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【童話】近所鉄道(2193字)

 ガッタン、ゴットン。ガッタン、ゴットン。
 家の外を電車が走ります。
 1両だけの電車です。
 自分で走る電車です。
 近所を走る、近所鉄道です。
 だから、近鉄電車です。

「近鉄さ〜ん」
 と、みいちゃんは手を振りました。
 キキーッと、電車が止まります。
「みいちゃんの、おうち前駅〜、みいちゃんのおうち前駅〜」
 電車は、みいちゃんの目の前で停車しました。

「ご近所までなら、花びら一枚、遠くまでなら、花びら二枚。でも、遠くの駅には止まりません。近所を走る、近所鉄道でございます」
「ご近所まで、お願いしま〜す」
 みいちゃんは、花びらを一枚渡しました。

「ご乗車、ありがとうございます。それでは、出発進行〜!」
 ガッタン、ゴットン。電車が動きだしました。

「この度は近所鉄道をご利用いただきありがとうございます。この車両は、全車両一等車となっております。食堂車は、みいちゃんのポケットにございます。おいしい、おいしい、飴玉が入っております。それではどうぞ、ごゆっくり。ご近所の旅をお楽しみください」

 窓の外には、見慣れた景色が広がっています。
「右に見えます、赤い屋根のおうちを過ぎると、電車はまもなく次の駅に停車します」
 キキーッ!
 すぐに次の駅に着きました。
「三角公園駅〜。三角公園駅〜。珍しい、三角の形をした公園です」

 みいちゃんは降りませんでした。
「どなたも降りられないようですので、出発しま〜す!」
 電車は、また、ガッタン、ゴットン、走り出しました。

 でも、すぐにまた次の駅に止まります。
 キキーッ!
 そこは、ジャングルでした。
「ジャングルジム駅〜、ジャングルジム駅〜。この駅で、しばらく停車します。どうぞごゆっくり、お遊びください。ただし、ジャングルには猛獣がいますので、お気をつけください」
 みいちゃんは、電車を降りて、ジャングルに入っていきました。

 すると、ガサガサと、草の陰から現れたのは、大きなトラ。
「ガオーッ!おいしそうな子どもだ。食べてしまうぞ」
 トラは大きな口を開けました。
 でも、みいちゃんは驚きません。

「怖くないもん。みいちゃん、ジャングルジム、上手だもん」
 みいちゃんは高いところまで、スイスイと登っていきました。
 トラは追いかけてきましたが、大きな体が枝に絡まって、身動きが取れなくなってしまいました。
「うへえ、こりゃかなわん」

 みいちゃんが下りると、今度はでっかいニシキヘビが現れました。
「おいしそうな子どもだ。巻きついて食べてしまうぞ」
「平気だもん。みいちゃん、縄跳び得意だもん」
 みいちゃんはニシキヘビを縄跳びにして、ピョンピョン跳びました。
「やめてくれ!目が回る!」

 ジリリリリ……。
 発車のベルが鳴っています。
 みいちゃんは電車に戻りました。

「ジャングルはお楽しみいただけましたでしょうか?それでは、次の駅に向かって、出発進行〜!」
 ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
 キキーッ!
 すぐに次の駅に止まりました。
 今度の駅は、海の上です。

「タコのすべり台駅〜。タコのすべり台駅〜。電車はしばらく止まります。海には大ダコがいますので、ご注意ください〜」
 電車のドアが開くと、大きなタコの足がウニュウニュと入ってきました。
 みいちゃんを吸盤にくっつけると、タコは頭のてっぺんに乗せてしまいました。
「おいしそうな子どもだ。海に落として食べてしまうぞ」

 タコは、ザップン、ザップン、海を泳いでいきます。
 頭の上はツルツル。
 滑ったらどうしましょう。
「面白いわ。みいちゃん、すべり台、大好きよ」
 タコの頭から、ツルーッと滑っても、海にポッチャンしません。
 足の吸盤にくっついて止まるからです。

 ジリリリリ……。
 発車ベルが鳴っています。
「みいちゃ〜ん。電車が出ますよ〜」
 電車が海の上を追いかけてきてくれました。

 みいちゃんは、タコの頭をつるんと滑り降りて、電車に乗りました。
「タコさん、またね〜」
「う〜ん、残念」
 タコは悔しがりましたが、電車はすぐに発車します。

 ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
 着いたのは、砂漠の真ん中です。
「砂場駅〜、砂場駅〜。大きなアリジゴクがいますから、ご注意ください〜」

 みいちゃんが砂の上に降りると、ザザザーッと砂が崩れて、穴に落ちてしまいました。
 出てきたのは、大きなハサミを持った、アリジゴク。
「うへへ。おいしそうな子どもだ。チューチュー吸って、食べてしまうぞ」

「簡単よ。お山を作ればいいのよ」
 みいちゃんは砂のお山を作りました。
 お山を登れば、もうアリジゴクは追いかけてこれません。
「う〜、あんなに高いところには、登れんわい」

 ジリリリリ……。
 発車のベルが鳴っています。
「アリジゴクさん、バイバーイ」
 みいちゃんは、山を下りて電車に乗りました。

 ガッタン、ゴットン、ガッタン、ゴットン。
「この度は、近所鉄道をご利用いただき、ありがとうございます。電車はまもなく、終点に到着します。どちら様もお忘れ物のございませんよう、ご注意ください」

 電車は、みいちゃんのおうちの前まで帰ってきました。
 お日様は、もうすっかり赤くなっています。
「終点〜、夕暮れ駅〜、夕暮れ駅〜。ご乗車ありがとうございました〜」
「楽しかったわ。近鉄さん、またお願いね」
 ガッタン、ゴットン。
 電車は去っていきます。
 車庫に入って、ぐっすり眠って、また明日。


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