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意味ありげな再会

香川県の銘菓・おいりが売っていて、思わず買ってしまった。
プラスチックの容器いっぱいに入った、色とりどりの丸いお菓子。ビー玉よりひとまわり小さく、まん丸なその米菓は、ひなあられのように淡い色をしている。びっくりするほど軽くて脆く、指の力加減を誤ると粉砕してしまう。
そっとつまみ、口に入れるとほのかな甘みが広がって、その奥にお米の風味を感じることができる。しかしそれをじっくりと追求する間もなく、しゅわりと溶けて消えてしまう。見た目から想像する通りのやさしい味、はかなさ、繊細さを持った、とてもいとおしいお菓子なのだ。

おいりの存在を教えてくれたのは、高校時代の友人だった。いつも柔和でやさしく、ていねいにおしゃべりをしてくれる彼女。「いっしょに食べない?」と差し出してくれた容器いっぱいに詰まった、夢みたいにかわいいそのお菓子に、17歳だった私はわぁっと歓声をあげた。
彼女が教えてくれたからというのが大きいけれど、彼女とおいりはどこか似ている。

その友人と数年ぶりに会い、お茶をしながら近況報告や昔話をした、まさにその帰りのことだった。百貨店に立ち寄り、間近に迫る義実家への挨拶に向け、手土産のお菓子を選んでいた私は、売り場の棚に懐かしいパステルカラーを見つけて、足を止めた。おいりが売っていたのだ。

さっき別れたばかりの友人を思いながら、二箱手に取り、レジへ持っていく。いやはや、こんな偶然ってあるんだな。懐かしいな。家に帰ったらお茶を淹れて食べよう。


帰りの電車の中、同封の能書きを何気なく開いた私は驚いた。
おいりは元々、婚儀のお菓子だったという。知らなかった。
お米を「炒る」製法と、そして「お嫁入り」をかけて、だから「おいり」。西讃岐地方では、古くからお嫁さんが持っていく手土産の鉄板だそうだ。

友人との再会、その彼女が教えてくれた「おいり」との再会、結婚の挨拶を直前に控えた私。何か縁を感じざるをえない。

二箱ひとりじめしようと思っていたおいりの箱を、ひと箱、義実家用の紙袋に移す。
なんだか背中を押されたような気持ちになった。

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