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【エンタメ小説】東海道五拾三次OLスキー珍道中 第五話 保土ヶ谷

保土ヶ谷

 しばらくは緩やかな下り坂が続く。
 エンジンを吹かさなくても、ビューン、と風を切って滑り降りていく二人。
 その姿は、まるで天から降臨した、二人の天女だ。
 保土ヶ谷駅の先で、再び線路の南へ。

 坂を下り切ったところで、お休み処に立ち寄った。
「甘いもの、食べない?」
「いいわね」
「東海道まんじゅうだって。どんな味がするのかしら?」
「きっと普通のおまんじゅうと同じ味」
 土産物とは、そういうものであるが、それを言っちゃあおしまいである。

「雰囲気、雰囲気。ほら、皮に東海道って書いてある」
「本当、東京で食べるのと同じ味」
 それでも、しっかりと糖分補給する。

 それというのも、この先は、箱根駅伝の中継でもお馴染みの、権太坂《ごんたざか》なのである。
 選手たちが走って駆け上がるこの坂も、近未来では、東海道の一大名所として、魔改造されていた。
 急激な登りのあと、延々と下りが続く、大ゲレンデへと変貌を遂げていたのだ。

 スキー板の充電もしっかりとしたら、さあ、出発である。
「行くわよーっ」
「エンジン全開!」
 権太坂アタックだ。

 ジェットエンジンがうなりを上げて、一気に坂を駆け上がっていく。
 登り切ったら、今度は下り。
「ヤッホー!」
「シーハイル!」
 シーハイルとは、スキーをするときの掛け声。

 ドイツ語で、スキー万歳という意味だ。
 大きなシュプールを描いて、滑り降りていく。
「あー、楽しかった」
「今日はそろそろ終わりね」

 権太坂を滑り降りれば、戸塚はもうすぐだ。
 初日にしてはいろいろあったが、無事、日が暮れる前に戸塚宿に着くことができた。

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