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コスモポリタンな洒脱...ラウニ・グレンダール “トロンボーン協奏曲”




冬なので安直に北欧の音楽を聴こうということで、シベリウスやニルセンとメジャーな作品を漁っておりましたところ、ラウニ・グレンダール(1886-1960)の作品に行きついてめちゃめちゃカッコよかったという話です。

グレンダールは8歳からヴァイオリンと作曲を勉強、13歳からコペンハーゲン・カジノ劇場でヴァイオリニストとして活躍しデンマーク放送交響楽団(DRSO:日本でもそうですが、劇場やテレビ局が自前で楽団を持つのはよくあるパターンです)の初代指揮者として同時期の北欧音楽を積極的に取り上げニルセンの曲も振っていた…というか、前項でニルセンの演奏を張り付けたオーケストラですねこれ。無知でした。今回はそのグレンダールがDRSOの初代指揮者に就任する前年、1924年の作品となります。

トロンボーンという楽器は、オーケストラにおいては三位一体の和声で勝負することが多く、メロディを担当する際も合唱でいうところのバリトン…大らかで豊かな響き、堂々とした語り…として用いられています。元々は教会で清らかな気持ちになるハーモニーを奏でる役割であったことから神聖な楽器として扱われてきており、現在のような形で宗教楽曲以外の曲目に定着させたのはベートーヴェンだという定説になっているようです。

トロンボーンが主役を張る協奏曲は多くはないのですが、そういう神聖な出自から他の楽器にはないパワーを感じているということでか、モーツァルトの父レオポルドやハイドンの弟ミヒャエルの作品など古い時代から存在しています。それでもいずれもやはりこの「神聖なバリトンボイス」という持ち味からは離れないような印象です。

グレンダールの協奏曲はこれらと一線を画しており、裏拍系の洒落た旋律と伸びやかなバラードに南の海の薫りのする軽妙な伴奏がクール。おそらく1920年代の流行、ハマっていたものを取り入れたということでしょうか。ピアノが入っているのですが大編成ということでもなく、いい意味でオーケストラ楽曲という感じのしないノリのよさがあります。

ロマンチシズムに慣れた耳ですとオーケストラが薄いかな?と思われるところもあるのですが、前2つの楽章を回顧しながらロンドに向かうフィナーレの導入は見事ですし、ミニマルな構造が軽やかなパッセージとマッチしていてカッコよさが倍増させています。

北欧!という感じはあまりないですが、コスモポリタンな魅力がありました。ともすれば印象派やジャズの模倣、パッチワークと言える部分もあるのかもしれませんが、旋律に名状しがたい人懐っこさがあり、グレンダールにしかない持ち味なのだと思われます(他の曲を聴いてみないと断ずることは出来ないとは思いますが)。

ニルセンを聴くときも感じましたが、デンマークの人はわりと独立独歩だけど人好きのする傾向があるのかもしれませんね。ヴァイキングめいた偏見ですが。

残念ながら音源はあまりなく、地元デンマークを除くとマイナーな楽団のものしか引っ掛かりませんでした。自分が最初に見つけたものは"orchestre symphonique français"というフランスの楽団ですが、1989年設立1997年解散という純民間資本の小さな楽団で…逆にこの電子化時代でもないとみつからないのでは、という一期一会でちょっと面白かったです。

トロンボーンの現代的な魅力、スマートさと温かみの両立したパッセージがふんだんに唄われるので、もう少し日の目を見てくれるといいなと思います。