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LIGHT&DISHES ラボ・ディナー 会vol.7「ネオバックパッカー論 / 現代のサブカルチャー」レポート

4月23日(火)に〈LIGHT & DISHES Lab. ラボディナー会 Vol.7〉を開催しました。この事業は、月に1度さまざまな分野で活躍するゲストスピーカーを迎え、共に食卓を囲みながらそれぞれの世界観を学び合う会です。
今回は「ネオバックパッカー論 / 現代のサブカルチャー」をテーマに、
立体造形作家の森井ユカさんをお迎えしました。

 

ネオバックパッカーとは
森井さんのクリエイティブな活動に旅は必要不可欠なもの。
これまでの海外旅行経験から旅に対する独自の視点を持っています。
そのオリジナルでこだわった点を、最近行かれた旅先の経験を通して話していただきました。
コロナ禍、旅ができないストレスが頂点に達し、とにかくどこでも手軽にいける国をと、行き来が緩和されてすぐにフィジー島に格安航空券で行きました。しかし、ビーチにはいっさい足を運ばず地元のスーパーを取材して過ごします。これが森井さんのスタイル。訪れる場所がリゾートでも都会でも目的が明確ならば脇目も振らずそこに徹底して注力するということ。
最近の世情も反映し、
 
1. 円安・物価高に負けない
  →LCC/Airbnb/スーパーを活用できる
2. 年齢に負けない
  →そこそこの体力、抵抗力がある
3. 無理をしない
  →好きなことだけをして過ごす
 
という森井ユカ式ネオバックパッカーの定義に辿り着きました。
直近では、4月8日アメリカ・テキサス州ダラスの日蝕イベントへ。これまで2度日蝕を見に行ったことがあるけれど、2度とも悪天候で見られなかったことから今回への思いはひとしおだったそうです。宿の手配、持ち物など出国前の準備から現地での過ごし方、食事、など至る所にオリジナルの旅のスキルを発揮します。
さらに、ネオバックパッカーとして以下の技を紹介。
 
1. 時間があっという間に過ぎる
  →交通関係の遅延などが気にならない
2. すぐ忘れる
  →くよくよしない
3. お金で解決できる
  →選択肢がいくらでもある
 
歳を重ねるごとに、物事や時間の過ぎる速さの感覚が変わってきていることが、
ますます好きなことに集中できて、本当に自分が好きなことがはっきりしてくるのです。これまで森井さんのサブカル度合いがわかる経験として、いくつか実例がありました。
 
・ビーチに行かないフィジー
・シンガポールで推し活(歌台)
 空港から出ないシンガポール
・地上に出ないロンドン(地下鉄ラブ)
・極夜のスウェーデンでスーパー三昧
・台湾でプロレス観戦
・パリでオタ活
・ニューヨークで昆虫採集
 地面を歩かないニューヨーク(ハイライン)
 ニューヨークのオタク屋攻略
・香港で美術館だけ
 
というかなり偏った旅の軌跡。
旅は続きます。

 


今回の旅のメイン「日蝕ウォッチ」
ダラスの街を楽しむのでもなく、観光名所に行くでもなく、とにかく「ダラスでの日蝕ウォッチ」に一点集中。
事前情報や各種メディアでは今回も天気が危ういという予想が流れ出し、著名な天文学者までダラスから他の地に移動してしまうという状況の中、森井さんはダラスを離れず当日を迎えます。たとえ日蝕が見られなくてもその状況を楽しむことが重要なのだと。スタジアムでは、世界中から集まった日蝕ウォッチャーたちとその時を待ちました。すると皆既の1時間くらい前から雲が徐々に切れはじめ、月が太陽を隠し、あたりが暗くなっていき、これぞ皆既日蝕が現れます。日蝕の最後に見られる”ダイヤモンドリング”と称される光の輪、その光の美しさが心から感動する現象だったと言います。約数十分の天体ショー、3度めで念願が叶い、今回の第一の目的達成です。今回の日蝕しかり、北欧のオーロラ、アイスランドの流氷など、そこでしか見ることができない美しい自然現象は心を打ち、糧になっていくわけです。


目的達成の後は、ダラス-ニューヨークの約2週間のサブカル旅が待っていました。
 
キャラクターショップ
SF映画やドラマの漫画、雑貨が所狭しと並んでいる「コミックストア」を10軒ほど巡ります。
目当ては大好きなスタートレック関連のグッズ。でも品数が少なかったのでSNSで情報を収集します。ちなみに森井さんもキャラクター制作で関わっているポケモンのカードはレジカウンターの内側にあって、気軽には手に取れないようになっていたと。意外にも最もスタートレックものが見つかったのがニューヨークのボードゲーム専門店The Compleat Strategist。日本でオーダすると送料だけでも5000円はかかるピンボールスタイルのボードゲームを購入。店内は天井までゲームが積まれたカオスな状況…なんて居心地いいんだろうと至福の時間を過ごします。その時の気持ちはまるで実家に帰ったようだったと。あらゆるデジタル手段を使って、効率的にレア物の聖地をめぐり、自分だけの掘り出し物を獲得して達成感に至るというループが理想で、それが森井さんのサブカルワールドです。
 
