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無借金を目指す経営者へ 「構造的に返せない借入」と「返すべき借入」を認識できていますか?

 無借金経営にしたい。そうおっしゃる経営者の方は非常に多いです。
   そこでお聞きします。

「何年後に無借金経営にできるというイメージをお持ちですか?」

 無借金にしたいとおっしゃる経営者の方で、この問いに答えられる方はまずいません。ただ、イメージを持つことに限れば可能です。この記事では「イメージできるようになる」を目的にします。

 無借金経営になるイメージを掴む上で、「構造的に返せない借入」と「返すべき借入」の二つを知れば、無借金経営になるにはどうなれば良いかがイメージできます。

 尚、ここでは無借金経営の良し悪しについては書きません。

借入を利用している企業の殆どは利益で返せていないという現実

 「え?借入って返さないといけないし、利益で返すんでしょ?」

 そう思われた方。本当に利益で返していますか?殆どの場合、利益で借入金を返せていません。

 では、利益とは何か。キャッシュフロー計算書がーとか言い出すと難しいので、簡易的に書きます。目的はイメージすることですので。

〈借入金の返済原資としての利益〉

経常利益 × 66% + 減価償却費

※以降、簡易キャッシュフローと言います

 経常利益に66%を掛けるのは法人税等を考慮するからです。税率を33%とします。また、特別利益や特別損失を考慮しないのは、実際にお金の増減を伴うものではないためです。

 さて、この計算式で求める簡易キャッシュフロー。借入金を利益で返すということは、借入金の年間返済額よりも簡易キャッシュフローが多い必要があります。ご自身の会社の決算書を見て、いかがですか?

 多い!というあなた。借入に対する収益力は抜群です。でも、そうなっている会社はほとんどありません。

 少ない!というあなた。収益力が低いということがこれで決まる訳ではありません。ご安心ください。

 では、簡易キャッシュフローが年間返済額よりも少ない企業はどうやって借入金を返済しているのでしょうか。答えは…

新たにお金を借りて返している = 利益で返せていない

です。これが現実です。

「利益で返すべき借入」とは

 この利益は返済に使ったものだ!と断定できる術はありません。なぜなら、お金に色は無いからです。

 では、どうやって把握するのか。

 貸借対照表と損益計算書を使って見ます。そして、この2つを使って借入金の中から「利益で返すべき借入」を把握します。

 図を使って見て見ましょう。

実質長期借入金

 無借金経営への第一歩は、この「利益で返済しなければならない部分」を返し続け、「固定資産<純資産」の状態を作ることです。

 これ自体が極めて難しいケースがあります。例えば製造業。ファブレスの場合を除き、工場やそこに入っている機械への投資額は大きい。機械は更新していく必要がある。土地を購入しているなら、そこへの投資も大きい。こうなってくると、「固定資産<純資産」の状態を作るのは極めて難しい。

 話を戻します。上図の「この部分の借入を何年で返せるか」の問いへの答えが、無借金経営をイメージする第一歩です。上の図のケースでは、80の借入金を簡易キャッシュフローで返済し切るときです。

 いやいや、事業をしていると新たな設備投資があるでしょ?と思われたあなた。その通りです。つまり、いつ無借金経営になるかを計算する前提は、「今のままでいけば」です。

 結局、本当に無借金経営を目指すのであれば、色んな要素を盛り込んだ事業計画を立てる必要があるということですね。

「構造的に返せない借入」とは

 構造的に返せない借入。それは、必要運転資金として借りている借入のことです。ここでも、図を使って見てみましょう。

運転資金(2つの観点)

 必要運転資金を2つの観点で見た図です。右の図での必要運転資金(「ココ!」の場所)が小さくなれば、必要運転資金を確保するための借入を減らすことができます。

 減らすことにつながる要素の例は以下の通りです。

①販売先に売上入金までの期間を短くしてもらう

②在庫を今より少なくする

③仕入先に代金支払までの期間を長くしてもらう

 さて、あなたはこれを見たとき、「なんだ!そんなことか!!」と思いましたか?

 おそらく思えないでしょう。もし仮に思えたとすれば、それは内容についてであって実現可能性が高いという意味で思った訳ではないと思います。

 つまり、必要運転資金額を減らすことは、かなり難しいのです。①〜③の中で自社で完全にコントロールできる可能性があるのは在庫だけ。それ以外は相手方との契約があり、交渉が必要です。

 業界の商慣習、相手企業の考えや契約に基づくルールが関係してくるため、多くの場合そう簡単には行かない、というのが実情でしょう。

 また、売上が増加していくと「ココ!」の部分も大きくなるため、例え①〜③を実現したとしても結局今より借入が増えたじゃないか…となってしまいます。

 「構造的に返せない借入」とは、必要運転資金をまかなう借入のことで、そう簡単に減らせないということです。

無借金経営を実際にイメージしてみる

 イメージしないことには実現しません。そして、状況に合わせてイメージし続けないと実現しません。そして、イメージを数字に落とし込んで計画を作り、実績とギャップを把握して対策を打つ。結局のところ、数字からは逃げられません。

 ここでは、そのイメージの仕方に留めます。

 イメージの前提状況は以下の通りです。貸借対照表の内容と簡易キャッシュフローは延々と今の状態が続くことが前提です。減価償却による固定資産の変動も考慮しません。あくまでイメージすることが目的であり、実際にはここで書くことだけでは極めて不十分なことはご承知おきください。

無借金到達イメージの第一歩

 上の図で「長期借入金」が白で表示されている箇所の全てが簡易キャッシュフローで埋まったときに無借金となります。

 つまり、12年かかるということです。

まとめ

 無借金経営の企業は、ほんの一握りです。そして、事業構造上、借入金の必要性が薄い企業が多いです。

 また、以下の記載内容が批判ではないことを先に断っておきますが、借入が必要な業態の企業が無借金であるケースは、概ね以下の要素が単独、もしくは複数存在しています。

①驚愕レベルの収益力

②収益力が高い一方で、売上が長年伸びていない

③役員・従業員への低い報酬・給与

④固定資産が少ない

⑤事業外への資金流出が極めて少ない
 →社長への貸付金など

⑥業歴が長い

⑦事業規模が小さい(売上10億円未満)

 上の7つの要素を見たときに「私が目指しているものではない」と感じる要素があれば、無借金経営にしたいということ自体、あまり意味を成さないかもしれません。

 ご参考になればと思います。

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