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ネコクインテット スピンオフ作品 (1022文字)

この作品を読まれる前に ネコクインテット【毎週ショートショートnote】
本編の方を先にお読みください。


「ブラボー!」
「今まで聞いたことのない音色だ!」
「なんてアメージングなんだ!」

…半年前

バイオリニスト高嶋は音を探していた。
半年後イタリアで開催される世界クインテット演奏会で披露する「天使のロマンス」に合う音色を探していた。
第一第二バイオリン、ビオラ、チェロに続く第五の音がどうしても見つからなかった。

沖縄に行き三線さんしんの音を聴いたり、青森で津軽三味線の音を聴きまくったが納得いくものはなかった。

そして、ここ祇園のお茶屋で1週間前から次から次へと芸妓を座敷に呼び三味線を弾かせていたが納得できる音は見つからなかった。

高嶋が諦めかけていた頃、祇園一の三味線の腕を持つと言われている芸妓の佳つ江かつえが高嶋の座敷に呼ばれた。

佳つ江が象牙のばちを軽く上から下へ降ろした瞬間高嶋の目の色が変わった。

佳つ江の三味線の音は他の三味線と明らかに音色が違った。高嶋が食いつくように理由を聞いてきた。

三味線に使われる皮は猫と思われがちだが、実は圧倒的に犬皮が使われている。
稽古用の三味線や太棹ふとざお三味線はほとんど犬皮が使われている。
特に津軽で使う太棹三味線は最も厚い犬皮が使われている。

皮が厚いほど重厚な音色になり、猫皮のように薄いと繊細な音色になる。
猫皮は貴重で高価なため細棹ほそざおの高級三味線にしか使われない。
祇園でも猫皮の細棹三味線を使っている芸妓は佳つ江以外ほとんどいない。

そんなことを説明していると、高嶋は一緒に世界クインテット演奏会に出場してほしいと言ってきた。
全く畑違いな場だ。最初は固辞したが、高嶋に粘り強く説得され、最後は「クラッシック界に革命を起こそう!」という言葉に心が動いた。

それから毎日毎日練習に明け暮れた。高嶋は楽器を持つと悪魔になった。全く妥協をしない。
佳つ江は悪魔に魂を売ったことを後悔したが、もはや後戻りはできず練習に励むしかなかった。




半年後 イタリア 世界クインテット演奏会

高嶋たちの演奏が終わると、拍手が鳴り止まなかった。

「ブラボー!」
「今まで聞いたことのない音色だ!」
「なんてアメージングなんだ!」

スタンディングオベーションがいつまでも続いた。

高嶋が佳つ江の方を見てニコリと微笑んだ。
悪魔が天使に変わった瞬間だった。
佳つ江は嬉しかった、やって良かったと思った。

第一第二バイオリン、ビオラ、チェロに三味線を加えたこの五重奏はネコクインテットと呼ばれ、クラッシック界の革命と呼ばれた。


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