好きな子がいるのなら家を探しにいこうぜ【勝手にリレーエッセイ2023春 #0】
本編
高校時代の私は、
なぜかみんなの悩みを聞くことが多かった。
理由はわからないけれど、私には誰かの秘密の情報が集まってきた。
「これ、まだ誰にも言ってないんだけど」「お前だから話すんだけど」とかそんなこと。
私は時によき相談役になったり、許可を得てその秘密をみんなに笑いながら拡散するという、いま思えば不思議な役回りだったように思える。
そう言ってきたのは、高校の友だちのT君だが、
社会に出たいまも、そんな役回りになることが多い。
…
私が15歳、高校1年生のとき。
「好きな女の子がいるんだ」と言ってきた部活の男友達がいた。部活も同じでクラスも同じ友だちだった。
「え、だれなの?」と聞くと、彼はその子の名前を教えてくれた。仮にその恋のお相手をピーちゃんとしよう。
私はピーちゃんがどこの中学の出身なのかも知っていたし、恋人がいないことも知っていた。
だから、なんでかわからんけど、彼に言った。
「じゃあさ、放課後、
ピーちゃんの家を探しに行こうぜ」
いまだったらありえない。コンプラ問題だ。
なんで家を探しに行くんだ。まず見つかるわけないだろ。札幌だぞ。どんだけ広いと思ってるんだ。
彼は言う。
「それ、いいな」
なぜだ。なぜそれがいいんだ。思いとどまれ。
てなわけで、部活の練習がオフの日、彼と2人でピーちゃんの家を探しに行くことにした。高校1年の初夏、よく晴れた日の15時台だった。
よく思い出せないけど、自転車が1台だけしかなくて、彼と2人乗りすることにした。自転車の2人乗りのことを、我々は「ニケツ」と呼んでいて、彼がチャリを漕ぎ、私が後ろ。
ピーちゃんがどこの中学校出身なのかは分かっていたから、住んでいるであろう地区も推測できた。高校からは自転車で40分くらいの距離の地区。白いYシャツを着たニケツの我々は、そこへ急いだ。
…
ピーちゃんの家を探そう、と急いで学校を出たものの、手がかりがまったくない。
……というわけでもなく、
実はひとつだけ手がかりがあった。
クラスメイトの男の子が「ピーちゃんと一緒に帰ったことがある」と言うのだ。
ピーちゃんと彼が一緒に帰った道すがら「お化け屋敷みたいな家を見た」と言っていたのである。それも私だけが知っている情報であった。
まずは、該当の地区に行って、お化け屋敷のような家を探そう。その近くにピーちゃんハウスがあるに違いない。
そんなことをニケツの後ろから指示しながらチャリを進める。どんな経緯で恋をしたのか、ピーちゃんのどこが好きなのかをチャリの後ろから聞きながら。
北海道の夏はそれほど暑くなく、私たちはスクールバックを肩にかけ、少し汗をかきながらチャリを進める。
目の前には絵に描いたような青空が広がって、気分もいい。
約30分。チャリを進めた。
私たち2人はやがて話すこともなくなって、無言の時間が訪れる。静かにチャリが進む。ピーちゃんハウスがあるであろう地区まではまだ少し距離がある。無言だ。
すると彼が言った。
そうだね、と答えて、私も言った。
いや、待て待て。
なにを美しい感じにしようとしているのだ。
こんなのストーカーだぞ。
ダメだろ。絶対ダメだろ。
…
でもなぁ……私にとってのあの時間って、
とても有意義だったんだよなぁ。
結局、ピーちゃんの家は、
見つからなかった。
好きな女の子の家を探しに行く、
という経験が、高校時代にあと2回ある。
……
…
..
……あれ? 今回のリレーエッセイのテーマって、なんだっけ?
<1,473文字>
【勝手にリレーエッセイ2023春"無意味"】
おつぎは…
『なとふむら』さん、
『三毛田』さん、
『ギア3』さん、
『AI夏目漱石』さんにお任せします。
※画像タップでプロフィールにリンク!
【フォーマット参考】
「2022秋」の2番目の記事(勇敢なヘラジカさん)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?