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【シンガポール国立大学留学③】 ー出来事編ー

2022年の1月よりシンガポール国立大学(NUS)に派遣交換留学に来ている鈴木梨里(りり)です!
1月から 5月までの派遣交換留学生活を、1ヶ月に一回の頻度でnoteに書き記していこうという試みをしております。
1ヶ月分の日々を1つの記事にぎゅっと詰め込むととても長くなってしまいそうなので、異国の地で何をみて何を経験したかを綴る「出来事」パートと、その日々の中で自分自身が思考したことを書き連ねる「内省」パートの2つに分けて書いています。今回は留学の折り返し地点を過ぎた3月の「出来事」編です。

授業

留学生活を綴るnoteにも関わらず、今まで授業について一度も触れてこなかったことに気づいたので、今回は私がNUSで履修しているクラスについて書いてみようと思います。私は今回の留学において3コマのみ履修しています。(現地生の平均は5コマ)

① Thinking Like An Economist

唯一のオンライン授業で、履修者全員で受講するLectureと、少人数に分かれてディスカッションをするTutorialで構成される週に2回の経済学の授業です。経済学といっても非常に幅広く、特に印象的だったのは統計的差別を扱った会でした。

<統計的差別>
実際の能力ではなく学歴・人種・性別などといった、その個人が所属する属性ごとの統計的な平均値に基づいて推測し判断をする結果、属性ごとの格差が拡大するという差別的状態が生じること

Wikipedia

この人種が嫌いだからという理由で行われる「嗜好による差別」とは全く異なり、統計に基づいた合理的な判断によって差別が生じるというメカニズムを持つ統計的差別。「警官が人種や居住地域に基づいて人物をプロファイリングすることは正しいか」というトピックに関して警察として働いた経験を持つ学生を中心にディスカッションをした際には、倫理と効率のどちらが正義かという議論にまで教授の介入なしに発展し、非常に面白かったです。

② Entrepreneurship: Self-Made in Japan

12時から3時となかなか渋い時間に開講される授業で、一コマ3時間であるためTutorialはなく、週に1回のみのコミットメントです。驚くことに(?)NUSには日本専攻が存在しており、この授業もJapanese Studyと呼ばれるモジュールの一つでした。シュンペーターなどEntrepreneurshipに関する基礎的な文献を一通り読んだ後、学生一人ひとりが日本の起業家(岩崎弥太郎からホリエモンまで)を1名選び、その人物が日本にどのようなイノベーションを起こしその成功要因はなんだったのか考察したものをプレゼン形式で共有していく授業です。起業に興味があるということもあり、個人的にとても好きな授業でした。私はヤマト運輸にて宅急便を開発した小倉昌男氏を担当し、彼が日本の輸送業だけでなく日本の組織体制や政府との対峙法の常識すらも変えたさまをプレゼンしました。

プレゼン時の様子

③ Communicating with Communities in the 21st century

この授業は寮で実施されるものでした。前回の記事でも書いた通りNUSでは各寮が一つの大学のように個別のスポーツチームや授業を持っており、私が住んでいるCAPTという寮はCommunity engagementに力を入れている寮で、この授業では子供や高齢者に向けたコミュニケーション方法を勉強したり、言語の壁がある際の関係構築法を学んだりしました。また座学に留まらず、学んだことを実践すべく国内にあるMigrants dormitory(移民寮)を訪ねたり、Hawker Centre($3くらいで食べられる飲食店を集めた屋外複合施設)に行きAnti(アンティ)やUncle(アンクル)と呼ばれるお年寄りに話しに行ったりする機会が多数あり、インプットとアウトプットのサイクルが非常に気持ち良い授業でした。また最終プレゼンにて行った自身のプロジェクトが面白かったので共有します。下記の設問内容をシンガポール人と日本人それぞれ4人ずつにインタビューし、両国民のリーダーシップに対する考え方の違いを考察するといった内容です。

【設問】
・理想のリーダーシップスタイルについて(Autocratic / Democratic / Lassiez-faire の中から選択)
・ジェンダーとリーダーシップスタイルについて(性別によってリーダーシップスタイルに違いはあるか?男女それぞれのリーダーシップスタイルを一言で表すと?)

