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友を天秤にかける

先日、高校時代の友人A子から結婚パーティーの招待が来た。A子は、高校3年間同じクラスだった比較的仲の良い友人で、卒業後も何度か会っており、私の結婚式にも参列してくれた子である。

旧友の結婚ほど嬉しいものはない。しかし、私はこの結婚パーティーへの参加を渋っていた。なぜなら、土日を使って、遠方のリゾートで泊りがけのパーティーとなる予定だからだ。

予定がだいぶ先なので先約は特になかった。しかし、余りに先のことなので何が起こるかわからない。仕事や家族の都合で直前に参加できなくならないように、かなりしっかりと予定を開けておかねばならない。宿泊費は主催者持ちらしいが、交通費だってばかにならないし、土日がフルに取られてしまうのは、正直なところ負担が大きい。”何としても参加したい!”という意気込みはなく、”ぶっちゃけめんどい”と思ってしまった。

しかし、A子は自分の結婚式にも来てくれた大切な友人の一人だ。無い予定をでっちあげて断ることは憚られた。よくよくA子にスケジュールを聞くと、泊まらないで土曜のメインパーティーだけ出て帰ることもできるようだった。悩んだ私は夫に相談した。
「A子の結婚パーティー、新幹線で行かないといけないようなところで、1泊2日でやるらしいんだけど、行くかどうか迷ってる」
「A子ちゃんって、俺たちの結婚式の招待状を作るのを手伝ってくれた子だよね?」

そうなのだ。彼女は芸術系の大学に進学しており、絵がとてもうまい。私の結婚式の準備を手伝うと名乗りを上げてくれたのだ。だから、その縁もあって、私は彼女の晴れ舞台を欠席するとは言いにくいのだ。

「土曜だけ出て帰るでもいいって言ってくれてるんでしょ?だったら、その前提で参加したら?」
「やっぱそうだよね」

かくして、私はA子に
「泊りは難しいかもしれないが、参加する方向で調整する」
と返事をしてひと段落した。遠方まで赴く覚悟をしたのである。

しかし数日後、さらに憂鬱なことが分かった。A子の結婚パーティーの参加者が分かったのである。10人程の高校の同級生が参加するらしいが、みんな卒業以来一度も会っていないような疎遠な友人たちだったのだ。

小さな高校だったので、同学年全員の顔と名前は一致するし、同じクラスになったことのある子がほとんどの学校だ。しかし、当然、友人関係には濃淡がある。高校卒業から8年、その濃淡は現役時代より如実だ。私はみんなの進学先や就職先を知らないし、この8年連絡を取り合おうとさえ思ってこなかった間柄だ。逆に言うと、メンバーの中で私だけ謎の人選ともいえる。きっと、私がA子を結婚式に呼んだから、A子は礼儀正しく私を招待してくれたのだろう。

さらに追い打ちをかけるように、別の連絡が入った。会社の同期のB子とC太の結婚披露宴がA子の結婚パーティー初日とバッティングしたのである。

業界の特性上、私の会社は人の出入りが激しい。元々20人程度の新卒同期の中で、社会人5年目の現在、転職せずにまだ残っているメンバーは半分にも満たない。移ろいの激しい業界を、少ない同期で助け合い、乗り越えてきた。そうした中で、B子とC太、2人の付き合い始めから同棲まで、この数年間みんなで関係を見守ってきた。“行きたい!お祝いしたい!”と心から思った。

これにより、私の気持ちは大いに揺れた。自分の素直な気持ちだけならば、遠方で仲のいいメンバーが少ないA子のパーティーより、新郎・新婦どちらも知っていて応援してきたB子・C太の披露宴の方に行きたいのだ。しかし私は、数日前にA子の方に行く方向で既に返事をしてしまっている。できる限り先約を優先すべきだとも思う。だが、こんなにも明らかに、自分の気持ちが違うのだ。

とりあえず、B子とC太の方は、出欠の返答を数週間少し待ってくれるようなので、
「すっごく行きたいけど、別の用事が入っていて、そちらの調整ができるかどうか確認の上、返答させてほしい」
と返した。幸い、両者とも開催日までかなりゆとりをもって声をかけてきてくれているので、この数週間のうちに結論を出し、どちらかに欠席の連絡を入れることにしたのだ。

ここから、私はA子を選ぶか、B子・C太を選ぶか、急いで結論を出さねばならない。自分の気持ちを優先すべきか、先約優先という筋を通すべきか。これを書いている今、結論はまだ出ていない。そもそも、私の中でA子よりB子・C太という順位付けができてしまったこと、それ自体に嫌気がさしている。友を天秤にかけているのだ。いっその事、どちらにも行かない方が良い気さえする。

猶予はあと2週間ほど。それまでに自分の気持ちに整理をつけ、結論を出さなければいけない。

#エッセイ #友達 #同期 #結婚式 #人間関係

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