルなら、中古で安いから二人分買ってあげられると言った。しかし、最新のゲーム機が欲しかった私は、中古は嫌だと言い張った。それで、親がじっくり考えた結果、二人で一つという条件で、最新のゲーム機を買ってもらえることになった。
 で、今あるゲーム機がそれ。今思えば、一つ前のモデルでもよかった。だって、弟に取られちゃうんだもん。
 中学生の私がゲーム機を使おうと思っても、小学生の弟のほうが帰ってくるのが早いので、先に取られてしまう。だからこそ、今日はチャンスだった。今日は定期考査で、テストが終わったら給食を食べて帰れる日だから、一時半には帰ることができたのだ。
 だが、予想外の展開。まさか弟が四時間授業だったとは。ショック!
 私は、はあ、とため息をつきながら、自分の部屋へ行った。

 「ちょっと散歩行ってくるわ」
 着替え終わった私は、リビングのドアを半開きにして言った。
「ええ、行ってらっしゃい」
 私はスマホをポケットにしまって外に出ると、自転車にまたがった。
 公園に行こうと思った。それしか思いつかなかったのだ。だが、さてどこの公園に行こうか、という話である。
 大きな坂を下り始めた。とても気持ちがいい。風がビュービューと吹き、私の解放感は爆上がりだ。
 下り終えたと思ったら、すぐ先にまた大きな下り坂があることに気が付いた。
あっち側は行ったことがないけど、行ってみるか。
 私は、坂を下りたいという、まるで小学生のような気持ちに駆られて、さらに坂を下り始めたのだった。
 坂を下り終えると、私は全く知らない場所にいた。あたりを見回すと、小さな公園が一つあった。私はそこに自転車をとめて、公園の中を歩き始めた。
 滑り台とブランコ、そしてベンチとトイレしかない、小さな小さな公園だが、木々に包まれて温かみがある。安心感が漂っている。
 ベンチに座ると、私はすぐに恋のことを思い出して、ため息をついてしまった。
 私は恋がしたい。瑠帆たちみたいな恋がしたい。それで、いつか誰かとカップルになって・・・、でも、本当にそんなことできるのだろうか。
「あの・・・」
 突然、後ろから声がかかった。振り返ると、そこには自分と同じくらいの男子がいた。
 いつの間に人が来たのか。
「髪型可愛いですね」
「あ、ありがとうございます・・・」
 あまりにも突然すぎる謎のほめ言葉に、私は戸惑いながらも返事した。だが、私はこの一言で、その男子に惚れてしまったのだ。
「お一人ですか」
 その男子は私の顔をじっと見て尋ねた。
「はい、そうですけど・・・?」
「でしたら、俺と話に付き合ってもらえませんか」
「つ、つきあう・・・」
 私は、「付き合う」という言葉に、思わず顔を赤くした。恋の告白を思い浮かべてしまったのだ。
「あ、えっと、俺とおしゃべりしてほしいってことです」
「あ、で、ですよね、ですよね」
 私は、恋の告白をイメージしてしまった自分を恥ずかしがりながら、大きく頷いた。
「はい。一緒におしゃべり、しましょう」
 男子はそれを聞いて喜ぶと、私の隣に座った。距離がだいぶ近い。胸はドキドキ。でも、その男子から漂う空気は安心感。
「好きな食べ物ってありますか」
 男子が、またまた不自然な話題からスタートした。私は突然の質問に戸惑いながらも、そのあどけない言葉にきゅんとする。
「えっと、ハンバーグかな。あなたは?」
「俺もハンバーグです」
「同じ?」
「そうみたいですね」
 私は、彼もハンバーグが好きなことを嬉しく思った。ハンバーグって、王道な料理だから、言うのが抵抗ないっていうか。だから、自分の好きな食べ物がハンバーグでよかった、なんて思っている。
 前、授業中に、クラスのみんなへの自己紹介の一環として、「好きな食べ物を言っていくリレー」という、だいぶどうでもいいゲームをやったことがある。その時に、「ゴーヤ」と答えた人がいた。すると、先生が興味を持って、「よく食べるの?」などと、その子にさらに質問し始めたのだ。そうやって、興味を持ってもらうのが嬉しい人もいるけれど、私はどちらかと言えば、みんなの前では答えることだけ答えて早く次の子に回してほしいタイプなので、そうなってほしくない。「ハンバーグ」と答えても、「美味しいよね」などと言ってくれるだけなので、「ハンバーグ」はそういう時に楽なのである。
 そして、そんなハンバーグを好きと思ってくれている彼。自分と好きなものが同じだと思うと、どんどん興味が湧いてくる。
「ハンバーグって、やわらかいっていうのかな・・・美味しいですよね」
「はい。美味しいです」
 彼はそう言ってにっこりした。楽しいのかな、距離、縮まったかな、そんなことを考えていると、彼は話を切り替えた。
「そういえば、今日は学校だったんですか?」
「はい。定期考査で」
「どうでした?」
「うーん・・・ちょっとやばいかもしれません」
 私がそう言って頬を掻くと、彼は落ち着いた表情で言った。
「まあ、次、頑張ればいいですよ。終わったこと考えていてもつらいだけですし」
 考え方、同じだ。
 なんだか自分の考えが肯定されたような気がした。
 この考え方は、とても楽だ。ただ、この考え方でいると、いつまでも振り返らない癖がつく。それは、デメリット。でも・・・、
「だよね、私もそう思います」
 賛同です!
 私がそう、心の中で元気よく言うと、彼は立ち上がった。
「・・・じゃあ、そろそろ」
「そうですね」
 私もつられて立ち上がった。
「じゃあ」
 彼はそう言って小さく手を振ると、ゆっくり外へ歩き出した。そして、柵の間を通ると思ったら、足を止めてこちらを振り返った。
「あの、」
「?」
 男子は一瞬口をつぐんだが、すぐに言葉を発した。
「また、会いたいです」
 きゅん・・・
「また、ここに来ますね」
 私がそう言うと、彼はにっこり微笑んで、公園を出た。可愛らしい素振りに癒されながら、私は自転車を押し始める。転機が訪れたような、そんな感覚がした。

