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【読書録】UXリサーチの道具箱 イノベーションのための質的調査・分析

調査などで得たユーザの声を反映させたプロダクトを作るというのは多くの企業が行なっていることである。

しかし、「ユーザの声に応えればユーザは満足する」という前提は間違っている。表面的なユーザの「声」ではなく、「真」のユーザニーズを探り、それを分析して可視化することがユーザ調査であり、UXリサーチである。

本書はユーザ調査の7つの手法をイラスト付きで詳細に解説したUXリサーチの入門書である。今回はポートフォリオ制作の一環で行う予定のユーザインタビューに限ってまとめる。

ちなみに使用されているイラストのテイストが2000年代感が強いが、本書の発売は2018年なので内容は新しいものである。

本書の構成は以下の通り。

第1章 ユーザ調査概論
第2章 ユーザインタビュー
第3章 データ分析
第4章 ペルソナ
第5章 シナリオ
第6章 ジャーニーマップ
第7章 ジョブ理論
第8章 キャンバス

”調査”と”評価”の違い

本書より

はじめに確認しておきたいのが、UXリサーチの”調査””評価”の違いである。同じような意味で使われることも多いが以下のような明確な違いがある。

”調査”はデザインで解決すべき課題を発見するための活動で、デザインする前に行うことである。

”評価”はデザインした解決策が有効かどうかを確認するための活動で、デザインした後に行うことである。

もしすでにアイデアがあるなら、「評価」すべきなのですぐにプロトタイプを作ってテストする。

アイデアがないなら、「ユーザを調査」して、アイデアが生まれてからプロトタイプを作ってテストする。

ユーザの声は聞いてはいけない

ユーザの声に基づいてデザインしたのに失敗する…というのはよくあることだが、そもそも「ユーザの声に応えればユーザは満足する」という前提が間違っている。

なぜなら、「ユーザの声」というのはユーザ自身が”素人”分析した結果であり、すでに分析された結果を改めて分析しても新たな発見は生まれないからである。

UXリサーチャーはユーザの”声”ではなく”体験”を入手し、分析する。そこから本人でさえ気づいていないニーズを見つけ出し、ユーザでは想像のつかないような解決策を提案するのである。

アンケート神話とグルイン神話

調査としてよく用いられるのものにアンケート調査がある。
定番中の定番の手法だが、この手法の目的は得られた数値データやカテゴリデータである集団の全体像を推定するための量的調査に該当する。

自社製品のユーザ全体の満足度などを調べるには最適だが、ユーザの個別の体験を事細かくしらべることはできないのでUXリサーチには向いていない。

また他にも座談会方式のフォーカス・グループインタビューも定番であるが、これもUXリサーチには向いていない。

行われるのはディスカッションとなっているので、参加者同士で賛否両論が巻き起こるが、それで得られるのは”ユーザの声”なので前述した理由であまり意味がない。さらに他の参加者の影響で体験を脚色したり、発言時間が少なすぎたりする場合も考えられる。

では、どうすればいいのか?それに答えるのがユーザーインタビューである。

ユーザインタビュー

ユーザインタビューでは「師匠と弟子」という人間関係モデルに基づいて行う。ユーザが師匠、インタビュアーが弟子である(あくまで比喩)。

このインタビューは以下の4ステップで行う。

1.教えを請う:「何を教えてほしいのか」をユーザに伝える。「よく使う製品」、「普段の業務」など比較的幅広い話題から話をすすめ、徐々に特定のトピックへ向かう。

2.根掘り葉掘り:”弟子入り”にはユーザの声をただお持ち帰るだけではダメ。行動や説明に少しでも不明な点があれば根掘り葉掘り質問する。そうしないと”憶測”になってしまう。

3.確認する:話を聞いて一通り理解した内容をユーザに話して確認する。確認中に訂正や追加情報が出るかもしれない。

4.フォーカスを移動する:話がひと段落したら、速やかにフォーカスを移動する。

ユーザは「気難しい師匠」である。なので、話を要約する、話が不完全、例外を除外するという習性がある。

一方「悪い弟子」は次の質問を考えることに必死でユーザの話を真剣に聞いていないこと、また物分かりが良すぎてユーザの話の冒頭だけ聞いて「わかったつもり」になって根掘り葉掘り聞こうとしない。

インタビュアーは上記の4ステップを踏まえて、聞き上手な「良い弟子」になるしかない。

インタビューでの話の糸口を見つける定番パターンは
①体験の有無を聞く②体験の頻度を聞く③直近の体験
という順番。こうすることで、話がもつれることがない。

本書より

質問は「質問責め」ではなく「文脈をクリック」するとよい。話の中に必ずリンクがあるのでそれを質問すれば良い。

また、質問は「はい/いいえ」で答えられるクローズド質問ではなく、話を組み立てて答えるオープン質問をメインで用いいる。

「なぜ?(Why)」を多用せず、「どのように?(How)」を心がける。「なぜユーザは〇〇するのか?」はユーザに聞くのではなく、自分自身が考えることである。

インタビューはアドリブではなく事前に設計しておく。付箋を使って簡単に設計できる。

付箋を紙に貼って設計する(本書より)

①まずクローズド質問を思いつくままにリストアップ。
②付箋をグループに分けて見出しをつける(KJ法と同じ)。
③見出しだけを横一列に並べて質問シーケンスを作る。このとき質問の順番も考える。
④見出しの下に先ほどのクローズド質問を縦に並べてマトリクス形式にする。このとき見出しとクローズド質問の間に付箋一枚分のスペースを開けておく。
⑤下にリストアップしたクローズド質問の回答が得られそうなオープン質問を作成する。
⑥知人などでパイロット調査を行い、質問の順番が合っているかや適切な回答を得られるかをチェックし適宜修正する。
⑦質問が完成したら大見出しを作成する。これが調査における主要テーマになる。これをインタビューガイドとしてドキュメント化して、実際のインタビューに臨む。

なお、インタビューガイドの通りに質問するのは絶対にNG!あくまで冒頭部分や会話のきっかけとして用意しているので、文脈を無視して質問してはいけない。会話の中で臨機応変に順序や内容を変える。


インタビューの経験は学生時代に何度かあったが、やはり事前に質問を決め話の流れに応じて臨機応変に対応するという方針は一緒だったと記憶している。

ただ授業ではアンケートや実験結果のような量的調査がメインとなっていたので当時はその奥深さに気づけなかった。改めて、定性調査の重要性を肝に銘じておきたい。

インタビューの一番の魅力はなんといってもユーザのリアルな体験を知ることができる点なので、本書で学んだテクニックを活かしてインタビューに臨みたい。

本書にはユーザインタビュー以外にも、ペルソナ、ジャーニーマップといった定番の調査手法とその具体的な方法が掲載されているので、ぜひ一読してほしい。


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