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【論点解説】会社法の利益相反を見落とさない方法

 会社法の論点、というよりも条文の適用として利益相反(356条1項2号3号)について、よく見落としてしまうという話を聞きます私自身も現役のころはよく見落としており、その対策としてどうしたのか?という点を、今までの指導経験を踏まえて説明します。

1 利益相反とはどのような状態なのか?を実体的に理解する

 まず、利益相反とは、読んで字のごとく、「利益」が「相反」すること、利益が相反する状態であること、を言います。

 では、誰の利益なのか?ここは、会社と取締役等の役員(主に取締役のためとします)の利益の対立を指します。
 そもそも会社の利益は株主に帰属するものです。取締役は会社の利益最大化(株主の利益最大化)のために雇われているに過ぎないです。そして、取締役は会社の業務に常に接し会社財産を利用できる地位にあります。一方、株主は通常は会社の経営そのものには興味がなく利益の最大化を目指しています。そのため、取締役が会社の利益よりも自身の利益を優先するような取引をすることは、本来的には許されないはずです。

 しかし、取締役やその紹介で取引をすることで会社の事業が円滑に進み、利益が最大化するのであれば会社も取締役もwinwinな関係になります。そのため、法は、取締役と会社の取引を一律に禁止せずに、株主総会でOK(取締役会設置会社の場合は取締役会)が出れば利益相反になる取引自体を有効としています。もっとも、その判断に際して、株主が今回の取引が会社の利益追求のために、取締役ー会社間の取引をするべきか?を判断できなければなりません。そこで、法は、重要な事項の開示を経たうえでの決議を求めているのです。

 このような趣旨を踏まえて問題文の事実関係を読み、会社と株主の利益が相反するか?相反する場合に条文を適用することができるか?を検討して答案に表現することになります。

 本来的には条文の適用関係を先に検討することになるはず。しかし、今回は問題文を読んで、利益相反の状態にあるか?を見抜いてから条文の要件該当性を検討するためこのように表現しています。

 なお、以上の論述は自分の中の説明としてこう思っているというものです。そのため教科書的な裏打ちがあるわけではありません。

2 一定の問題文の事実関係があったら必ず検討する

1のような趣旨を理解して問題文から実質的に利益相反を見抜いて、条文の適用を検討する方法は、そもそも、問題文で記載されている事実関係から会社と取締役の利益を適切に抽出してその対立を見つけられることが必要になります。
しかし、それがうまくできないので、利益相反を落とするのです。

そこで、形式に着目して、問題文の一定の事実関係がある場合には常に利益相反を検討することを意識づけるという方法が考えられます。

具体的には以下の類型の時は利益相反を検討する。

①会社と取締役の間での取引すべて
⇒直接取引該当性が問題になりえます。

②会社がだれかの債務を保証する時
⇒3号の文言の典型例である保証契約の有無を基準に問題文を見ていきます。

これら2点は特に簡単な方法です。

また、以下の点も要確認です。

③会社と会社の取引であっても株主関係で取締役がどちらかの会社の株主になっている場合
⇒この場合はケースによってはどちらかの会社、あるいは双方で利益相反に関する手続きが必要になります。

この類型については過去問などの事例をベースに考えるとよいと思います。

例えば、旧司法試験平成15年商法第1問等がよいと思います。また、お手持ちの予備校の問題集(重要問題習得講座等)にはこの手の類型の問題があるはずです。

3 まとめ

 以上のように、実質的な状態を理解したうえで、一定の問題文の事実関係がある場合には利益相反を検討する。そういう意識をもつだけでもかなり論点落としを防げると思います。
 また、実質的な利益相反状態を理解しておけば、近時よく出題される親子会社にまたいだ取締役の利益相反等にも気づけるはずです(令和4年司法試験等)。



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