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ねむみ 3

 もとはといえば、京子先生の授業が面白くないからこんなに眠くなるのだ。ほぼ教科書を音読していくだけの京子先生の世界史の授業は、小学校中学校と九年間授業というものを受けてきて以来最高に退屈である。教科書を音読し、教科書に書いてある文章をほぼそのまま板書するだけで高校教師が務まるというのなら、僕だって高校教師になれると思う。いや、もしかしたら僕のほうが面白い授業ができるかもしれない。授業中に居眠りをするなと先生たちは言うけど、そんなことを言うなら先生たちだって、眠くならないような面白い授業をするべく努めるべきだ。もうちょっと工夫してくれたっていいじゃないか。

 しかしまあ、文句を言っても仕方がない。今はただ、この面白くなさすぎる授業においていかにしてねむみを追い払うか、ということを考えなければならない。面白くないから眠くなるのなら、自分で面白くしてみようじゃないか。僕は、京子先生の淡白で無機質な教科書の音読に、心の中で逐一大袈裟に反応してみることにした。

 「ヨーロッパでは十四世紀ころから、封建社会の解体や教会の権威の低下がすすむなかで、従来のような教会がとなえる神を中心にした価値観への疑問が高まっていました。」
へええ!!!そうなんだ!!!
「また、イスラーム世界やビザンツ帝国との交流をつうじ、ギリシア·ローマの古典文化を再認識するようになりました。」
古典文化か。ふむふむ。
「その根底には自由な人間性を高めることで、現世の生活の充実をめざすヒューマニズムという精神がありました。」
ふーん。ひゅーまにずむねえ。
「東方貿易などで繁栄していたフィレンツェをはじめとするイタリアの諸都市では、こうした情勢のもとでルネサンスとよばれる新しい文化創造の活動が始まりました。」
知ってるよ。中学で習ったもん。
 ……だめだ。世界の歴史なんてそもそも興味がないから、自分で面白くしようとしたって無駄だ。楽しくもなんともない。いちいちオーバーにリアクションするのも、飽きるし疲れる。

(続)

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