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「私に恋を!」第2話 【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】

 ピコン
 チャットの着信音が鳴る。スマホを見ると、瑠帆からだった。
『ねえ、その妄想さ、昨日見た時からずっと妄想だったりしてね』
 夢を壊すなあ、と思いながら返事を返した。
『そんなわけないでしょ』
 すると、すぐに返信が返ってきた。
『あのさ、由紀が怖がるかなと思って言ってなかったんだけど、その男子もしかして・・・』
 なにこの「・・・」。
 私は「・・・」の後が気になる気持ちと、でも怖いのか、という迷いの中、返事を返した。
『・・・の後、教えて』
『いや、怖がるかなと思って』
『気になるもん 教えて』
 私がそう送ると、瑠帆からとんでもないこと、でも、私も考えていたことが送られてきた。
『幽霊なんじゃないかなって』
 やっぱそうなるよね。
 私はそう思いながら、はあ、と、ベッドに横になった。
 私は幽霊のことを好きに思っていたのかな。だったら怖いな。せっかく好きな子、見つけたと思ったのに。
 すると、また瑠帆から着信が入った。見てみると、意外な話だった。
『ここだけの話、私、幽霊好きなの』
 噓でしょっ。
 私は急いで返事を送った。
『マジで?』
『うん 心霊とか興味あるタイプ』
 私は、ものすごい友達を持っていたのだな、と思った。
『それでさ、もう一度、あの公園に行きたいなと思って』
『幽霊に会いに行くの』
 二つの続けられた瑠帆からのメッセージに、私はごくりとつばを飲み込んだ。
『瑠帆だけで?』
『できれば由紀もいたほうが楽しいけど、由紀は怖いでしょ』
 私は、怖がっているスタンプを送った。
『だから、私一人で行く』
『ごめん、私、行かなくて』
『大丈夫、幽霊好きの私なら余裕 明日学校終わったら公園に行くわ』
 瑠帆らしい調子の乗った返事に、私はふふっと笑った。すると、瑠帆からまたメッセージ。
『あと、私が幽霊好きだってこと誰にも言わないでね 特に好きな男子にばれると嫌われそうだから』
『分かってる』
 私がそう返事を返したところで、トークは終わった。
 私は天井をじっと見つめた。
 瑠帆って根性あるな。でも、幽霊好きって言っていたし、瑠帆からしたら、好きなものを見に行くっていうだけだから、意外と怖くないのかも。
 幽霊には会いたくない・・・はずなのに、またあの公園に行きたくなる。胸をときめかせてくれる彼。今まで恋の気持ちになったことがなかった私の胸を、彼はきゅんとさせたのだ。そんな彼に、私は、会いたい。

 次の日。学校が終わると、私は自転車に乗って坂を下った。公園に着くと、そこにはじっと立っている瑠帆がいた。
「瑠帆!」
 私がそう叫ぶと、瑠帆はこちらに気づいたようで、手を振ってこちらに寄ってきた。
「来たんだ」
「うん。やっぱり、彼に会いたくて」
 私はそう言って、ベンチの方を見た。すると、そこには・・・。
「こ、こんにちは」
 あの、好きな男子がいた。男子はこちらに気づき、手を振っている。本当は喜びたいけれど、でも、昨日のことがあったから、やっぱり、ちょっと怖い。
「ベンチにいるの?」
 瑠帆が私の様子を見て、突然わくわくした表情になった。
「うん。あそこのベンチに座ってる」
 すると、瑠帆は急いでベンチの前まで走っていき、強い声で質問を始めた。
「ねえ、あなたは幽霊なの? 幽霊じゃないの?」
「ちょ、ちょっと」
 私は、まさかの発言に焦った。好きな男子に、嫌に思われたら困る。私だったら嫌だ。
 男子は、どうしようかと戸惑っている。
「あなたが幽霊なのかどうか教えてくれないと、あなたの友達だって、つらい思いをしなくてはいけないのよ」
 瑠帆はそう言って、私の方を見た。
 瑠帆、私のことも考えてくれてる・・・。
 そう思ったら、私の心が温まったのを感じた。
 男子は、分かってくれたみたいで、やっと言葉を発した。
「信じてくれますか?」
「信じますよ」
 私がそう言うと、瑠帆は真剣な表情で聞いてきた。
「もしかして、何か言ってる?」
「うん。信じてくれるかって」
 そっか、瑠帆は男子の声が聞こえないんだ。まあ、見えてもいないんだし、そりゃそうか。
 そう思っていると、男子は私の目をじっと見て、言った。
「俺は」
 ごくり
 つばを飲み込んだ。
「幽霊じゃないです」
 私はほっとした。だが、瑠帆は頭に、はてなマーク。
「ねえ、男子はもう言ったの? まだ言ってないの?」
 そうだった。瑠帆には聞こえてないんだった。
「幽霊じゃないって」
 私が穏やかな目で答えると、瑠帆は首をかしげた。
「じゃあ、なんで私には見えないの?」
 瑠帆の熱い目が男子の方に注がれる。少し、男子の右に視線がずれちゃっているけど。
「・・・」
 男子は何も言えずにうつむいている。私は、何も言わずにはいられなくなった。
「やめといて」
 私がそう言うと、瑠帆はこっちを向いた。
「なんで? 由紀だってモヤモヤするでしょ」
「でも、男子がつらい思いをする方がモヤモヤする」
 私がそう強く言うと、瑠帆は黙りこんだ。そして、小さな声で言った。
「私、帰るね」
 瑠帆はそう言って、公園を出ていこうとした。
「傷つけるつもりじゃなかったんだけど・・・ごめん」
 私は、瑠帆を引きとめるように言った。
「いや、由紀が悪いとかそういうことじゃなくて。ただ、やりたいことは全部終わったからってだけ。気にしなくて大丈夫」
 瑠帆はそう言って公園を出ていった。瑠帆の背中が見えなくなると、私は男子の方を見つめた。
「ごめんなさい」
 男子が、私に謝ってきた。
「いや、謝ることないですよ。私も、迷惑かけてごめんなさい」
 私はそう優しく言った。すると、男子はうつむいていた顔から目だけを見せるようにして言った。
「いえ、そんな。ただ、あの」
「・・・」
「さっきの質問・・・答えなくてもいいですか・・・いつか分かると思うので」 
 私はその仕草にきゅんとした。幼い感じ・・・なんて可愛いんだろう。
「ええ。もちろんです」
 私がそう言ってにっこりすると、男子も顔をあげて、笑みを浮かべた。
 好きだよ。
 心の中で、その言葉を言い放った。

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