 「私、好きな男子できた」
 次の日の昼休み、私は学校で瑠帆たちにそのことを伝えた。
「ほ、ほんとに?」
 千奈が驚いた表情を私に向ける。
「羨ましくて言ってるだけじゃなくて?」
 瑠帆が馬鹿にするように笑いながら言ってくる。
「なわけないでしょ。本当に好きな男子ができたの」
「よかったね」
 里香は小さく手をパチパチさせている。
「それで、誰なの? 由紀の好きな人」
 瑠帆が私の目をじっと見つめながら、肘を押してきた。
「えっとね・・・」
 私は、待っていました! と言わんばかりに、ニヤニヤした。だが、すぐに黙り込んでしまった。
「どうしたの」
「もしかして忘れた? 好きな人の名前」
 瑠帆が今にも吹き出しそうな目で私を見る。
 やっば・・・。
「名前、聞き忘れた」
「聞き忘れた?」
 瑠帆が予想外の答えに、仰天している。
「ここの学校の人?」
 里香が不思議に思って尋ねる。
「ううん。昨日、公園で会った人だから、多分違う」
「え、じゃあ、運命的に会っちゃったみたいな?」
 千奈が目を輝かせた。
「まあ、そんなとこ?」
 私がそう言ってニヤリとすると、三人は目を輝かせた。
「いいじゃん!」
「で、どっちが声かけてきたの?」
「男子の方から」
 私がそう言うと、瑠帆は秘密事みたいに聞いてきた。
「なんて言われたの?」
「髪型可愛いねって」
「フ~」
 三人は興奮したような声を上げた。でも瑠帆はすぐに冷静になった。
「でもさ、それが最初の一言目?」
「うん。あのさ、髪型可愛いねって」
「唐突だね」
 瑠帆はそう言って腕を組むと、こちらを向いてニッとした。
「由紀みたい」
「それどういうこと」
 私は笑いながらもわけがわからずに聞く。
「由紀も唐突だった。最初の一言」
「えっ、唐突だった? 私」
 全く知らなかった情報に、思い出そうと必死になる。
「もしかして、覚えてない? 由紀が私にかけた、最初の一言」
 私がこくりと頷くと、瑠帆はにっこり笑った。
「そのシャーペン可愛いねって」
「その男子が言った言葉と、内容、似てる~」
 千奈がそう言って面白がった。
「と、唐突かな。普通じゃない?」
 納得がいかずに尋ねると、瑠帆は首を横に振った。
「他の子とじゃんけんで遊んでる時だったから、唐突だったの」
「ありゃ、それは確かに唐突だわ」
 私はそう言って笑いながら、そう言えばそうだったと、その時のことを思い出した。
 去年の春、つまり中学校に入ったばかりの頃、私は早く友達を作らなければと必死だった。その時、瑠帆の姿が見えた。瑠帆は社交的な感じだったから、私をグループに入れてくれると思ったのだ。正直、友達になれるとは思っていなかった。ただ、とりあえず、「話し相手」になってくれればそれでよかった。それで私は、思い切って声をかけたのだ。そして、今ではまさかの親友。いい友達だ。
「その子、意外と由紀に似てたりして」
 里香がそう言ってふふっと笑うと、瑠帆は「確かに」と大きく頷いた。
「ああ、そういえば、好きな食べ物も同じだった」
 私が思い出して言うと、千奈は笑って、「マジじゃん」とつぶやいた。
 すると、瑠帆は落ち着いた表情で私に尋ねてきた。
「それで、なんでその子のこと好きなの?」
「確かに」
「気になる」
 千奈や里香も、興味津々だ。
「えっと・・・可愛いから、かな」
 私はそう言いながら、顔を赤らめた。
「今、その子の顔、思い浮かべたでしょ」
 千奈がニヤリとして言う。
「こりゃ、恋だわ~」
 瑠帆はそう言って、笑った。私もつられて笑った。
 
