さよならクラッチペダル【勝手にリレーエッセイ2023春 #1】
<前走者のエッセイ振り返り>
第0走者のエッセイはこちら▼
やられた。しっかりとクエスチョンマークが、頭上に大きく浮かび上がった。
無意味を通り越して、意味がわからない。最終的には、主催者本人がリレーエッセイのテーマを忘れる始末。
だけど、すごく面白い。僕は意味がわからない漫才のネタが大好きなのだが(さや香の「からあげ4」とか)、それと近いのかもしれない。
意味がわからないことを真剣にやっているのが、笑いにつながるのだろう。一見、相反するものだから。
炭酸飲料みたいにシュワシュワはじけた学生時代の思い出話が、しっかりと情景として頭に浮かび上がって、読みながら腹を抱えて笑った。
話の切り取るところが、天下一品ですね。
ここの部分が、特に好きだ。学生時代にバカしたことも、後で良い思い出に変わるんですね。今考えれば、コンプラ違反だけど。
テルテルてる子さんもコメント欄で書いていたが、学生時代だから許されるのだろう。
そしてこのような経験が、高校時代にあと2回あるらしい。本当にイトーダーキさんは、私たちの想像をいつも超えてくる。ぶっ飛んでるよなぁ。
イトーダーキさんの、いきなり無意味らしさ全開の記事を読んで、自分の中にもあった無意味なことが、蘇ってきた。
あれは、大学1年の夏休みの話だ。イトーダーキさんの話が夏だったので、僕も夏休みの記憶が、連想されたのかもしれない。
本編
セミがこれでもかと鳴いていた、大学1年の8月上旬。
僕は、高校時代の友達2人と一緒に計3人で、合宿免許を取りに行った。
島根県の米子市にある自動車学校で、約2週間かけて免許を取ることにしたのだ。
その時に、AT車(オートマ車)かMT車(ミッション車)のどちらの免許にするか、という話になった。ミッション車は、マニュアル車と呼ばれることもある。
すでに車の免許を持っている人ならわかると思うが、MT車にはアクセルペダル、ブレーキペダルに加えて、クラッチペダルというものがある。
MT車はこのクラッチペダルを踏む作業が増える分、運転も難しくなる。
昔はこのMT車が多かったけど、今ではほとんどの車がAT車だ。
ではなぜMT車の免許を、今でも取る人がいるのか?
当たり前だけど、乗れる車の種類が増えるからだ。
AT車はもちろん乗れるし、MT車のスポーツカーやオープンカー、軽トラックなどにも乗れる。
つまり、MT車の免許の方が、乗れる車の守備範囲が広い。
僕以外の2人はもうすでに、MT車にしようと決めていて、「ギア3はどうする?」と聞かれた。
正直、僕はAT車で十分だと思っていた。車にそこまで興味ないので、スポーツカーやオープンカーも買わないだろう。
だけど、自分1人だけがAT車を選ぶ勇気もなくて、結局僕もMT車の免許を取ることにした。くそっ、同調圧力に負けた。
そうして、僕のMT免許取得への合宿は始まった。
自動車学校に通っていた人なら分かると思うが、はじめに適性検査みたいなものを受けさせられる。
情報処理の速度と、運転時にどんな性格であるかが、このテストで調べられる。
それを総合的に判断して、自分の運転の適正が分かるのだ。
そしてその結果が、自分の担当教官にも見られる。この結果を見た教官から、僕はこんなことを言われた。
「君、運転の適正ないねぇ」
そう。自分は適性テストの総合点が、低かったのだ。
そして、このテストの結果は、信頼度の高いものだった。
実際に教習場内で運転してみても、周りと比べて自分は、運転がへたくそ。
一方、友達は運転が得意で、楽しんでいた様子。
自分は同時並行して物事を考えるのが苦手で、運転はまさにその能力を要求するものだった。
周りを見て、教官の指示を聞き、さらにそれを動作に移すこのマルチタスクが、どうも自分は苦手すぎることが判明した。
ましてや、MT車だ。発進する時、停止する時、ギアチェンジする時に、いちいちクラッチペダルを踏まなくてはいけないので、余計に頭がこんがらがった。
教官の指示通りにうまくできなくて、教官がイライラしてきているのが伝わってくる。S字クランクで脱輪した時は、「チッ」という舌打ちが、かすかに聞こえてきた。
そうやって教習をこなしていた時、とうとう教官が痺れを切らしたのか、「MT免許ではなくて、AT免許に切り替えないか?」と打診してきた。
なるほど。確かにそれは、安全パイだ。
だけど、それでいいのか?
一度やると決めたことから、そんなに簡単に逃げていいのか?
結局、僕はMT免許を頑張って取ることにした。教官や友達から運転のコツを聞いて、試行錯誤した。
嫌で嫌で仕方がなかったけど(特に路上教習)、回数を重ねるうちに実技試験を突破できる気がしてきた。
「よし、いけるいける」
クラッチペダルを踏むコツも、体が覚えてきた感じだ。
そして見事、MT免許の実技試験を突破できた。学科試験も無事に通ったので、晴れてMT免許を取得できたのだ。
おめでとう!我ながら、本当によく頑張った。
そして、それから月日がたった。免許を取得してから今日まで、大学の友達の車や、レンタカー、家族の車を運転する機会がたくさんあった。
そして、こんなことを思った。
・・・・・
クラッチペダル全然踏んでない!
全部AT車やん!
予想していたことだったけど、まじでMT車なんか乗る機会なかったぞ。
あの努力は、なんやったんや。
将来スポーツカーを買う予定もないので(てか買えない)、今後もMT車は乗らないだろう。
あぁ、僕にとって、クラッチペダルは無意味なものだった。
<1643字>(本編のみで)
【勝手にリレーエッセイ2023春"無意味"】
おつぎは…
グループC第2走者は…
ジョニーみうらさんは、元放送作家の方です。元放送作家さんだけあって、視点が斬新です。「大日本アカン警察」という番組にも、関わっていたそうです。僕も当時見ていて、笑わせていただきました。
この記事とかは、元テレビ関係者じゃないと書けないであろう記事で、とても好きです。
【この企画の概要】
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