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ディズニー短編「三匹の子ぶた」には別バージョンが存在する

オオカミなんかこわくない~♪でおなじみのディズニー短編映画「三匹の子ぶた」には第二次世界大戦中に作成された別バージョンが存在します。

The Thrifty Pig(倹約家の子ぶた、といったところでしょうか?)は、カナダ政府の依頼により作成され、1941年に公開されました。

 内容は1933年公開のオリジナル版「三匹の子ぶた」と同じです。しかし、オオカミはハーケンクロイツの腕章をつけ、レンガの家は戦時国債でできた家に書き換えられています。ナチスドイツのオオカミは、戦時国債でできた子ぶたの家を吹き飛ばすことができませんでした。この映画では、ナチスドイツに打ち勝つためには、戦時国債を買って国を支えることがいかに重要かをカナダ国民に説いています。

 第ニ次世界大戦中、ドイツのヨーロッパ侵略が進むに連れ、ディズニースタジオはヨーロッパの市場を失います。売上が減少し、多額の負債を抱えたスタジオは、存続の危機に陥ります。ウォルト・ディズニーは、新たな資金源を求め、国防関係者を招いて昼食会を開きます。ウォルト自身、とても愛国心が強かったという話もありますので、愛するアメリカのため(連合国のため)なら…!という気持ちもあったのかもしれません。

 ウォルトの努力の甲斐あって、ディズニースタジオはカナダ政府(正しくはカナダ国立映画制作庁)と、戦争教育映画を共同作成する契約を結びました。映画の目的は、カナダ国民に戦時国債の購入を促すことでした。この契約のもとで、ディズニースタジオは4本の映画を作成します。

カナダ政府との契約により作成された戦争教育映画は以下のとおりです。

・三匹の子ぶた(1933)のリメイク The Thrifty Pig (前述)
・白雪姫(1937)のリメイク 7 Wise Dwarfs 

・ドナルドの腕白時代(1938)のリメイク 

・さまざまなディズニーキャラクターのリメイクカットが多数登場する All Together

 カナダ政府との契約で作成された映画は、ほとんどがリメイクでした。実際の映像を見てみるとよくわかるのですが、あまりにも【使い回し感】が強く、通常のディズニー作品では見られないお粗末具合に驚きます。戦時中であったため、ディズニースタジオは短納期・低予算をカナダ政府に求められました。そして、4作品を2ヶ月で一本あたり5,000ドルの予算で作成することになりました。三匹の子ぶたの製作費20,000ドルと比べるとはるかに低予算でした。それでも当時のディズニースタジオにとっては大事な資金源だったのだと思います。

 4本の映画はすべて冒頭に、カナダ国立映画制作庁(National Film Board of Canada)のロゴが入ります。カナダの象徴である「メープル」をあしらった冒頭シーンは、これから言うことは国の希望ですよ~、国民としての務めですよ~と、国民に訴えかけます。

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また、作品の後半には、必ず戦車や爆弾、戦闘機とともに戦時国債の購入を促す登場します。インパクトのあるイメージで、戦争への恐怖心をあおりながら、戦時国債を購入することが戦争に勝つためにいかに重要かを効果的に観客に伝えています。

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なじみぶかいキャラクターにはじまり、インパクトの強いメッセージを最後に持ってくる構成は、戦争プロパガンダとしては非常に有効であると思います。きっと多くの観客が、映画館を出るころには、「戦時国債を買わなければ…」と強く思ったことでしょう。

4作品のあと、ディズニースタジオはカナダ国防庁と映画制作庁の依頼で、Stop That Tankという映画を制作し、カナダ政府との契約のもと最終的には5本の映画を作成しました。

これらの作品はディズニースタジオ、カナダ政府双方にとって有益なものとなりました。この成功はアメリカ国内向け戦争教育映画の制作へと続きます。

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