【結果】
・シンガポール人も日本人も共にDemocratic leader を好み、自らもそうなることを目指す(シンガポール人は100%、日本人は75%がDemocratic leaderを選んだ。残り25%はLassiez-faire。 )
・シンガポール人は男女におけるリーダーシップスタイルの違いはないと考える一方(違いがあると答えた割合は0%)、日本人は違いがあると答えた人が過半数を超えた。(75%)
・一方シンガポール人も「それぞれのリーダーシップスタイルを一言で表すと?」という設問に対しては
女性: loving caring modern
男性: autocratic power classic
といった異なる言葉を用いた。

【考察】
・リーダーシップにおける「男女平等」的思考は、シンガポールにおいて強く普及している一方、日本でそれは見られない。
・一方シンガポールにおいても男女平等思想は「そうであるべき」と言った類いのもので、真に同じと考えている人は日本と同様に少ない。

リーダーシップスタイルのイメージに違いがあるという調査結果を発表した時のクラスの女性の反応がsexist!!と叫びにも似た強いもので、性別による違いを見出すべきではないという意見が主流でした。一方私はリーダーシップに違いがあると考えるのはいけないことなのか?違いがあることは当たり前なのでは?と異なる意見を持ちつつも、女性の組織はloving で男性の組織はpowerfulだと捉えるのは、既存の組織における女性リーダーの欠乏が理由となって生まれた固定観念だと感じました。違いがあることは認めつつ、両者の強みを活かせる組織体制について考察を深めたいといった綺麗な言葉でプレゼンを締めくくったものの、良く言われる「男女平等」とは一体なんなのか深く考えさせられる機会となりました。

寮生活について

ここから3ヶ月生活しなかなか愛着が湧いてきた寮生活についてお話ししようと思います。3月にあった主なイベントはこんな感じです。

Angel & Motal

3月冒頭にAngel & Motal(天使と悪魔)という2週間ほど続くイベントに参加しました。シークレットサンタをイメージしてもらえば近いと思うのですが、自分がいたずらしたり親切をしたりする相手は知らされるものの、誰が自分にするのかは最終日までわからないというシステムです。一番のいたずらは納豆を部屋におかれたことです(笑)現地の子に食べさせてその反応を動画で撮るというミッション付きでした。

部屋の前のいたずら

Election

3月は寮内の選挙もありました。寮内に4つ存在するハウスそれぞれのヘッドを決めたりスポーツコミュニティの運営メンバーを決めたりする選挙がそれはそれは大規模で、選挙用特設Webページを作って毎日集まる質問に候補者が投票者全員に見える形で答えたり、寮内にポスターを貼るだけでなく自分のPR動画を製作したり、自分をPRするための会を独自で開いて人を集めたりと、大変白熱したものでした。その要因の一つに、課外活動の経験が次年度寮にステイし続けられるかどうかを決めたり、留学応募時や就活時のチェックポイントになるといったことが挙げられます。満たさねばならない投票率も事前に定められ、現在のヘッドが全寮生に投票するよう熱心に呼びかけているのも日本とは異なる点でした。

お酒の席で語ったこと

つい先日の飲み会で交わされた会話がとても面白かったので、出来事編の最後に書いてみます。

「シンガポールはなぜこんなにも学力レベルが高いのにも関わらず、ノーベル賞受賞者がいないのか?」

バークレー出身の子が現地の学生に聞いた質問でした。シンガポール国民の学力レベルは非常に高く、NUSのグローバル大学ランキングはアジアトップです。そのような環境下でノーベル賞受賞者が一人もいないのは確かに不思議です。その時の現地学生の答えは、

「パーフェクションは得意だけどイノベーションは苦手だからだ」

と言ったものでした。

その言葉を聞いて思い出したのは、現在大学院生で学部生のTAをやっている友人の話です。彼女は歴史を教えているのですが、彼女の悩みは、どんな課題を出しても学生がほぼ同じ回答を書いてくるというものでした。歴史の事実は一つでもその解釈や意味づけは人によってそして地域によって異なるのは当たり前なのにも関わらず、みな徹底的に既存の論文を読み込み「正解」を探そうとする。その「正解探し」の姿勢からどう脱却させるかが非常に難しいと言っていました。日本を筆頭にアジアにおいて行われる、たった一つ存在する正解を暗記させる教育はしばしば問題視されますが、その「正解探し」の訓練こそが、0→1の「正解づくり」の思考を難しくするのかもしれません。



これを書いている今日から見るとあと1ヶ月を切った留学生活、本当にあっという間です。最後まで全力で駆け抜けます!!

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