中尾よる

小説が好きです。特に純文学。 書くのも読むのも大好きで、no+eに来ました。 よろしく…

中尾よる

小説が好きです。特に純文学。 書くのも読むのも大好きで、no+eに来ました。 よろしくお願いします。

最近の記事

コピー 《エッセイ》

 私は母のコピーです。いえ、私じゃなくとも、きっとほとんどの人は誰かのコピーです。私のように誰か一人の特定の人をコピーする場合もあるでしょうし、何十人もの人の気に入った部分だけ少しずつ摘み取って自分のものにする人もいるでしょう。  私はマザコンです。最初はそう思っていなかったのですが、つい最近知人に指摘されて気がつきました。私が母をコピーするようになったのは、ただマザコンだったからではありません。私が母から認められたくて、母に愛されたくて、自分に自信を持っていたかったからです

    • Guideline 《短編小説》

       フェイクレザーが擦り切れた一人用ソファに身体を預け、俺は深くため息をついた。仕事で凝り固まった身体が緩み、温かい血液がやっと動き始める。見慣れた白い天井はこの三十年ですっかり薄汚れており、まるで新卒だった頃の俺と今の俺を表しているかのようだった。十数年前に同僚が“女性は丸いテーブルが好きらしいぜ”と言った根拠のない言葉を信じて買った、ベージュの丸テーブルは、もうずっと俺の晩酌用となっている。 「……」  丸テーブルの上に置かれた二本目のビールに手を伸ばし喉に流し込むと、ほろ

      • 学校 《短編小説》

        このページを開いてくださり、ありがとうございます。 こちらの作品は「進路選択」と繋がる部分があります。こちらのみでも問題ありませんが、「進路選択」を先にお読みいただけるとより楽しめるかと思います。  キリキリ、と胃が締め付けられるように痛む。多分、緊張しているせいだ。目の前に聳え立つ白い校舎は、まるでレゴか何かで作ったみたいに角張っていて、私の存在を拒絶しているように見えた。正面玄関の透明の引き戸を前に、小さく息を吐き出す。この引き戸を引いたら、もう誰にも守ってもらえない戦

        • 進路選択 《短編小説》

           このページを開いてくださりありがとうございます。最後まで読んでいただけたら嬉しいです!  地味だ、と亜子は思った。  人気のない校門に少し寂れた白い校舎。門の柵の隙間から見える庭は綺麗に整えられているが、それがまた不自然に感じられる。日曜日の昼間だから、誰もいなくて当然なのだろうか。さっきまでいた大通りは賑やかだったのに、ここはやけに静かで、亜子は少し変な気分になった。  休日のこんな時間に、家から電車で三十分かかるこの学校の前に来たのには、亜子なりの理由があった。秋に誕

        コピー 《エッセイ》

          “Living Hell” Bella Poarch 歌詞和訳

          ※意訳している部分があります。 You know I don't believe in ghosts or 私が幽霊の存在も他人との関係も信じてないって letting people close 知ってるでしょ? I'm good at letting go 私は手放すのが得意なの You kiss my lips until they're colder あなたは私の唇が冷たくなるまでキスをする Think you're in control but I should l

          “Living Hell” Bella Poarch 歌詞和訳

          たまごの女 《ショートショート》

          1000文字ちょっとの純文学です。 読んでいただけたら嬉しいです!!  彼女と会ったのは二年前だ。ある朝、目玉焼きでも焼こうと卵を割ったら、その中から現れた。長い黒髪、成熟した身体。背は僕よりも、少しだけ高かった。 「どうしてたまごから出て来たの」 「たまごが好きだからよ」 「たまごの中で、何してたの」 「たまごになってたのよ」 「……ふうん」  彼女はそれ以来、僕の家に住み着いた。たまごになりかけていたところを僕に邪魔された彼女は、見返りよ、と言って朝昼晩僕の冷蔵庫のたま

          たまごの女 《ショートショート》

          憐れんで笑ってあげるから 『短編小説』

          ※こちらの作品は以前投稿した『初めての涙』と連作になっております。こちらだけ読まれても問題ないですが、『初めての涙』を読まれるとよりわかりやすく、面白く読めるのでは……と思います。  松岡先輩が、浮気した。  あたしは最初、それを信じられなかった。だって、先輩はいつも優しかったから。告白してきた時は恥ずかしげに耳を赤くして、緊張で震える声で明後日の方向を見ながら小さな声を絞り出し、好きなんだ、と言った。デートする時はいつも口コミが五分の四以上の所に連れて行ってくれて、もちろ

          憐れんで笑ってあげるから 『短編小説』

          初めての涙 (短編小説)

           彼女はよく泣いた。“しくしく”と横に字がでてきそうに泣くこともあれば、くすんくすんと鼻を鳴らすこともあった。その泣き方は、周りの先生だったり友人だったりの目には可愛らしく映っていたようだが、私は彼女の泣き方を見る度に、そのわざとらしさにうんざりした。瞼の上に薄く、そっと乗せられたアイシャドウを見せるように、彼女が目を伏せ、目の際に溜まった涙がその頬を伝っていく時、私は密かに心の中で悪態をつく。  どうやったら、そんな風に涙をコントロールできるのかしら。  反対に、私はあまり

          初めての涙 (短編小説)

          Because I love them (短編小説)

           残酷描写が入る部分があります。苦手な方は今一度、お考えください。開いてくださっただけで嬉しいです。 ****  こんなことをするのは、久しぶりだった。  そう、二年前の、あの日以来。   「ママ、ねえ、ママってば」  テーブルを間に、向かい合って座っている母を、覗き込むように下から見つめる。母は白い手帳型のカバーがかかったスマホをじっと見て、その右手は絶え間なく画面をスクロールしていた。 「マーマ、スマホばっか見ない」  母はうーん、とかへーとか曖昧な返事をするが、ス

          Because I love them (短編小説)

          唇 (短編小説)

           僕は、彼女の唇を見ていた。その柔らかい唇を。濃い化粧を好まない彼女の唇は、いつも薄く色つきリップをのせているだけだが、艶やかだ。キューピッドボウは綺麗にしなり、下唇は分厚くて、触れたらきっと弾力がある。 「えりさん、今日、泊まる?」  彼女に、譲が聞く。それに合わせて、僕は自らを上下に動かし、舌の振動を外に出した。 「んー、今日は帰ろっかなー」  譲の期待に反し、彼女はスプーンに掬ったインスタントのコーンスープを、口に運びながらそう言う。僕は、落胆した譲の肺から押し出された

          唇 (短編小説)