幻の鹿鳴館(奇行小説仮案)

 午後六時三十分過ぎにお腹の所がぱっくり開いた真っ赤なドレスを着ておへその所にハイビスカスの花を咲かせた若い異国風の女性が使い慣れた日本語で「妖怪パーティはこちらでしょうか」とバイトのキッチンカーの中にいる俺に尋ねてきた。

 何の事だ?妖怪パーティ?どうしてキッチンカーの中にいる俺に聞く?
 ?だらけの俺の頭に遠方からの御客人と答えを出した、距離的に遠いだけでなく。

 この手の人たちを手助けせよと言うのがキッチンカーのオーナーからのお達し。
「ちょっとだけ待ってください直ぐにご案内致しましょう」
 知った風な体《てい》を装って販売窓口を閉じ「休憩中」の札を掛ける。

 キッチンカーの中でオーナーに電話、
「妖怪パーティーの場所を聞かれたんですけど何か情報有りますか?」
 スマホから機械音声が答える。
「今夜日比谷公園で百鬼夜行の催しが行われる予定」

 いつものごとく返事をする前にプツリと切れる。
(もう少し愛想が有れば可愛げが有るんだがなあAIと言えど)
「なるほどな百鬼夜行か異国の雪女でも演じそうな雰囲気が有ったな」さっきの女性を思い浮かべ悦に入る。

 エプロンだけ外し車を出る。
「お待たせしました、百鬼夜行のお客様でしょうか?」
 えって感じで頭を傾ける女性。
「この辺りで妖怪系のイベントはそれしか聞いておりませんが」
「そうそれだと思うわご案内して下さる?」
「はいこの近くですから」

 ソメイヨシノがほぼ散ってしまった4月の午後6時過ぎ外はもう薄暗い、逢魔が時と言うやつだ。

 丁寧にこっちですのつもりで出した掌をどういうつもりか両手で受け止められてしまった、何者なんだこやつ。

 両手で掴まれたまま案内する羽目になってしまった、知人に見られたら誤解されそうだ、服装が派手なだけに。

 日比谷公園のにれの木広場が集合場所だと追加のメールが入ってきた、何のことは無い目と鼻の先だ「すぐそこですよ」

 言ってみたもののまた頭を掲げ困惑ポーズ、何か他の目的か?

 手を持たれたまま仕方なく歩き出すと視界がぐにゃりとねじ曲がり気が付けば何故か俺は燕尾服姿で女性をエスコートしている体制になっていた、そして辺りは真夜中の様な真っ暗の世界、街の灯りさえ所々。
(何だよこれ本部のせいかこいつの妖力か)

 俺は一目見た時から察知していた(こいつ普通の人じゃないな)、人の事は言えないなにせ普通の人間かそうでないか一目で判断がつく俺、俺自身普通の人間ではないと小さい時から自覚している、何せ人と同じ数ほど怪しい奴らを見てきた俺だ。

 ただ小さい頃は人か人外か判断できなかった、それほどハッキリと人の姿に見えてしまうのだ。
 その事に早く気が付いた婆ちゃんがお守りを渡してくれた、人外と分かるお守りだ、その婆ちゃんもいまではこんな風に若い娘の恰好で俺の前に現れることも有る、今日のは違うが。

 エスコートしている筈の俺が彼女に手を引かれている、百鬼夜行とは違う方向に。
「お嬢さん目的地は何処?」
「すぐそこよほら見えてきた」

 立派な白亜の御殿、たしか鹿鳴館じゃなかったか。

 意識を読まれた様だ「そうよ鹿鳴館今夜は夜通しパーティよ」
「俺より詳しいじゃないか案内など必要ないだろ」
「そうね相手が必要だったの見掛けだけでも」
「まさか朝まで付き合えと?」
「大丈夫中へ入れば何とでもなるわ、でも少しくらいは付き合ってちょうだい、初めての大舞台なんだから」
「はいはい、で名前は?」
「レッド、、、ソックス」
「それ野球チーム」
「じゃじゃあレッドリボン」
「それはやめとけ誤解の元だ」
「そうなの?ややこしいのね適当に決めちゃってよ」
「適当でいいのかよレッド、、、エンジェル」
「ほんとに適当ねまあ良いけど、天使ちゃんだし」
(悪魔の間違いだろ、言ったら人生終わりそうだな)

 なんとこやつ、失礼このお方招待状まで持っていた、一人でも入れるじゃないか。
「目的はなんだ狐のお嬢様」
「さあ何の事かしら今夜は楽しみましょ」

 しっかりと腕を組まれ強制連行状態。
「逃げやしないけど」
「どうかしら?それに一人のパーティなんて楽しくないわ妖怪ハンターさん」
「妖怪ハンター?誤情報だな妖怪お助けマンなんだが」
「じゃあ聞くけど、いえ乾杯を先にしましょたっぷり飲んでお肉を柔らかくしておいて」
「止めとけ筋金《すじがね》入ってるからな嚙み切れないぞ、それどころか歯がボロボロだ」
「それならトロトロのシチューにして骨まで食べてあげるわ、それを考えたらここのお料理なんて前菜に過ぎないわね」
「いえいえ豪勢な料理が揃っていますよレイディ」
 誰かと間違われているようだ。

 ともかく無事に乾杯を済ませステーキや伊勢海老などを頂いた、会費はすでに払って有るので好きなだけ食べて頂戴なんだと、体中に旨味が回ったら美味しくして食べちゃうぞなんてな。

 ワインや水割りをパカパカ飲んで同じ数を俺にも回してくる、生憎だがワインはジュースだ、水割りはほとんど水だ、アルコールは無敵の俺調査不足だな。

 良い頃合いだと思ったのかいきなり態度も声も変えた。
「三日前に来た銀狐どうしたの、答えによっては咽をかみ切るわ」
「預かってると言うかいくら言い聞かせても帰ってくれない、もっとも人の言葉が通じることは無いだろうが」
「そうもう寝てる時間だわ明日の朝事情を聞いてみるわ、それまでは最後の晩餐楽しみなさい」

 そう言うなり明かりが消えて真っ暗になる、しかし夜目が利く俺はここがビル地下のメインテナンス室だと直ぐに察した、そして廻りには誰もいなくなっていた、狐の女性も。
「ちっ、狐に化かされたか一体何を食わされたんだ」
 妖だとは分かるが術の正体が見抜けない、「まだまだだな」

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