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🌳三題噺 #6


地上波、竜頭蛇尾(初めは勢いがよいが、終わりは振るわないこと(*))、ガソリン


 ラジオ放送から、落ち着いた男性の声とよく笑う女性の声が軽快なトーンで車内に流れてくる。窓を開けて入ってくる風は、爽やかな森の木の匂いと腐葉土のかおりを運んだ。それを身体にとり込み一瞬、私の頭から全身の末端へと健やかな朝が到来したのを感じる。

 森の中の車道をずっと行くと途中にある、駐車場に車を停めた。駐車場には、私が停めた車以外にちらほら別の車が停まっている。ナンバープレートを確認して何台かはいつもの車であることを確認しながら、いつもの場所へと向かう。
 
 車から降りてから、リュックサックを背中にあずけてあと少しの山道を歩く。このリュックサックには私の仕事道具である大事な一眼レフが入っている。他に三脚やレンズなど。その途中にも撮れる写真があるか目を凝らす。時々はリュックサックから水筒を取り出して必ず水分補給を欠かさないようにする。気になる風景を見つけては何枚も撮る。
 気が付くと完全に頂上ではないものの、眼下の風景というものを眺望できる場所に到着した。私の目的地はこの近くにある。
 少し歩くと見えた神社の鳥居は、石造りで木陰に揺れ普段のように楚々としていた。ひとしきりシャッターを切って石段を登りまた鳥居をくぐったところで神主さんにお会いした。二言三言挨拶をしたあとお互い静かに笑って会話は閉じる。

 一通りひとまず撮りきって、私は神社を後にした。
 駐車場のところまで下り、車内に入ってエンジンをかけた。車のデジタル時計で、もう12時になっていることに気付く。
 昼は近くのラーメン屋で済ますか。
 帰り道を行きと同じように車で下りながら、午前中撮った写真と昼食に交互に想いを馳せる。
 ふと車のアクセルのペダルを踏みこんで、ある程度速度が振るわないことに気が付いた。この間ガソリンを入れたばかりのような気がするので、あれからそれ程距離を走らせたのだろう。まだまだ行きたいところ、写真に撮りたいところがある。今日の撮影は休日の趣味でしたことだがこれももっと、生涯続けていきたい。


*デジタル大辞泉より URL: https://kotobank.jp/word/%E7%AB%9C%E9%A0%AD%E8%9B%87%E5%B0%BE-658886

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