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心の痛みに菅波先生と音楽の力 ~朝ドラ「おかえりモネ」感想~

今の朝ドラ「おかえりモネ」
いよいよ東京編も終わる気配ありありで、故郷気仙沼に戻りそうなモネ。
最近は、もっぱら菅波先生にやられてましたが、今回はもう少し別の角度から(も)書いてみたいと思います。
(今日の高村さんはかっこよかったなー。)

本作は、朝ドラにありがちな、出て行った(地元からどこか別の土地へ、それは成り行き上嫌々の場合もあり、夢と希望に満ち溢れている場合もある)先で、いじめにあったりすることもなく。

東京編で、先輩女性社員の神野さんでてきたときは、いじわるでもされるのかしら、と思ったけど(「永浦さんってなんか重いよね」という本質をつく、そして本作のテーマにも通じる言葉は言われたものの)、全然そんなことなく、いまやタメ口で話せる、悩みを話し合える良き同僚となり。

すーちゃん(地元の幼馴染の女の子)が菅波先生を初めて見て色めき立ったときは、ん?三角関係にでもなる?と思ったけれど、一瞬にして、すーちゃんはむしろ、全然進展しない二人の恋路を後押ししてくれる存在だということがわかる展開に。

そういう意味では極めて盛り上がりがなく、穏やかな展開であった。(地味でつまらない、みたいなWEB記事も当初は目についた。いまや、先々週、先週の#俺たちの菅波 の躍進?で、すっかり菅モネ祭りだけどね)

それは、
ちょっと意地悪したり、マウントとってる場合じゃないくらい、ここに出てくる人たち(モネをはじめ、モネだけでなく、それぞれの人が)が、もっと重い痛み、背負った心の傷と戦っているからなんだと思う。

そういう痛みに寄り添って丁寧に登場人物の心を描いている。その極みが、モネと菅波先生の進展の仕方(の遅さ)であり、二人の想い合い方なんだと思う。

ひとりひとりの痛み

今更だけど、ドラマを見ていない人のために、ちょっとだけ解説すると、
このドラマの主人公モネは、気仙沼の島の出身で、ちょうど震災のとき、受験で島を離れていたために、自分(と父親)は津波を見ておらず、すぐに島に戻ることもできず、直接被災したほかの家族や幼馴染に対して負い目を抱いている。そして、自分は何もできなかったという思いの中、誰かの役に立てる人になりたいと思い、未来を予測できる気象予報の仕事に興味をもっていく、という話。

私がTwitterで感想を追っているのは #俺たちの菅波  だけなので、だから感想として情報が入ってきてないだけなんだろうけど、
実際の東日本大震災の被災者の方々は、このドラマをどうみているんだろうか。いや、みる気分じゃないんだろうか。

実際に大雨で土砂災害があった7月だったかに、ちょうどドラマで土砂災害の話がフューチャーされた週があって、そのときは「映像の中に土砂災害の描写があります」というような注意書きが出ていた。それをいうなら、全編を通して「大震災とそれによって負った心の傷を扱っています」と断らなければならいような作品だ。

我々はときに「被災者」と一括りにしてしまうことがあるけれど、実際は、一人ひとり全然別の経験をしている。(これは「被災者」という話に限らず、「母親」「働く女性」・・・何でもそうだけど)。同じ家族でも震災は別の経験になっていて、別の心の痛み方、別の受け止め方、別の立ち向かい方になっている、ということをモネとみーちゃん(モネの妹)が教えてくれる。


震災をきっかけに生まれた子どもオーケストラ「東北ユースオーケストラ」の活動の歩みをまとめたノンフィクション『響け、希望の音』という本を読んだ。ちょうどおかえりモネが始まる少し前に。

この本には、オーケストラの歩みとは別に、楽団員の子供含め、オーケストラ関係者が実際に体験した311についての記載もある。その中に、自分も被災したけれど、家族や家は無事で、他にもっと大変な思いをしている人がいるから、大したことはないと思っていた、という当時小学生だった子の話があった。

同級生とも地震のことは話したくありませんでした。みんなそれぞれ別の体験をしているからこそ、話せなかったんです(同112ページ)
(オーケストラに入って自分の経験を初めて人前で話すことができて)
みんなから食い入るように見つめられながら話をきいてもらって、そのとき、「自分の体験を認められた、自分の気持ちをみつけた」と感じられました。こわかったと思っていたことに気づけたんです。そのとき、「これからは話そう」と思いました。(同114ページ)


ドラマでも、同級生たちが集って、ようやく避けてきた震災のことを語り合うシーンがあった。

震災から10年という月日が経ち、震災をドラマのテーマ(背景というべきか)に取り上げた脚本家や制作に関わる人たちの勇気と、真摯な向き合い(丁寧な描き方)に惹きつけられる。


心の痛みと音楽

先の『響け、希望の音』のメインは、「東北ユースオーケストラ」の活動の記録。

私自身、小さい時からバイオリンをやっていて、趣味でほそぼそとずっと続けていた。社会人になって中断してしまっていたけれど、またほんとに細々と再開したりしていた。10年ほど前、心身の調子を乱して会社を休んで自宅で療養していた時期があった。そのときに、オーケストラに参加させてもらう機会に恵まれた。私はあのとき、音楽に救われた。楽器をやっていてよかったと心から思った。

被災した子供たちとは全然状況も深刻さも何もかも違うと思うけれど、でも、勝手に、この子達に音楽があって本当に良かったな、と感じた。(そしてこのオーケストラでの特別な体験の数々は、不謹慎を承知でいうとちょっと子供たちがうらやましくなるレベル)

モネもお父さんの影響で楽器をやっていた。サックス。吹奏楽部だった。でも震災のあと、まったく吹かなくなってしまった。
本を読んだ割とすぐあとだったこともあって「モネにも、東北ユースオーケストラを紹介してあげたい!!」とひそかに思った。(虚実入り混じった話になっていてすみませんね)

虚(ドラマ)の話に戻る。
東京編になってからは、モネが音楽をやっていたことに全然触れられていない。
菅波先生が抱える心の痛みに関する過去の出来事が解き明かされ、その話には、患者さんだったホルン奏者が出てきた。そのときに「永浦さんも音楽やる人だからわかるかもしれませんが」的な発言があって以来、音楽のことは出てきていない。
でも、菅波先生の過去の話に、音楽を絡ませているのも、絶対伏線だと感じていて。
放送はあと1か月ちょっと。残っているトピックスは(菅モネ話はもちろんのこと)、宇田川さんと、音楽の話だなと思っていた。
最後気仙沼編では、またモネがサックスを吹くに違いない、と期待を込めて思っていた。
そしたら、この次週予告ですよ、みなさん!!!

「モネと菅波に響いたホルンの音色」
「音楽ってこんなにも背中を押してくれるものなんですね」(予告映像より)

きたーー!!きましたよーー!!

モネの痛みに寄り添いすべてを受け止めようとしてくれる菅波先生(キャー!完全に菅波沼ですね)と、
そこに、さらに痛みを癒して、力をくれる音楽が加わる!んだよね?!

菅波先生のプロポーズ(だよね?)とともに、モネがまた音楽をやるようになることを楽しみに、
来週からも、観るのです、朝ドラ。

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