33歳の私が初めてシーブリーズを買った理由
なんてことはなかった。いかにも高校生向きの「ど青春でいこう!」という広告にたじろぐこともなく商品を手にとり、レジで精算を済ませた。
香りは、夫と相談して決めた「フローズンミント」夫も使うらしい。ついに、私が「シーブリーズ」を使う日が来たのだ。
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シーブリーズは、私が高校生のときからあった。いわゆる制汗剤だ。
体育の授業の後や、部活終わりに付けている子をよくみかけた。私だって、体育の授業の後には汗をかいた。でも、「シーブリーズ」は使えなかった。
わたしなんかが使えない、と思っていた。「シーブリーズ」はキラキラした子が使うもの、と思っていたから。
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当時のわたしは劣等感のかたまりだった。明るい女の子から「おはよう!」と元気に挨拶されても「う、うん…」と返すのがやっとなくらい内気だった。男の子と話すなんてもってのほかだった。
"真面目そう"と思われていたかもしれないが、特段勉強ができたわけでもない。これといって打ち込めることもなく、毎日学校に行くのも嫌だった。
だから、青春を謳歌しているようなキラキラした子たちが使っている「シーブリーズ」は、わたしにはまぶしすぎたのだ。
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現在私は33歳。結婚して2児の母になった。”わたしなんか”と思っていた高校生の自分が知ったらきっと驚くだろう。自分でも信じられない。私が、結婚してこどもを産んだなんて。
劣等感のかたまりだったわたしを救ってくれたのは、夫だった。”どうせわたしなんて”が口癖のわたしのことを認めてくれたのだ。
「ネガティブな人だとは思った。だけど、いろんなことを考えて必死で生きてるんだなぁって。」
”どうせわたしなんて”と言いながら、ああでもない、こうでもないと悩んで生きているわたしが面白かったらしい。
夫はとてもポジティブなので、自分と正反対のわたしに興味を持ってくれたのだと思う。
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そんな夫と過ごしているなかで、私の劣等感は少しずつ和らいでいった。”できない”と嘆く私に夫は、「じゃあ、どうやったらできる?」「ほかにやり方はない?」と、一緒に考えてくれた。
”絶対とれない”と思っていた資格を取得できた。”わたしには向いていないかな”と諦めていた、フラダンスを始めた。
”こどもを産んで育てるなんて無理”と思っていたけれど、2児の母になった。
”できない”と思っていたことがどんどんできていく。もちろん、いつもうまくいくわけではないけれど。
でも、"できた"感覚が私のなかに積み重なり、それは確実に自信になっていった。
そんなとき、ふと思い出したのだ。高校生の「シーブリーズをかたくなに避けていた”わたし”」を。
「今の私なら、大丈夫」そう思った。
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初めて使った「シーブリーズ」は、なんとも言えない独特の香りがした。
「劣等感のかたまりだったのはわかった。だからってシーブリーズ使わないっていうのは自意識過剰すぎるでしょ」
夫にはそう笑われたけれど、わたしは笑えない。だって、本当にそう思っていたから。
でも、今の私は高校生のわたしを認めてあげられる。「大丈夫。劣等感のかたまりでも、なんとかもがいて必死に生きていればきっといつか楽になる。自分を認めてあげられる日がくる」
2021年の夏は、私の「シーブリーズ」デビューの夏になった。
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