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The Manchester Japanese Festivalで出会った「こんな私が私の好きな私」

ドキドキManchester Japanese Festivalへ行ってみた

 2022年の8月28日(日)にDoki Dokiフェスティバル、またの名をThe Manchester Japanese Festivalへ行ってみた。要は日本文化のお祭りだ。日本の「伝統」文化にまつわる展示や催し物もあるが、いわゆるクール・ジャパン、あるいは「オタク」にかかわるものが大半だと言っていいだろう。
 コミケのような役割も果たしているのだろう、自分の作品を売っている人もいるし、マンチェスター市街地にも店舗をかまえるKENJIなどといった業者が商品を販売していたりもする。こういうモノがいわゆるJapaneseとしてウケているのかと、知らないモノばかりでとても新鮮に感じた日本人のはずの私だった。
  受付で当日券10£(約1600円)を買って入場したのだが、いきなり「あ、日本人ですね。こんにちわ。」と香港出身の若い男性から日本語で声をかけられた。こっちへ来てから「ニーハオ」と声をかけられることもままあったので、少し驚いた。
 この記事では私目線での気づきにしかふれていないので、フェスティバルの全貌や詳細についてはフェイスブックをみていただいた方が早い。ちなみに、こういうJapan Festivalの類は、マンチェスターだけでなくイギリス各地で行われているらしい。

今年のものではないのだが、動画もアップされている。 

Cosplay(コスプレ)というジャンル

 会場にたどりついてから会場の中に入るまで、まず目につくのはコスプレをしている人たちが多数うろうろしていることだった。この時私には日本人の若い同伴者がいた。その人はアニメや漫画について私よりずっと詳しく、「あ、これは〇〇だ!」「あ、あそこに△△がいる!」と始終狂喜していた。武器なのだろう、小道具をもっている人もいる。
 「写真を撮らせてもらってもいいですか」とコスプレの人びとに声をかけると、例外なく待ってましたとばかりにとても喜んでくれた。しかも一枚とると「いっしょに写らなくていいの?」と聞いてくれるのだ。そしてセンターに立たせてくれ、しかもさらに違うポーズをとってくれるのだった。慣れている。感謝。

会場の外で
会場の中で

 コスプレはCosplayという語でひとつのジャンルとして確立しているのだと知った。そして、会場内でも飛び入りで変身できるようになっていた。とはいえ、ほとんどの人はこの日ために入念に準備し、待ちに待って満を持しての参加のようだった。

ステージ上の演歌と和太鼓とアイドルと武道

 会場内にはステージもしつらえられていた。
 和服を着て吉幾三などの演歌を歌うL J Englishという人がいた。演歌を歌うようになったきっかけは、日本語を勉強するために日本の音楽を聴き始めたことだったそうだ。それが今や演歌歌手としてイギリス各地で公演してまわるまでになったということだ。時にコミカルでもありたいへん楽しく聴かせていただいた。まさかここで吉幾三に出会うとはまったく予期していなかった。
 琴や和太鼓の披露もあった。このあたりはいわゆる日本の伝統文化というくくりになるのだろう。

Kaminari UK Taiko Drummers

 IDOL枠で披露された歌や踊りもあった。二組見たのだが、それぞれ日本語でも歌っており、それこそ日本のアイドルをものすごく綿密に研究していることがうかがえた。私が見たのはたまたま二組だったけれどこれは氷山の一角で、披露にいたる前の準備段階だったり今回ここにはいないIDOLたちが、イギリス全土にたくさんいるのだろうなと想像された。
 二組とも舞台正面で自分の番の時にカメラを設置して動画をとっていた。あとからYouTubeやSNSにアップするのだろうと思っていたら、やはり私が見たうちの一人の動画がアップされていた。

お手製と思しき衣装もKawaii!

