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【書評】偶然が導く新しい世界「記憶に残っていること」新潮クレスト・ブックス


この本を見つけたのは某古本屋であった。

古本を購入することに関する非難は甘んじて受け入れる。私自身流通している本ならば、なるべく新品で買うようにしている。しかし普通の書店では絶対に手に取ることのない本に、時々出会えることがある。この本はそういう本であり、古本屋でなければ見つけることもできなかったはずだ。

この本は新潮クレストブックというシリーズで、基本的に普通の書店には置いていない。地域一番の大型書店にはまとめて陳列されているものの、ある程度の大きな書店ではおそらく外国文学の作家別で並んでいることが多い。よって著者を知っていなければ手に取る可能性は少ないだろう。

それゆえに、古本屋の単行本コーナーに外国文学で一緒くたにされていたからこそ、私は出会うことができたのだ。


「このシリーズ、イーユンリーの本と同じ!」

そう気づいた私が本の裏側を見ると、実際に彼女の作品も含め様々な作家の短編を集めたアンソロジーであることがわかった。当時イーユンリーに嵌ったばかりであった私は、また素晴らしい作家に出会えるのではないかと思い即購入。今思えばアンソロジーでなければ購入に踏み切らなかったかもしれないの、で本当に運がよかったと言えるだろう。

アンソロジーという事で内容は多種多様である。出身を様々とする彼らの書いた作品は舞台はもちろん登場人物の境遇など、一つとして同じものは無い。しかし、そんな中でも私たちが一貫して感じられるのは、彼らの生とそれに伴う孤独だろう。極上の文章で語られる物語はそのどれもが濃密で、言語も文化も異なる私の中にすんなりと染み入るのだ。愛する家族や住み慣れた故郷との別離、また文化の差によって生まれる人々との隔たり。新潮クレストブックによって紹介される物語は、これらによって生じる悲しみであったり寂しさを味わうものが多いように思う。騒がしい日々の中で静けさを求める私が欲していたものはこれであった。

こうして新潮クレストブックは今ではすっかりお気に入りのシリーズとなった。今後もこの場でおすすめの書籍を紹介していこうと思う。

ちなみに、過去にレビューを書いた「終わりの感覚」もこのシリーズであり、このアンソロジーを読まねば出会うことはなかったはずである。


結びつかないはずのものが偶然に引き寄せられることもある。そのような、本にまた新しい繋がりを生み出すこともある古本屋へ、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

新しい出会いが私たちを待っているに違いない。


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