同期の与田#3【らじゃー】
与:ごめーん、遅くなっちゃった
〇:大丈夫だぞ、ちょうどメシ用意できたとこだ
与:うわぁー、〇〇最高かっ!!
仕事中に見せない無防備な表情でぴょんぴょん跳ねる。
〇:落ち着け;;;雨強かったけど大丈夫だったか?
与:うん、ちょっと濡れたくらい
〇:ほい
玄関先に用意しておいた、タオルを渡す。
与:え、優しい・・・ってか〇〇完璧すぎん?
急にじっと見つめられて、そんなに真っ直ぐに言われると照れてしまう。
〇:とにかく;;;手とか洗ってこい
与:らじゃー
今週末も仕事終わりに同期の与田と家呑みだ。
いつもは仕事終わりに食材やら酒やら一緒に買い出しに行くんだが、今日はオレが先に退勤したので、諸々用意して与田を待っていた。
今日もいいペースで酒を飲みながら、他愛の無い会話をゆるゆる続ける。
〇:そーいや与田って休みの日何してんの?
与:うーん、ベッドの上で一日過ごす
ほう・・・
与:ごはんもベッドでいけるし
〇:まじか
与:なんならトイレもなんとかならないかなっていつも思ってる
〇:なんだそれ
与:尿瓶とか?買ってみようかな
〇:やめとけ;;;
与田は変なやつだという認識はあったけど、色々と深ぼってみると予想以上に変なやつだった。
それでも与田の醸し出すふわふわした空気感みたいなものが癖になっていて、オレには心地よい時間だった。
〇:今日仕事遅かったけど、なんかあったのか?
与:後輩ちゃんとちょっと残っててね
あー、なるほど
最近中途で入った若い女の子の教育係を任されたらしい。
仕事の時はよく一緒にいるのを見かける。
〇:大変そうだな
与:全然、そんな事ないよ
〇:そーなのか?
与:うん
〇:まあ、オレにも手伝える事あったら言ってくれ
与:ありがと。大丈夫だよ。なんかすごい嬉しいんだよね
〇:嬉しい?
与:うん、私達も先輩にいっぱい助けてもらったやん
〇:ああ
与:今度はこっちが助ける番っていうか、恩返しっていうかさ
与:先輩できるのってすごいありがたいなって思うよね
・・・・・・
・・・・・・
なんだこいつ・・・
普段小動物みたいな可愛い感じ出す癖に・・・
すげー、かっこいい事いうじゃねーか
コイツが同期で誇らしく思うと同時に、心をぐっと掴まれた気がした。
・・・・・・
・・・・・・
与:ん?なに?
急に黙ったオレを不思議に思ったのか、急に距離を詰めてくる。
〇:あ;;いや;;;与田って意外とちゃんとしてるよな
与:おい!!
〇:え;;
与:意外とってなんだー!!
意外という言葉が与田の逆鱗に触れてしまったらしい。
そういうつもりは無かったので慌てて釈明する。
〇:違う、褒めてるんだって;;;
与:ほんとかー?
口を膨らませながら睨みを利かせてくる与田はハムスターにしか見えなくて笑ってしまう。
与:バカにしてるやん!!
〇:してないしてない;;;
与:嘘つけー、わかるぞー
急に膝立ちでオレの背後に回って首をギューッと締め上げる。
与:正直に言えー
いや;;;
めっちゃ当たってるんだけど;;;
後頭部になんかおっきくて柔らかいやつが/////
与:ほら!ごめんなさい与田先輩って言えー!!
〇:なんだそれ;;;同期だろっ;;;
とにかくこれはよくないぞ。まったく苦しくはないが色々と////
与:これならどうだ
スリーパーホールドからヘッドロックに移行する。
これは更によくない;;顔の横に当たってるというか////
なんならもうオレが与田にめり込んでいる状態だ。
〇:すいませんでした////与田先輩////
オレの態度に満足したのか、与田の大きい部分から解放される。
危ない、落ちるところだった;;;;
〇:いや、ほんとにちゃんと先輩してるなーって関心したんだって
与:笑ってたやん
そう言ってまたプクーっと口を膨らます。
〇:それは・・・
〇:なんか可愛いなって思ってさ
与:えっ////
酒で赤らんだ頬を更に赤くして戸惑ったようにこっちを見る。
急に女の子の反応をされてこっちも戸惑う。
〇:あ、ペット的な可愛さの話だぞ;;;
与:おいー--!!!
