アニメーションの持つ文化的背景(戦争プロパガンダと人種的観点)

本記事は、私の大学卒業論文「アメリカの戦争アニメーションプロパガンダ」より抜粋です。

人種問題、戦争プロパガンダに触れながら、広い意味で、アニメーションの持つ文化的なコンテクストを探りました。

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 国際化の進んだ現代社会において、異文化圏の人々との接触はもはや日常茶飯事である。国際化した社会ではさまざまな人種や民族、文化が交錯する。各文化や人種は必ずしも価値観を共有しない。したがって接触の機会が増えれば衝突の機械も増える。衝突を避け、円滑な異文化交流を行うためにもっとも重要なことは相互理解である。自分が相手を理解し、相手も自分を理解することが不可欠である。異文化の相互理解における第一歩は、相手が自分をどうとらえているかを知ることである。
 大衆文化は、相手から見た自分の姿を理解するのに非常に重要な役割を果たす。本稿では、文化の投影先として20世紀アメリカで製作されたアニメーションを分析する。 

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 ミッキーマウスを知らない日本人はいない。多くの日本人が、日常的にミッキーマウスをはじめとするディズニーのアニメーション作品やキャラクター商品に触れている。あまりにも日常に溢れすぎていて、これらが「外国からやってきたものである」という特別な意識を持つ人は、あまりいないのではないだろうか。しかし、いくらなじみの深いものであってもこれらは、外の国、「アメリカ」で誕生し、輸出されたものである。

 アニメーションはアメリカを代表する大衆向け娯楽である。元来、アニメーションは映画館で上演される大人向けの娯楽であった。1928年にディズニーが初めて音声入りのアニメーション作品を制作、上演する。その目新しさと、軽快さ、言語がわからなくても理解できる内容であることから、爆発的なヒットを誇ることになる。1940年代に入り、家庭にテレビが普及し始めると、アニメーションの対象は大人から子供へと変化する。言語理解を必要としない、そのわかりやすさからアニメーションは子供の教育に使用され、小学校では教育のため多くのアニメーションフィルムが製作された。
また時に、アニメーションは政治的なメッセージを内包する。その典型的な例がプロパガンダである。


 プロパガンダとは特定の思想や意識へと誘導する意図を持った宣伝行為を指す。プロパガンダを通して政府や団体組織などは、受け手を自らに有利な方向への賛同を目指す。事実に基づく情報で構成されたものをホワイト・プロパガンダと呼び、虚偽の情報に基づいて構成されたものをブラック・プロパガンダと呼ぶ。( 山本武利『ブラック・プロパガンダ』,岩波書店,2002年,pp23-24.) たとえば、禁煙を推し進めるために、「タバコは体に悪いからやめよう」という教育ビデオがあったとする。これは「タバコに有害成分が存在する」という事実に基づいて構成されたホワイト・プロパガンダであるといえる。では、「日本人は暴力的で残虐で悪魔のようであるから、我々の生活を守るために戦争しよう」というのはどうだろうか。日本人が本当に全員暴力的で残虐だろうか?そんなことはない。これはブラック・プロパガンダの典型である。戦時中は国内の士気を高めるために多くの国がプロパガンダを利用した。もちろんアメリカも、である。戦時中には多くのアニメーションによるプロパガンダが製作された。口髭をはやして怒鳴り散らすヒトラー、ふとっちょのムッソリーニ、そしてメガネで出っ歯の誰ともつかぬ日本人である。第二次世界大戦中アメリカの敵国であった枢軸3国は世にも奇妙で醜い姿で描かれている。このイメージは戦時中だけでなく現在までもアメリカに残っている。


 戦争中にアメリカ国民に植え付けられた日本人像は、非常に醜い。目はまるで開いていないし、歯はこれでもかというくらい飛び出しているし、まさに猿のようである。「これを日本人とよぶのはあんまりだ!」と怒り出しそうな代物である。どう見ても同じフィルム内に描かれたアメリカ人と同じ「人間」であるようには見えない。なぜアメリカは立派な人間である我々日本人をそのように描きだしたのだろうか。その必要があったからである。我々日本人を滑稽にかつアメリカ人より下等な生きものとして描くことで、本来非道で残虐なはずの戦争に対する国民の罪悪感を軽くし、戦争を正当化することができるからである。相手国への敵対心を集中させるために敵に一つの「顔」を与え、醜さを強調することはプロパガンダの典型的な表現手法である。 こうしたカリカチュアはほとんどの場合、受け手がもともと持つ人種や民族のイメージを基礎として展開される。プロパガンダからは、敵国への歪んだイメージとともに人種主義的なメッセージも読み取ることができる。
 

 大衆はアニメーションの描き出すイメージの影響をダイレクトに受ける。また、アニメーションは大衆の持つイメージを誇張する。大衆文化において受け手と発信者は相互的な関係にあるといえる。したがって大衆文化を紐解くことは、当時の一般の人々の生活や考え方、問題意識を理解するうえで非常に重要な役割を果たす。特に鮮烈なビジョンを持ち、いとも簡単に我々の生活に浸透するアニメーションの影響力は強く、当時、一般の人たちに植え付けられたイメージはまだまだ色濃く残っている。1989年に放映を開始したアメリカの人気シットコムアニメーション”The Simpsons”にも日本人が頻繁に登場する。その姿はやはり目が細く出っ歯でおかしな英語を話している。100%当時と同じ描かれ方ではないものの、当時のイメージの多くを引き継いでいる。誰にでもわかりやすく、幅広い世代、地域で上演されるアニメーションを分析することで、世界の中の日本の姿、外から見た自分たちの姿を理解するための手がかりとする。

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自身の卒業論文「アメリカの戦争アニメーションプロパガンダ」より

2014年 初稿 
2021年3月31日 一部加筆修正の上、投稿

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