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ピンサロのある日常


 今日も夢から現実世界という奈落へ落とされたことに気づき、残念に思いながらまぶたを開ける。今日も凶が狂していて興がわく。あゝ素晴らしき理想郷! なんてハートに響かないセンス皆無のリリックを込めた溜め息を吐きながら、重たい腕をなんとか動かす。ベッドのそばに置いてある携帯で時間を確認すると、まだ早朝だった。自分が創り上げた都合の良い世界に浸れたのは、ほんの僅かな時間のようだ。

 休日の全てを惰眠に費やすのは嫌いではない。しかし、一日を有意義に使うのも嫌いではない。今日は人との約束もなかったはずだし、どちらでも許される。いつも通り携帯に何も連絡がないことを確認した自分は、安心と孤独感を抱えながら、本日の予定を考える。

 そういえば、行きつけのピンサロがキャンペーン中で、いつもよりお得なお値段でサービスをしてくれたはずだ。あと本屋にも寄りたい。

 善は急げ、悪はもっと急げ。と、誰かが言っていた言葉を頭で反芻させながら、支度をする。まあ、本屋もピンサロも昼前あたりに開店するので、あまり急ぐ必要はないが。

 顔を洗い、歯を磨き、眼鏡からコンタクトレンズに替える。テレビを付けて、放映しているウルトラマンを観ながら爪を切る。あまり知られていないが、僕はそこそこ特撮が好きだ。ライダーとウルトラマン、マーベルヒーローなら少し語れる。あと大槻ケンヂの方の特撮も。

 爪を切った後にコンタクトレンズを付ければ良かったと後悔しつつ、菓子パンをむさぼる。食事を迅速に済ませた後は、二度目の歯磨き。その最中、お世話になるピンサロの公式サイトを覗く。キャンペーンの有無を再度確認し、これから出会うであろうプリンchang、もといキャストさんの紹介ページへと指を走らせる動作は、すっかり身体が覚えていた。

脳内では基本こんな感じになってる

 つまらない支度を淡々と処理しつつ、期待と股間を膨らませながら妄想していたら、すっかり良い時間に。相対性理論を実感しながら、しっかり戸締まりを確認してから出かけたのは、正午を過ぎた頃である。

 自分の移動手段は基本徒歩だが、風俗に挑む時は公共交通機関を使う。向こうは汗ダラダラの陰キャより、ただの陰キャを相手したいはずだからだ。自分は紳士であるから、それくらいの配慮はできる。紳士……つまり令和の足長おじさんとも言える。いや、自分は低身長で醜い顔だから、オペラ座のエリックのが近いか。なお無能。

 これから会うクリスティーヌに思い焦がれていたら、あっという間にピンサロの前へ居た。顔馴染みになってしまった受付に会釈をして、何度目かわからない説明をうけてから代金を支払う。土曜日だったので、自分の予想通り混んでいる。ちょうど一時間後に案内すると言われ、自分はそれを快諾した。

 盛況具合も計算済みなのは言うまでもない。この待ち時間の最中に、自分は本屋を覗くのだ。これがデキる男の行動というやつなので、読者諸君はぜひ参考にしたまえ。

 本についての話を便々としたいが、それはまたの機会に。ここはさっさと長針を一周させようか。

 喧しい音楽に、かろうじて近くが見える程度の薄暗さ。馬鹿騒ぎしている人間がいないクラブと例えたら、理解してもらえるだろうか。そんな部屋の、明らかに安い仕切りで分けられた長椅子へ案内され、腰を落ち着ける。

 オンニャノコはすぐに来てくれた。あえての指名なし、つまりフリーで挑んだが、今回はファンブルではなかった。SAN値チェック成功です。

 意外に知らない人が多いので解説すると、ピンサロは衛生面が控えめに言って終わっている。ソープランドと違い風呂場なぞないし、そもそもゆっくり息子を洗う時間もない。インスタントな店である分、スピードが求められる仕事なのだ。

 つまり、消毒液を吹きかけたおしぼりで拭く程度の衛生対策しかない。

 そんなハードな職場で働いている方々を、自分は一生尊敬していきたいと思っている。仕事に対するプロフェッショナルな姿勢は、僕だけでなく読者諸君も見習うべきだ。

フーゴも、そうだそうだと言っています。

 今回のウサチャンは働き始めたばかりと言っていたが、サービスは滞りなくスムーズに終わった。いつも通りの日常が、そこにはあったのだ。きっと平和とはこういうことなんだろうなと、しみじみ思わされた。

 そして賢者にジョブチェンジした自分はクールに去った。




 ————後に起きる悲劇など知らずに。

 数日後、自分は身体にある違和感を覚える。

『あれ……?

……なんか、ムスコ、痒くね?』


 まあ季節的なアレだろう、と思い無視していたが、どうもおかしい。日に日に痒みが増していく。もはや痒いというより、痛い。日常生活に支障が出るレベルの問題は初めてだ。毎日しっかりメンテナンスしているはずなのに。まさかとは思うが、いや、違うはずだ。

 恐ろしくなった自分はすぐさま病院へ連絡し、向かった。あまりにもスムーズに予約ができて若干心配になったが、すぐに杞憂だとわかるくらいしっかりとした検査をしてもらい(色んなところを晒したので、ちょっと興奮した)、担当医に助手と自分だけの診察室に静寂が流れる。


『ビンゴだね、君。クラミジア』



「どう猛』!それは…
爆発するかのように襲い…消える時は嵐のように立ち去る 



PS:適切な処置をして、すっかり完治してます。みんな、気をつけようね!

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