本日二度目のヘッドロックをギューッとくらう事になった。
一通り宥めて与田が落ち着いた後、またゆるゆると他愛のない話を続ける。
程なくしてスマホを置いて静かになる。
そろそろ電池切れの合図だ。
〇:ベッド行くか?
いつもはこれでおとなしく寝るんだが、今日は呑みたい気分なんだろうか。
頭をふるふる振って目が開いていない状態で酒に手を伸ばす。
〇:与田、そのへんにしとけ
与:んぅ-・・・まだ〇〇と呑むぅ
〇:オレももう寝るし
与:一緒に?
〇:馬鹿言ってないで、ベッドで寝ろ
・・・・・・
〇:またいつでも呑めるだろ
・・・・・・
与:・・・らじゃー
渋々といった感じで返事をする与田をなんとかベッドに入らせる。
与:ありがとね、いつもベッド貸してくれて
〇:いや、いつもじゃないぞ。床で寝てる時あんだろ
与:そーだっけ
起きた時の事も覚えてないのかよ;;;
〇:そーいえば、朝めし何時くらいがいいとかあるか?アラームかけるけど・・・
・・・・・・
〇:与田?
・・・・・・
一瞬スマホに目をやった隙にスッと寝に入っていた。
・・・・・・
早すぎる;;;
・・・・・・
・・・・・・
ふっ、相変わらず気持ちよさそうに
・・・・・・
・・・・・・
手にしていたスマホのせいで、つい魔が差してしまった。
与:んぁー、おはよ
〇:おう
いつものように与田に水を手渡すと、
与:ありがと
いつものようにごきゅっと喉を鳴らす。
与:いただきまーす
いつものように美味そうに朝めしを食って、
与:ごちそうさまでしたー
いつものように洗い物をする。
そんな同期をいつものように駅まで送っていく。
与:毎回送ってくれなくても大丈夫なのに
〇:別に、散歩のついでだ
与:ふーん、〇〇は雨の日も散歩するんだぁー
傘の下から揶揄うような視線をぶつけてくる。
〇:別にいいだろ;;雨も、散歩も好きなんだよ;;
与:ふーん
〇:なんだよ
与:なんでも
・・・・・・
・・・・・・
与:私も好きだよ
・・・・・・
与:〇〇とのお散歩
〇:そか・・・
長いエスカレーターを昇って改札の前に到着する。
与:今週も楽しかった。ありがとう
いつものように仰々しくお辞儀をする。
〇:おう、オレも楽しかったぞ
与:次は・・・どうする?
〇:いつでもいいぞ
与:じゃあ来週もお邪魔しよっかな?
〇:わかった
与:じゃあ、また
〇:おう
改札を抜けてすぐに振り返って小さく手を振る与田。
階段を下りる手前でまた振り返るのが分かっているので、いつものように小さい姿が完全に見えなくなるまで見届けた。
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うわ;;;あいつ/////
さっきまで二人だった一人の部屋に戻ると脱衣所に忘れ物を見つけて、別れたばかりの同期にメッセージを送る。
『ブラジャー忘れてるぞ』
「ごめん。月曜、会社に持ってきて」
まじか;;;;
同期のブラジャーを鞄に入れて電車に乗って出社する・・・
うん、無理ゲー過ぎる;;;
脳内シミュレーションの結果は2秒で出た。
『それは勘弁してくれ』
「じゃあ、来週まで持ってて」
持っててって;;;
これは昨日着てたやつってことだよな///
洗濯とかしておくべきか///
いやいや、勝手にするのはよくないか・・・
やめておこう・・・
『来週忘れんなよ』
「らじゃー♡」
なんのハートだ;;;
それにしてもオレの目には猛毒だ。
何某かの過ちを起こさないように紙袋か何かに入れて忘れる事にしよう。
与田が覚えてれば問題ないだろ。
そう思って安心してしまった。
数日後に妹に迫られるとは思いもせずに・・・
【続く】