『幸恐怖症』

「今度のゴールデンウィークは
遊園地に連れて行ってあげるからね」
と母

「ほんとぉ?
わぁい‼︎やったぁあぁ」
小学生の少女の胸は弾んだ

念願の遊園地‼︎
一週間前からリュックに
荷物を詰める

駄菓子に
なぞなぞの本、
それに相棒のクマ、パンちゃん‼︎
パンちゃんの着替えも必要だ!

いよいよ当日の日がやってきた
天気は文句なしの晴天
車の中でも少女の頭の中は
CMで見た憧れのアトラクションのことで
いっぱいだった
「メリーゴーランドにコーヒーカップ、
空飛ぶゾウにも絶対乗るんだ‼︎」

田舎から都会へ
軽自動車の後部座席
パンちゃんと二人
ルンルン気分のごきげんだった

数時間経ち
大きな観覧車が
どんどん目前に迫ってくる

少女の瞳は好奇心とワクワク感で
キラキラ輝いていたことだろう

現地に着くと
園の門にはすでに長蛇の列が出来ており
父は母の一声で
一足先に券売り場へ行く

すると券を買いにいった父は
入場券売り場の目前で
きびすを返し小走りで戻ってきた

その後母は少女に言った
「混んでるし、金額も高いから、
やっぱり遊園地はやめにしよう‼︎別なところへ行こう」と…

少女は
「うん、分かった」とうなずいた

だが少女の心の中は
土砂降りの雨で洪水となっていた
悲しくて、残念で、
今にも泣き崩れそうなのに

そんな事は
だれも気付かない

なぜなら
少女は悲しい顔一つすることもなく
笑っていたのだから
誰も困らせたくなかったし
怒られたくもなくて
我慢したのだから

遊園地はアイヌの博物館に変更となった

少女は大人になった今でも
癖が治らない

その癖とは…
誰も望んでいない我慢をする癖
自分に嘘をつく癖

誰が悪いわけじゃないのだ
少女自身の問題で
彼女にしか解決できない事だ

だから
人生に期待なんてしない
立ち直れない程
また傷ついてしまうのが怖いから

幸せが顔を覗かせると
彼女はその幸福から逃げたくなる

幸福を受け取ってしまった先に
それを失ってしまった時の事を考えて
どうしよもない不安が襲うから

そしてまた彼女自身も
誰かに幸せを期待させて
裏切るような人間に
成り下がってしまったのかもしれない、、、
かつての母のように

「あの時のあの子を
救いに行くために
私が今出来ることは何だろう…」

・遊園地に連れて行ってあげること
・あの日の残念で悲しい気持ちを汲み取って
 抱きしめてあげること
・「よく我慢したね、頑張ったね」
 と認めてあげること
・辛いことは辛いと、嫌なことは嫌だと
 はっきり言っても
 誰も君を嫌ったりしないよ‼︎
 と教えてあげる事

「出来ることから始めていこう
私のほんとの願いを叶えるために」

彼女は今日
そう決意をした

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