美術館
美術館巡りもクリエイティブ活動に欠かせない項目なので、訪れたい美術館、ギャラリーをリストアップ。円安で入場料の高さが痛くとも、そこが行動のプライオリティに影響していくのです。
ニューヨークのMOMAが基本約5000円(30ドル)というのはなかなかに厳しいため、割引のある曜日や時間を事前に調べ尽くすのが吉。入場料のいらない、いわゆる販売目的のギャラリースペースも、アメリカはとんでもない広さなので玉石混合の中から見分けられればかなり見応えもあり、コスパの良さも実感できます。
ダラスの彫刻美術館『Nasher Sculpture Center』は、パリのポンピドゥセンターで知られるレンゾ・ピアノ設計で、建物自体がアート作品。入り口には、建設時に使用した素材が置いてあり、しかも触れることができて入場料10ドルは良心的。『Dallas Contemporary』(無料)は同じくダラスの広大なギャラリーで、こうしたお得で迫力あるギャラリーに出会うと、さらにモチベーションが上がっていきます。そしてニューヨークのMOMA(その分館PS-1とまとめて30ドル)。年代ごとに分けられ常設と企画のバランスが絶妙。MOMAは入場料の高さも超える充実を与えてくれました。最後に森井さんデザインの、
「ネコカップ」が、”いつかMOMAのミュージアムショップで売ってもらえたらいいな“という願いを込めて後にします。
 
スーパーマーケットと食事情
「日本式の三角おにぎりが一個約900円(6ドル)」という円安を切り抜け、スーパーや中華街(時々IKEA)を使いこなすことで食事はいくらでも工夫できるとわかったそう。毎日何を食べるか……これは円高・物価高においては最重要課題。ランチはリーズナブルな店で外食、朝夜はスーパーの出来合いやフルーツとパターンが決まっていきました。果物類は安く、小ぶりなリンゴやバナナ、アボカドなどは品質も良いものが1個50円ほどで、しかもヘルシー。スーパーではWhole Foodsの自分で詰めるデリと冷食をリピートです。
ランチは、評判の良いストリートフードのTHE HALAL GUYS のチキンプレートが9ドル、IKEAフードは10ドル以下で。今回の目玉はニューヨークのチャイナタウン、華豊快餐店の焼豚丼が5.5ドル。学食のようなShu Jiao Fu Zhou の3点セット(ピーナツ醬麺、水餃子、青菜炒め)は1皿3ドルで、どちらの店も人でいっぱい。満足度も高かったと言います。ライフワークとなっているスーパーマーケットの取材は、森井さんにとってクリエイティブワークに活きる情報源。直に手に取り、使い、感じ、そしてその印象を発信していくことが自身への糧になっていくのです。
 
 
宿泊
宿は一貫してAirbnbを選択し、家主さんや他の宿泊者とのコミュニケーションをとりながら次の旅の情報収集をしていきます。そこには目的一点集中だからこそ、節約や円安の影響に捉われない楽しさがあるのだと。
基本的に、一人旅スタイルなのは、気楽だというのもありながら、”人とのコミュニケーションが得意ではない”という森井さん。ただし、共通の目的同士の繋がりは歓迎で、サブカルワールドをシェアする仲間意識はまた別ということ。普通は気づかないミクロな部分を共有するのは同じオタク同志の興奮度に現れるという幸せな時間だったようです。
 

旅を終えて
ネオバックパッカーの定義に基づき森井流のスタイルを貫いた旅でした。目的一点集中だから、いわゆる普通の観光ルートからは外れます。それでも目的を通して、一般観光では気づかない、みつけられない掘り出し物を、体験やモノを通して得られるのが醍醐味。森井さんはそれを「逆張り」と言います。
帰国して自身が関わるメディアやSNSで発信することで一つの旅が終わり、そして次の旅へと思いを馳せていくという繰り返しが続くのです。
最後に「振り返るとサバイバルな、何かを試され続けていた渡米でした…。」と話します。これはきっと旅をする人たちみんなが感じることで、それが次の旅への支えと力になっていくのです。
 
 
編集後記
立体造形作家として活躍しながら、様々な分野を解釈する森井さんの世界。旅から得たインスピレーションが、造形の仕事や執筆などにも反映されています。さらに現在はデザインの専門学校や新たに大学でも教えることもされています。以前この会のためにインタビューした時、”これからの人たちには想像力を鍛えてほしい”と言っていました。お手本のないネオバックパッカーは、あらゆる局面に立った時、必要となるのが想像するスキル。これは、いくつになっても生命力を高めるためにあった方が良い。いわば相棒的なもの。そして、「好き」という情熱。なにがあっても、対象への愛、熱意がある限り強くなれるのではないでしょうか。今回、参加した人の中に、電動アシストの自転車で東京から京都まで旅をしたという主婦の方がいました。ある意味これも他にはあまり例を見ない「逆張り」です。
参加者みなさんの印象深かった旅話は全て面白く、旅をテーマにすると様々な角度から人や環境、物事を見られるという物差しのように感じ、お互い次の旅への入り口になるわけです。好きな分野をベースに旅をすることは、結局はネオバックパッカーになるということなのかもしれません。
 
LIGHT & DISHES 
谷田宏江

 
 
 

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