 終学活が終わると、私は瑠帆と一緒に教室を出た。他のクラスの里香と千奈は、まだ終わっていないようだ。
 瑠帆と一緒に隣の教室の前で待っていると、瑠帆がとても小さな声で、それも、息でしゃべっているくらいの音量で尋ねてきた。
「ねえ、あのさ。例の子に会わせてくれない?」
「れ、例の子って・・・昼休みに話した、あの?」
「そう。なんかさ、全然、他人に興味のない由紀が、人のことを好きになるっていうのが、どうも不思議な気がしてさ。だから、その子がどんな人か見てみたいんだよね」
「・・・」
「あ、嫌だったら無理しなくていいよ。私だって急に会わせろなんて言われたら困るし」
 私は悩んだ。会わせてもいいのだ。だが、会わせて大丈夫なのか、ということである。会わせることで、何かが起きたりしないだろうか。それが分からなくて、悩んでいる。でも、まあ、大丈夫か。
「いいよ」
「ほ、ほんとに? 嫌だったらいいんだよ?」
 瑠帆が私の目をじっと見つめる。
「大丈夫、大丈夫」
 私がそう言いながら首を縦に振ると、瑠帆の顔は、ぱあっと笑顔になった。
「ありがとう! じゃあ、いつ会えるかな?」
 私は考えた。いつ会えるかなんて、分からない。
「今日、実は、その子に会った公園に行くつもりなの。いるかわからないから、会えないかもしれないけど」
「その時に私もついていけばいい、ってことね」
 私がこくりと頷くと、瑠帆は張り切った調子で言った。
「それじゃあ、家帰って準備できたらすぐ自転車で由紀の家に行くわ」
「うん」
 私がそう頷くと、千奈と里香が教室から出てきた。
「ごめん、お待たせ」
「じゃ、帰ろう」
 瑠帆のその言葉で、私たち四人は下駄箱へと歩き始めたのだった。
 
 家に着いてしばらく待っていると、インターホンが鳴った。瑠帆が来たのだ。
 外に出ると、瑠帆が白い自転車にまたがったままこちらを見ていた。
「じゃあ、行こ。なんていう公園?」
「分かんない」
「分かんないの?」
 瑠帆が、一体どういうことだという顔をした。
「いや、分かんないって言っても、場所は分かるから。名前がわからないだけ」
「あー、よかった」
 瑠帆はほっとした素振りを見せた。
 私は自転車を出してまたがると、瑠帆を連れてこぎ始めた。まず、一つ目の坂を下る。
「まだ下る?」
「うん」
 そして、二つ目の坂を下る。
「こんなに坂、下るのか。こりゃ、帰るの大変だな」
「そうなんだよね」
 私は昨日のことを思い出して、はあ、とため息をついた。
 昨日、私はうれしい気持ちで公園を出た後、大きな上り坂を見て、呆然とした。それからどれくらい自転車を押したことだろう。とにかくつらかった。
 坂を下り終えると、私は公園の前に自転車を止めた。
「ここ?」
「そう」
 私は自転車のカギをポケットにしまい、いるかな、と確認しながら公園に入った。すると、男子が一人、ベンチに座っていた。
「あ、こんにちは!」
 私がその男子に向かって手を振ると、彼はこちらを向いて、にこにこしながら手を振り返した。昨日の男子だ。かっこいいわけじゃないのに、きゅんとする。
「え、どこどこ~?」
 瑠帆があたりを見回しながら公園に入ってきた。すると、男子の顔は突然暗くなった。
 あれ、誰かに会わせちゃダメだったかな?
 私はそう思って不安になりながらも、瑠帆に言った。
「ほら、ベンチに座ってるでしょ」
「どこのベンチ?」
「あそこだよ」
 私は、男子が座っているベンチを指さした。だが、瑠帆は首をかしげた。
「いないけど・・・?」
 私は思わずじっと男子を見た。確かにそこにいる。
「いるじゃん。見えないの?」
「見えない。いなくない?」
 どうやら、瑠帆には見えていないようなのだ。
 私は突然、怖くなった。じゃあ、この男子は一体・・・。
「もしかして、由紀、噓ついた?」
 瑠帆が私をにらみつける。
「そ、そんなわけないじゃん。そこにいるんだもん」
「でも、いないよ」
 瑠帆はもう一度ベンチの方を見て、「ほら」と言わんばかりにベンチを指さした。
「いや、い・・・」
 私が、言い返そうとしてベンチを見た瞬間だった。そこに男子の姿はなかった。
「いない」
「あ、ほんとのこと言った」
「いや、いたんだよ、さっきまで」
「妄想でも見てたのかね」
「いや、そんなはずないんだけど・・・」
 私はそう言いながらベンチをじっと見つめた。そして、見つめているうちに、だんだんと私の顔は青ざめていくのだった。


第2話

第3話


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