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胎内記憶のあったムスメの話

ある夜。
ムスメが、まだ3才だった時のこと。
寝かしつけのため、薄暗い部屋でベッドにいると、突然ムスメが
「モモは、また同じマンションに来たねー」
と言いました。

まだまだ空想と現実がごっちゃになる3才児。
なんかまた始まったぞー、と思いながら、訳がわからないので
「前もこのマンションに来たの?」
と話を合わせると、
「うん。」
「ママもいた?」
「いた。」
「このマンション来る前は、別のところにいたの?」
「そうよ。」
「どんな所にいたの?」
「暗いマンション。」
??
さっぱり話が見えてきません(笑)
いったい暗いマンションとは、どこなのか?

そこで、ちよっとふざけて
「オバケいたの?」
と聞くと、ムスメは真顔で
「いない。」
「ママはいた?」
「ママはいない。モモ一人でいたのよ。」

このあたりで、ようやく、あれっ?と思った私。
空想のお話にしては、設定がシュールすぎる…。
そして、突然ぴーんと閃いたのです。
もしや、もしや、これは胎内記憶の話なのでは。
暗いマンションとは、お腹の中のことでは、と。

そこで、
「どんなだったの?暖かだった?」
と聞いてみると、
「ううん。」
「寒かったの?」
「寒かった。」
暗くて寒いお腹の中?
そして、
「モモ、ママ待ってーっ、て言ったのよ。」
!!
「そこから、またママのところに戻ってきたの?」
「うん。」


実はムスメが生まれる前、私は一度、流産を経験していました。
なかなか妊娠できずに、専門の病院に通っていましたが、時は流れるばかりで、治療もどんどんステップアップ。
そして、ようやくある日。
妊娠反応が出て、大喜びしたのですが、日に日に反応は薄れていってしまい、心拍すら確認できぬまま、あっけなく小さな命は消えてしまったのでした。

その時は、すごいショックで涙、涙でしたが、同時に、私でも妊娠できるんだ!うちに来たいと思ってくれてる子が、ちゃんといるんだ!と、嬉しくもありました。


不妊治療は、終わりのない真っ暗なトンネルをどこまでも歩いていくようなもの。
心もカラダも、いっぱい傷つきます。
世の中には、どんなに頑張って努力しても、どうにもならないことがあるのだと、打ちのめされました。
でも、この出来事で、ようやく小さな明かりが、遠くにぽっと灯ったのです。

どうか、この子がまた戻ってきてくれますように!
いつか会えますように!
そう祈ったあの頃のことが、よみがえってきて涙ぐんでしまいました。

あぁ!
ムスメは、あの時の子だったんだ。
本当に戻ってきてくれたんだ。
そう感じました。

もちろん、これは私の勝手な思い込みで、偶然そう聞こえただけなのかもしれません。
ムスメは、全然関係ない別のことを話していたのかも。
でも、私は信じたい、と思ったのです。

その日、弟の生まれたお友だちが遊びに来て、赤ちゃんを目のあたりにしたので、何か、ふっと自分のことも思い出したのかもしれません。


さて、その翌日。
もっと胎内記憶を呼び覚ましてみようと、さらに聴き込みを開始する私(笑)
懲りずに、また暗いマンションについて聞いてみると、
「モモは、シューーって下りてきたのよ。」
と、ムスメ。
おおっ。
なんと、生まれた瞬間のことも覚えているのか、と興奮していると、
「ママも、シューって下りたのよ。キティがいたのよ。」
空想の世界に入ってしまいました。
むむむ…。

その後、ムスメは「ポットーンと落ちた」のだそうです。
生まれる時って、そんな感じなのね。


気を取り直して、
「ママに会う前のこと、覚えてる?」
と聞いてみると、
「おぼえてる。」
「モモ、何してたの?」
「ぐるぐる回ってたのよ。」
確かに。
エコーで見るたびに、頭が下にきたり、また元に戻っていたり。
よく体勢が変わって動いてる子だったので、間違いではない(笑)

さらに、
「そこから、ママ見えてた?」
と聞いてみると、
「見えてた。」
わーお。
なんと胎児は、透視ができるようです。
(本当かいな(笑))

「ママ、何してた?」
「お友だちとお喋りしてた。」
長期入院して、同室の仲間とよく喋っていた時の記憶でしょうか。
それとも、母親学級で知り合った、近所のお友だちのことでしょうか。
胎児は外の音が聞こえているらしいので、そのことを「見えた」と言ったのかもしれません。

「パパは? パパも見えてたの?」
「パパは、見えなかった。」
残念。パパさん。
無口なオットは、存在感なかったようです(笑)
毎日会社で、ほとんど家にいなかったので仕方ないよね。


どこまでが、真実なのか。偶然なのか。
それは謎のままですが、まだ妊娠、出産について、何の知識もないはずの3才児。
なのに、妙につじつまがあう部分もあって、すべてウソとも思えず。
不思議です。

ちなみに、ムスメが小学生になった時には、もう全く覚えてませんでした。
自分が胎内記憶について話したこと自体、すっかり忘れていました。
お喋りがしっかりできるようになり、なおかつ、まだ記憶が残っている時期というのは、本当にわずかなのかもしれませんね。


今年もクリスマスがやって来ます。
私がムスメを妊娠したとわかったのは、ちょうどクリスマスの時でした。
もう、これでダメなら先がないな、
少しお休みした方がいいのかな…と、思っていました。
決して気休めの言葉はかけなかった先生から、初めてはっきりと
「おめでとう!」
と言ってもらえた、あの日。
サンタさんからもらった、人生でいちばん素敵なプレゼントに、嬉し涙したことは忘れられません。

なのに、なのに。
あれほど待ち望んで、やっと授かった我が子なのに。
月日が流れるうちに、いつしか、いるのが当たり前の存在になり、気づけば、いろんなことを求めるようになってしまいました。
人間とは、なんて強欲なのか。

ついつい、もっとああなら、こうなら…と思ってしまったり。
あ~、何でうちの子は… なんて、考えたり。
あげくに、え~~今週ずっと午前授業か…お昼、面倒くさっ、と邪魔者扱い(笑)
 
だ から、クリスマスの時ぐらいは、ちょっと振り返って、思い出すのもいいかもしれません。
どうか、我が子に会えますように、と。
ただただ、元気に生まれてきてくれれば、それでいいと。
それだけを、願い続けていた頃のことを。

ムスメがいてくれるだけで、幸せなこと。ミラクルなんです。

だから、小さなことを気にしたり、すぐイラッとなって怒ったりするなんて、やめよう、やめよう。
どーんとかまえて、笑い飛ばすぐらいになっちゃおう。

例えば、こんな時。
またもや数学で、めちゃ悪い点数を取った、とか。
学校で使う教材を失くして、どこを探しても一向に見つからない、とか。
ちっとも片付けられず、今日もまた雪崩が起きる、とか。
全部片付け終わったと思ったとたん、忘れてたーって、弁当箱出される、とかとか…。



……どーんと、
笑顔でね……




…………いや、
やっぱり無理(笑)




※ 記事中の「モモ」という名前は、仮名です。また会話部分は、当時の育児日記からそのまま引用しました。



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