 また、プログラムではMartial ArtsあるいはBudoと括られていたのだが、空手や体術の演武もあった。芦原空手術の先生は黒帯五段だった。数人の生徒が出てきて空手の動きを披露していた。
 いっぽうの体術というのは初めてみたのだが、正確にはBujinkan Budo Taijutsu(武神館武道体術)というのだそうだ。忍術がはいった武道なのだな、と理解した。グループのひとりは何度も日本に行って修行をしているとのことだった。

 これらMartial Artsの各グループはブースも出していて、日本文化に関心のある人が集まる場所で会員を獲得することも目的のひとつのようだった。 

イギリスの「日本の」鉄オタにしびれまくる

 会場内はモノと色とコスプレとJapaneseであふれかえっていたのだが、なかでも私にとってもっとも印象的だったのが、いわゆる鉄オタの方たちである。もちろん日本の電車の、である。30年前にロンドンで設立された「日本鉄道友の会」The Japanese Railway Societyという組織のブースが出ていたのだ。会場の片隅でいぶし銀のように地味に光るそこに、当然私はひきよせられた。

 なにからなにをどう説明すればいいのかわからないくらい、端っこのその一角の高密度空間から発するパワーに私は圧倒され、しばらくそこにくぎ付けになった。
 なにを思ったか私は、こんなに展示物をガン見しているのだから何か話しかけなくてはいけないだろうと無茶なことに思いいたってしまい「私は東京で新幹線とか中央線とか山手線とかいろいろ乗ってます。地下鉄にも乗ります。」と、まことにどうでもいいことを口走っていた。そんなもののいちいちはもちろん深くよくご存知で、「だからなんなんだ」という感想はおそらく心にぐっととどめて一応「ほうほう」と聞いてくださった。
 「日本の鉄道のどこが好きなんですか」とのド素人の愚問過ぎる愚問にも、なんだかたくさん説明してくださったのだけれど、そのひとつに「時間が正確」というのがあった。私の興味と理解のキャパはもういっぱいいっぱいだ。
 ともあれ、終始すごく優しく丁寧に日本の鉄道のことをいろいろ教えてくださった。

パネルや模型、資料の展示物

 ブースの番をしておられたみなさんはそろそろ帰ろうとしているところで、やはりそこは鉄道で帰途につくらしかった。

 彼らのFBを後日のぞいてみると、その奥の深さに「私ごときがうっかり電車のことを口走ってスイマセンでした」とあらためて自分の浅薄をわびたくなった。

こんな私が私の好きな私

 コスプレもあれば、歌ったり踊ったりもあるし、自分の作品や好きなものを展示したブースにじっと座っているという参加の方法もあるわけだが、いずれにしても心底自分の好きなものに存分にいまここで関われており、しかもそれを誰かと共有する空間にいるといううれしさや楽しさが会場いっぱいにあふれかえっていた。
 つまるところJapanese Festivalは自己表現の場になっていて、それはもちろん、それぞれが対象とする「日本文化」が好きだということでもあるのだけれど、それよりも何よりも「こんな私のことが私は好きなんです」の気もちが、たまたまJapanというワードでつながっているという感じがしてならなかった。

こんなことをしている時の自分が好き、これについて話している時の自分が好き、こんな格好をしている時の自分が好き、これに関してつながった仲間といっしょにいる時の自分が好き。

 そういった「こんな私が私の好きな私」を見ているのは、とても愉快だった。そういう「私」をひとつでも見つけられると、日々の生活で何かつらいことがあったとしても、そこから自分をいったん切り離すことができるだろう。
 日本人としてどうこうというよりも、コアな「こんな私が私の好きな私」の大展覧会の観客として、とても楽しめた。伝統文化であれクール・ジャパンであれその分野の素人が、ただ日本人だからというだけで「いやいや日本ではこうなんですよ」などと知ったかぶりして言えることなど、一切ない。

 自分の好きな世界を徹底的に追及する姿は、とてもとてもクリエイティブだ。


カバー写真:Manchester Japanese Festival 2022(2022年8月28日)


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