週末のきみ

今日は黒のレースワンピース、ワインレッドの口紅、はかなげに揺れる水滴のようなイヤリング。
週末、仕事が終わると私は家とは逆方向の電車に乗りその男のもとに向かう。

男はいつものように待ち合わせ駅に遅れてやってくる。
そしていつものように「おなかすいてる?」と私に問う。
そして私の答えを待つことなく店に向かう。
店につくと男はメニュー表を見てから私の姿を見ていつものように「今日は素敵なイヤリングをしているね」と私の身に着けているアクセサリーやメイクをほめてから、店員に「生1つとハイボール」と注文を済ます。

彼は私が欲しいものをしっかりと分かっている。
女の扱いがうまくてたまにむかつく。

私はいつものように「最近どうなんですか、彼女とか仕事とか」と聞くといつものように彼は「仕事は順調だよ、彼女は相変わらず」と深くは語らない。
そんなことをいう彼の瞳は深い闇のようでいつのまにか吸い込まれていた。
彼は「そんなに見つめられると恥ずかしいな」とつぶやいた。

彼はいつもそうだ、私のこころに触れるように見つめるくせに
私が見つめるとやめてくれと恥ずかしがる。
私のこころはすでに彼の瞳に刺され彼のものになった。
彼の心は手に入らないほど遠いところにある。

食事が終わると彼はいつものように「うちで飲みなおそうか」と優しくささやく。
後をついていく私に「僕をその気にさせる君はずるい女だ」とつぶやく。

彼の部屋は無機質でどこか哀しさをふくんだ空気が広がっていて
私は彼と一緒にいるのにさみしくなった。

部屋について少し飲んでから私たちは肌を重ねあわせた。
彼は私を壊れてしまわないようにとてもやさしく扱った
彼の体はとても冷たく感じた、その中には温かい血が流れていて
彼がちゃんと生きていると思うととても安心した。

私が彼の隣で眠れるのは彼から連絡がきた週末だけ。
彼が生きているという私の中での証明は週末にしかできない。

あたたかく大きな死体のような彼は、たしかに静かに息をしている
今にも消えてしまいそうな彼を隣に今日も私は彼に伝えられなかった言葉をごみ箱に捨てた。

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眠れない夜に

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