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1984年「チ・ン・ピ・ラ」


公開 1984年
監督 川島透
公開当時 柴田恭兵33歳 ジョニー大倉32歳 高樹沙耶21歳 石田えり24歳

この映画を初めて見たのは中学生の時で、地上波放送されたものをビデオに録画し、セリフを全部覚えてしまうまで何度も見たのを覚えています。
当時中二病全開だった私は、この映画の中の刹那的な「ワル」の世界観に憧れてしまったのです。

洋一と道夫は、競馬のノミ屋をしながら自由気ままに生活する「チンピラ」。

チンピラとはいわゆるヤクザの準構成員のような立ち位置でしょうか。
今風に言えば「半グレ」かもしれません。
ヤクザの親分、大谷の傘下に属し、いわばヤクザの下請けのような存在なのです。

まっとうな社会人になることも出来ず、かといって本物のヤクザになるほどの覚悟も無い。

この映画で「チンピラ」という存在を定義されたような気がしたのです。

一応、道夫は洋一の兄貴分であり、「みっちゃん」「洋一」と呼び合っているのですが、仲の良さが一瞬で伝わってきます。

大谷親分に呼び出された二人。
要件はなんと、覚せい剤を一時的に預かっていて欲しいというものだった。
組員でない彼らに預けた方が、警察の目をごまかしやすい。
不本意ながらも親分の命令には逆らえず、渋々預かる二人。

この時、二人を迎えた大谷親分の愛人のインパクトは凄まじく、彼女はまさに中学生の私が想像する「ヤクザの女」だったのです。

彼女は訪ねてきた道夫と洋一にメロンを出すのですが、そのメロンの切り方たるや…
皮の部分スレスレに包丁を入れ、身と皮を分離させ、さらに身を一口大に切る。
いい女というのは、メロンの切り方一つとっても違うものだ、と思ったものです。
台所で黒の下着姿でメロンを切る彼女は、少女だった私にインパクトを残しました。

美人で、色っぽくて、肝が据わっていて、気が利いて、健気で…

まさに男性サイドが考える最高の「いい女」と言えますね。
当時大人気だった漫画「ホットロード」「紘子さん」にも共通するものがあります。
中二病だった私は、彼女にも憧れたものです。

道夫たちは管轄の刑事とも通じており、多少の法令違反は目をつぶってもらう代わりに接待をしてご機嫌をとっている。
「おまえらみてえなクズを署内でかばってるから、肩が凝ってしょうがねえよ。女でも紹介しろや」
当時は「太陽にほえろ!」「西部警察」など、刑事と言うのは正義の味方という描かれたかたが一般的だったのですが、この映画のように警察のダークサイドを見せるのは斬新だったと思います。

気ままに生きる二人だが、ある日転機が訪れる。

大谷の親分は洋一に「本物のヤクザにならないか」「お前ならやっていける」
道夫に遠慮する洋一に「道夫は人は良いが、器がな…」

ヤクザの構成員としての修行を始めた洋一。
それを寂しく感じながらも、決して洋一をねたむことの無い道夫。
「今から組に入ったって、ぺーぺーからだ。自分より若い組員に頭下げて。」
道夫のやるせない思い。
当時中学生だった私は、なぜか道夫の情けなさに自分を重ね共感したものです。

ある日、道夫はノミ屋の仕事で大損を出し、大谷から預かった覚せい剤を横流ししてしまう。

組から追われる身となった道夫。

必至で道夫を探す洋一。道夫はデパートの屋上にいた。そこは二人のお気に入りの場所だった…
蒼白で震える道夫の、一回り小さくなったような体…
「死ぬのが怖い」と怯える道夫。
「死なせてたまるか」
洋一は道夫を守るため、脱出経路を必死で確保する。

当時中学生であり、学校の中で薄っぺらな友人関係の中で生きていた私は、二人の友情に素直に感動してしまいました。
この上なく危険な状況だというのに、自分の命を懸けてまで親友を守ろうとする…
まさに無償の愛と言えます。

ラストのどんでん返しはややご都合主義と言えますが、爽やかなハッピーエンド、二人の未来に幸あれと祈りたくなってしまいます

ヤクザの前で怯えるジョニー大倉の不安そうに泳ぐ目線、小心者感は、まさにヤクザになりきれないチンピラそのものといった感じです。
ジョニー大倉を見る映画、と言っても過言ではありません。

彼をキャスティングした監督のセンスを感じてしまいます。
道夫の役を彼が演じていなかったら、ここまでの味は出なかったでしょうね。
柴田恭兵のスター性と、ジョニー大倉の素に近い肩の力の抜けた演技がお互いを引き立て合い、相乗効果を生んだと言えます。

主題歌のpinkの「private story」はどこか切なく哀愁があり、刹那的にはしゃぐ二人の焦りや虚しさを映し出しているように思います。

30代の彼らが主演の映画なのですが、見終わった後、青春映画の後味が残ります。

この映画を見ると10代の頃の記憶が溢れるように蘇り、苦しくなるほどです。

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